ブラックバイト~若い世代の貧困の現状

中京大学の大内裕和教授は、「ブラックバイト」という言葉を創出した人です。
2015921日、ネコパパはアヤママと一緒に、大内さんの講演を聞いてきました。場所は名古屋国際センターです。
現在の大学生が置かれている深刻な学費不足、その原因となっている奨学金問題。そして生活に苦しむ学生をさらに苦境に追い込んでいる「ブラックバイト」の実態…
お話を聴いて、私たちは暗澹たる気分になりました。
「ぜひこのことを拡散していただきたい」
との、大内さんの要望にお答えして、講演の内容をかいつまんでお伝えすることにします。しばしお付き合いいただければと思います。
 

格差社会の中の若者とブラックバイト
中京大学国際教養学部教授 大内裕和



 1 ブラックバイトの発見

1998年に松山大学に就職したとき、学生アルバイトに変化が出てきたことに気づいた。ゼミで行う年一回の合宿に都合がつかない学生が増えてきたのである。シフトに組み込まれて動きが取れないとか、曜日固定性で抜けられないとか。シフトは三ヶ月前に決まるところもあり、2007年頃から合宿の実施も危うくなってきた。
2011年、中京大学に異動。
アルバイト優先で時間割を組み、アルバイトのために授業を休み、ついには試験を受けられない生徒も出てきた。2013年に学生500人に調査実施、結果をフェイスブックで発表したところ大きな反響が。この現象を『ブラックバイト』と名づけた。

10:0022:00フルタイムのアパレル。年末年始は3人でシフトを回す。
・必要とされる存在と思い込み、親にうそをついてテストも休み学校中退
・労働法違反が頻発、通常化。

若い世代の政治離れが言われるが、自由時間もお金もない今の生活では、世の中に関心が持てるはずもない。中年世代にはビンとこない、このような現状は、なかなか一般に周知されなかったが、NHK「クローズアップ現代」が取り上げてから、若い世代の貧困問題が注目され始めた。
 
2 ブラックバイト対策プロジェクト

2013年「ブラック企業対策プロジェクト」の今野晴貴さんと出会い、プロジェクトに参加して活動をはじめた。朝日新聞の論壇時評にも取り上げられる。

<ブラックバイトの定義>学生であることを尊重しないアルバイトのこと。

低賃金にもかかわらず正規雇用者並みの義務やノルマを課されたり、学校生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い。
また、ノルマを守れないときのペナルティも過酷である。
・家庭教師…やめると罰金50万円。
・アパレル…自費で服を買わされ、その代金で4ヶ月給料ゼロになる。など


3 ブラックバイト登場の背景

(1)生活の貧困化
「どうしてやめないの」と皆が言うのだが、どうしてもやめられない事情がある。
家計が苦しい。
東京都と関東4県、14大学の新入生4330件の調査では、2014年度の仕送り額月平均88500円。前年度から500円の減。家賃を除く一日あたりの生活費は897
過去最低である(最高は90年度の2460)
東京の平均的な家賃はワンルームで8万円。仕送り8万では事実上生活は不可能。
しかし現状は、仕送り月5万未満29.3%、仕送り08.8%…
この20年で急激に下降している。
今の学生の多くは、お金をまったく持っておらず、70年代よりもはるかに貧しいのである。
学生生活の実態が変わった。ブラックバイトをしてさえも、生活費を補うだけの分にしかならないのが実態だ。

(2)有利子奨学金受給者の急増
奨学金制度が無利子の「給付」から有利子の「ローン」に変化してきている。
現在30台半ばまでの人は『奨学金は無利子』という感覚が残っているが、現状は奨学金の70%が有利子。
奨学金を受給している学生の割合は、大学学部(昼間部)で52.5%、大学院修士課程で60.5%、大学院博士課程で66.2%と一般化している。
 
1984年 日本育英会法全面改正で有利子枠創設。
1999年政府が有利子貸与制度を作り、無利子枠は拡大せず有利子枠を10年で10倍に。2007年以降は民間資金導入開始。
2004年 日本育英会廃止、日本学生支援機構へ 奨学金返還免除職も全廃。

