氷柱のような叙情が漂う、ギーレンの『田園』

<ベートーヴェン交響曲全集より>
交響曲第5番ハ短調
交響曲第6番ヘ長調『田園』



 
ミヒャエル・ギーレン指揮
SWR(バーデン・バーデン、フライブルク南西ドイツ放送)交響楽団
録音 1997.12.1 フライブルク・コンツェルトハウス
独ヘンスラー
CD93.285(5CD)
 

シェルヘン、レイボウィッツ、ツェンダーと、作曲家兼指揮者の流れで「田園」を聴いてきた。
次に頭に浮かんだのはミヒャエル・ギーレンである。

彼の名は、専らFM放送でクラシック音楽を聴いていた学生時代「現代の音楽」という番組で、ブルーノ・マデルナとともにしばしば耳にしていた。
そのギーレンが、古典音楽の指揮にも力をいれていると知ったのは、1980年代のCD時代になってからである。
当時から「強面」の印象のある人だった。
ウイキの説明文もちょっと怖い…

 
ミヒャエル・ギーレン(Michael Gielen, 1927720 -)は、ドイツの指揮者、作曲家。現代音楽を得意とし、グスタフ・マーラーやアーノルド・シェーンベルクなど大編成の楽曲を精妙で色彩豊かなアンサンブルで聴かせる。独特の容貌もあって、「冷血」、「切れ味鋭い」、「ガンガン」などの表現がよく使われる指揮者であるが、近年の演奏では大家の風格を備えてきているともいわれる。

 
けれど、避けて通るわけにもいかない。
勇気を出して全集を購入し、聴いてみることにした。一枚ものでもよかったのだが、ネットで見たらなんと、全集でも同じくらいの価格だったのだ。
その結果は…
 
1楽章 
駆け出すような、くっきりとした主題提示で始まる。速いテンポで、一直線に進んでいくイメージだが、「冷血」では決してない。フレーズは微妙に伸縮し、第1テーマと第2テーマの間に一瞬の間を入れたり、ファゴットが絶妙のディミヌエンドを聴かせるなど、一気呵成に進行すると思わせながら、細部に微妙な情感を漂わせる。ただ、楽章全体に大きな強弱のうねりはなく、音のつくりは中音にぴしりと寄る。低弦は目立たず、ホルンも抑制された吹奏。そうした部分に期待して聞くと、ちょっとそっけなさ過ぎる印象もある。

2楽章
個性的な響きが頻出する。速い第1楽章の後なので、随分ゆったりとした演奏に感じる。クラリネットのソロを支えるヴァイオリンの漣が、通常の上行音ではなく、高いところがそっと降りてくるような下行音に聞こえるのが新鮮。後に続く弦の動きには、絶えずデリケートな強弱がつけられていく。木管パートの交代が魅力の楽章だが、管は意外にストレートな吹きっぷりで、耳はどうしても背後の弦に行ってしまう。ヴィオラとチェロが解けるように音を寄せる音色感のよさ!
小鳥の歌は、くっきりとしたスタッカートで音を弾ませる。

3楽章
普通のテンポ。長い音がクレシェンドして、スパッと切れ、ファゴット、オーボエ、フルートのソロがはじけ、間隙を縫ってティンパニが打ち込む。けれど、トリオは少しだけテンポアップするだけでさらりと流す。そして経過句から一気に加速して…

4楽章
入りはティンパニ強打で緊迫。しかし、すぐ抑制がかかり、あとは抑えた響きで進行する。中間部の雷鳴の部分も、響きは明るめだ。ギーレンには情景描写の意識はないらしい。音が最大になる部分までぐっと我慢して、一気に盛り上げる。
嵐が静まり、フィナーレを導く木管がテンポを落としていく。
とりわけクラリネットが美しい。

5楽章
テーマは遅めだ。でも音圧は上げず、自然な膨らみに任せる。
ギーレンお得意の、弦の刻みをくっきりと浮かび上がらせるバランス。不動のテンポで淡々と進みながらも、次第に響きは豊かに広がっていく。変奏ごとの楽想も強調はなく、トリル変奏もクリーミイな音色。飾らない音の動きそのものの演奏なのに、不思議に第1楽章のようなそっけない感じがない。音楽自体の充実のせいか、楽員の共感音圧が高まっているせいなのか。
そのままコーダもあっさりと流し、ゆったりと全曲を締めくくる。
 
 
これはギーレンの二度目の全集録音で、映像ソフトのサウンド部分をマスタリングしたものという。
ウィキにいう「大家の風格」を備えてきているからなのか、音楽は予想外に柔軟で、氷柱のような冷たい叙情が漂う『田園』だった。
ネコパパはとりわけ、第2楽章が類例のない個性に満ちた演奏と思う。
作曲家らしい創意が溢れた演奏と呼んでもいいかもしれない。

同時収録の「第五」についても一言。
こちらは、噂どおりの「切れ味鋭い」演奏が展開されている。これと較べると「田園」は、ギーレンのファンからすれば、ずっと円熟した、普通の演奏に近づいた表現と言えるのかもしれない。
機会があれば、1回目の「切れた」録音のほうも聴いてみたいものだ。
でも、それはインターコードというマイナーレーベルへの録音で、残念ながら入手難らしい…
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コメント

コメント(4)
No title
ギーレンのベートーヴェンはDVDの映像で全曲と第9番「合唱」のEMI盤を持っています。いずれも個性的なベートーヴェン。ちょっと私好みではない演奏もありますが、聴いてみる価値はあるでしょう。
この音源とは別のEMIの第9番「合唱」はいただけません。第3楽章が超スピード・・・とんでもない演奏・・?

この田園も第5番も熱烈なギーレン・ファンでなければ、おすすめはしませんね。・・・・と言いつつ全曲持っているのですが・・・

HIROちゃん

2015/10/26 URL 編集返信

No title
HIROちゃんさんはDVDの映像盤をお持ちでしたか。EMIの第9番はおそらくインターコードの原盤ですね。やはり旧録音はキレているようです。新盤と旧盤の間隔は15年あいていますが、それ位で演奏スタイルが激変するものかどうか。案外彼も策謀家で、時に応じてキレた演奏も行っているのかもしれません。
当盤ですが、「第5」はともかく、「田園」は基本スタイルは伝統的ですので、ファンでなくても違和感は少ないと思います。まあ、わざわざ買うほどのものかと言われると…

yositaka

2015/10/26 URL 編集返信

No title
マデルナは大阪万博時の「モーゼとアロン」に接することができましたが、ギーレンを生で聞いたことはありません。
この二人は現代音楽の泰斗として認識しておりましたところ、ギーレンが古典派からロマン派まで指揮しているのを知り驚いたものです。
私は、ギーレンの録音は新ウィーン楽派のほかマーラーまでは聞いておりますが、ベートーヴェンまでは手を出しきれていません。
ギーレンのベートーヴェンやブラームスというと、なんかまだ戸惑いが伴います。

gustav_xxx_2003

2015/10/26 URL 編集返信

No title
グスタフさん、「モーゼとアロン」のライヴをお聞きになったとは…未完成とはいえ、現代音楽きっての感動作ですね。現代曲聞かず嫌いの私でも、あれには脱帽です。
ギーレンがどんな意図で古典までも敷のレパートリーにしているのか、知る由もありませんが、これを聞くと、たしかに彼には「やりたいベートーヴェン」があると感じられます。円熟しているとはいっても、独自の音世界を生み出しているのです。私も今回初めて聞いたなものですが、なるほど…と思いました。

yositaka

2015/10/26 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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