構築された情熱ースクロヴァチェフスキの「田園」

<ベートーヴェン交響曲全集より>
交響曲第5番ハ短調
交響曲第6番ヘ長調『田園』



スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮
ザールブリュッケン放送交響楽団
2005.10.3111.3 グロッサー・ゼンデザール、ザールブリュッケン
プロデューサー トーマス・ライジング
レコーディング・エンジニア ラルフ・シェーネルバッハ
独エームス OC506(5CD)


指揮もする作曲家繋がりなら…
ミスター・Sこと、スクロヴァチェフスキもそうだ。
毎年のように来日して、日本人にはすっりお馴染みになったが、本格的に注目されたのは1996年2月に、NHK交響楽団の定期演奏会を立て続けに振った時から。
ネコパパも、そのときのFM生中継を聴いて、一度でファンになってしまった。
特に圧倒的だったのは、シューマンの交響曲第4番。
ライヴにも出かけた。ブルックナーの「ロマンテイック」
1996年当事、既に73歳。
それからもう19年も経ったのに、彼は変わらぬ風貌と活力で、日本のステージでも活躍している。
来年1月には、読売日本交響楽団とブルックナーの第8交響曲を演奏するそうだ。きっと、チケットはもう完売だろうな…

それでは彼の「田園」を聴いてみよう。
 
1楽章
ディミヌエンドをかけながら、優美に歌うテーマで始まる。
一瞬の間を入れ、チェロがたっぷりした音量で受ける。オーケストラの響きは、透明で軽やかだが、支えの低音部は十分な手応えがある。フォルテになると、体温の高く、血が通った押しの音色が響きわたる。
フレーズは短めだ。けれど一辺倒にはならず、自在に伸縮してニュアンスを込める。ここはフルート、ここはオーボエ、ここは弦の刻み…と、聞かせたいパートを巧みに前に出し、その部分のおいしい曲想を浮き彫りにしていく。ただリズムを刻んでいくだけのような箇所も、音の一つ一つがよく吟味され、手応えがある。
終盤の長いフレーズは、どこまでも上っていくような息の長いクレシェンドに、ホルンの明瞭な高鳴りがアクセントを加える。すべてが生まれたばかりのように新鮮だ。

2楽章
最初の一音から音が生きている。
鮮明に歌われる主題。弱音部でさえも音がきりりと冴えている。テンポの動きや抑揚ではなく、微妙な音のさじ加減によって色が変わり、ニュアンスが生まれる。
例えば、チェロにファゴットがそっと音を添える、一瞬の色調変化。
楽器の重ねあわせを巧みにコントロールによって、水の波紋が重なるように音が紡がれていくのである。
小鳥の歌も、強弱の変化を付けた微妙な表情が美しい。フルートの背後に遠くから忍び寄るように、オーボエ、クラリネットが入ってくる。

3楽章
急がずゆったりと進行。クラリネット、ファゴット、ホルンの躍動感。とくにクラリネットの音色がいい。トリオも急がず進み、経過句は一気に加速する。

4楽章
強い音はあくまで弦楽を中心に、ティンパニは背後から突き上げるような強さで響かせる。テンポは遅め。弦の刻みやフルートの一閃など、緊迫感を漂わせつつも、音は濁らず、各パートのくっきりとした鮮度感を失わない。無理をしないクライマックスを過ぎ、嵐が収まると、オーボエ、フルート、クラリネット、ホルンが、順にクレシェンドしていき、フィナーレへ。

5楽章
はじめのテーマは弱め。ヴィオラが加わり、全奏…ここで思わず強く演奏しそうになるオーケストラを、すかさず「シーッ!」と制止する指揮者の声。溜めに溜めたのち、やっと強くする。
一つ一つのフレーズはいとおしむように、強弱や陰影を付けて歌われるが、中盤以降は、次第に熱と力を増していき、フレーズも長くなる。チェロが強くせり出してくる部分も気迫がこもる。コーダ近くのクライマックス、あの、ワルターが大きな強弱の波をつけた部分では、大きなディミヌエンドで感情表現。そしてコーダは、ゆっくりと締めくくられる。

モダンスタイルによる、オーソドックスそのものの演奏なのに、
なぜこれほどに新鮮で、心が動かされるのか。
この演奏には、繊細さと豊かさ、細やかさと情熱が同居している。
それは指揮者が、いわば「月の目」を持って譜面のすみずみまで読み尽くし、音楽を生かしきろうとしているからだろう。
しかし、いざ演奏の現場に立てば、「知性」や「分析」といった、いわばデジタル部分は陰に回り、「気迫」「情熱」「歌心」というアナログ部分を押し出してくるのだ。
離れ業である。

このベートーヴェン全集は、スクロヴァチェフスキのそんな「構築された情熱の音楽」を、全ての曲から聞き取ることができる。
名品、と呼べるセットだと思う。





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コメント

コメント(2)
No title
スクロヴァチェフスキーの、とりわけブルックナーに対する熱狂ぶりは、なんとなくかつての朝比奈人気を思い出すものがあります。
この人のブルックナーはテレビでしか聞いたことはありませんが、それでも強烈な印象を残すものでありました。

作曲家としてのスクロヴァチェフスキーも、彼のベートーヴェンも、私はまだ未経験です。
絶賛のご評価を拝読しますと、このベートーヴェン全集はかなり気になります(笑)

gustav_xxx_2003

2015/10/31 URL 編集返信

No title
グスタフさん、彼の音楽は「構築された情熱の音楽」なので、すみずみまで施された構築が「小細工」と感じられたり、逆に分析の行き届いた知的な演奏を好む人からは「感情が混じりこんでいてうっとおしい」と感じられたりする可能性もあります。
また、友人も彼のブルックナーを「考えすぎていて息苦しい」と言っていました。この「田園」も、個人的には後半の抑制か効きすぎているという気がしないではありません。それでも現在、これだけ巨匠的な指揮ができる人がほとんど見当たらないのも確かです。

yositaka

2015/10/31 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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