(3)奨学金返済の困難
・第一種奨学金…自宅通学の場合、月45000円の貸与を卒業後月128500円を返還。現役就職ですぐ払い始めて、37歳で終了。
・第二種奨学金…毎月10万借りると貸与総額480万円、貸与利率上限3.0%。 返還総額6.459.510円、 月賦返還額26.914円で返還年数20年。→卒業後すぐに払い始めて終了は43歳…
しかも延滞すると、年利10%の延滞金が上乗せとなる。
こうなると元本の返済が困難となり、半永久的に延滞金を支払い続けることになる。
2010年度の利息収入は232億円、延滞金収入は37億円に達する。その利息や延滞金は奨学金の原資に還元されず、金融機関・業者の利益となる。
大規模な「貧困ビジネス」が成立しているのである。 

こうした奨学金制度の劣化がアルバイト必須の状況を生み、奨学金返還があるために、学生はブラック企業に就職しても、やめることができない。
ブラックバイトとブラック企業の問題はまたがっている。
同時に、非正規雇用労働者の急増による労働市場全体の劣化も進行。
若年層のほぼ半数が年収300万以下。そのような非正規雇用労働が補助労働から基幹労働に移行している。
 
4 今後の課題

・学生や若者が「ブラックバイト」を問題として認識すること。
・「ブラックバイト」問題を「ブラック企業」との関連も含めて知識を持ち、社会に広く知らせること
憲法9条だけでは9条を守れない25条「生存権」との連携が必要。
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コメント

コメント(4)
No title
この問題は、大変難しいものを含んでいるように思います。
昭和40年代あたりから急速に進学率が高まり、いままで限られた層が享受していた高等教育が多くの人たちに広がっていったことは決して悪いことではなかったと思います。
その結果、奨学金受給希望者が激増し、それを吸収するため有利子制度ができたのもやむを得ないでしょう。
それに応えて、私立大学が陸続と新設され、まず学校ビジネスが成立してしまいました。
私が学生の頃の国立大学授業料は、月千円でしたが、いつの間にかどんどん高騰し、いまは私立大学の7~8割でしょうか。

ただ、私の周りを見ていますと、かつてのような苦学生はあまり見かけず、日々の生活に加えて遊ぶ金欲しさでアルバイトに励む学生も多々見かけます。
僅かに残る苦学生にとっては深刻な問題であるはずなのに、世間の関心がいまひとつ盛り上がらないのは、そうした状況もありそうな気がします。

この問題が惹起したのは、決定的には、法律で非正規雇用を大きく拡大して、賃金コストの引き下げに誘導したことが大きいようにも感じます。

gustav_xxx_2003

2015/10/22 URL 編集返信

No title
グスタフさん、進学率や産業構造の変化が大きく変わっているため、単純な比較はできないと思います。ただし、現在の大学生に対して私たちの世代の持つイメージは、現実とは相当なズレがあることも改めて感じました。首都圏と地方、都市圏と農村では生活費や家賃も違い、見えているものは違うと思います。私たちは外側からはなかなか知ることができない実態をみつめていく時代に入っているのだと思います。

yositaka

2015/10/22 URL 編集返信

No title
こんばんは。
ブラックバイトという言葉を初めて知りました。

学生の時に、自由さを感じることなく過ごすということになるのかなと疑問を持ちました。

産業の構造が変化して、労働形態が終身雇用制から契約労働制(?)に変化しつつある中で、学生さんたちが負の財産を受け継いでいるような印象を受けました。

学生さんの気質の中に、与えられたバイト条件を守ることが是であるという肯定感があることも不思議に思いました。学校に行けなくなるようなアルバイトとは…

非正規雇用労働者になるトレーニングを積んでいるようにしか思えないのですが、学生さんたちはそれを能動的に受動しているのですね。

格差社会がひたひたと実現されていると感じました。この現実を流布する必要があると思いました。

”音”故知新

2015/10/24 URL 編集返信

No title
音故さん、今しがたやっていたNHKスペシャルでも、労働状況の悪化で中間層が激減し、消費の冷え込み、経済の低下が拍車をかけるという、あまり明るくない問題を取り上げていました。
とにかく正社員は激務で非正規は薄給、社会保障を手厚くすればその分の減給を要求される。若い世代に希望の語りにくい時代だと思います。これじゃ児童文学も内容が屈折してくるわけです。
大内さんは厳しすぎる現状を黙って飲み込む学生の背後に、教育の影響も大きいと話しておられました。苦しみに耐えることを美徳とする集団主義教育の問題。私も教育の仕事に携わっているだけに、痛いところを突かれた気持ちもありました。教育現場も知らなければならないことがたくさんあります。
事実をなるべく正確に、伝えるべき人に届ける。それがまず必要でしょう。

yositaka

2015/10/24 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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