クールな感覚と繊細な隠し味ーレイボウィッツの「田園」

ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」



 
ベートーヴェン交響曲全集から
ルネ・レイボウィッツ指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

R 1961.4 ロンドン、ウォルサムストウ・タウンホール
プロデューサー チャールズ・ゲアハート
エンジニア ケネス・ウィルキンソン
リーダーズ・ダイジェスト・レコード RBS17(国内盤LP日本ビクター製造)
 
 
シェルヘンを二種類聴いたら、一部でこれも快速のユニークな演奏と言われているルネ・レイボウィッツ指揮のレコードも聴いてみたくなった。
ネコパパが架蔵しているのは大変古い、通販用の7枚組全集である。
以前、路上のワゴンで投売りされていたのを二束三文で買い取った。
ケースはすっかり朽ち果ていてガタガタなので、コンディションが心配だったが、盤自体は意外にきれいだった。両面に一曲のゆとりのカッティングで、鮮度の高い録音を愉しむことができた。
 
1楽章、シャープで整然とした音色で開始。決して快速ではなく、普通のテンポである。思い入れのないインテンポで、らくらくと進めていくが、フォルテになると、フレーズの終わりをタンッ!と思い切りよくカットする棒捌きが爽快だ。音のつくりはノンレガートで硬質だが、冷徹な感じはしない。いかにも颯爽と田園を散歩する英国紳士といった風情が漂っている。

2楽章も、素朴ですっきりとした弱音が全曲を一貫する。一音一音にニュアンスを込めるよりも、全体の響きと自然な流れを重視した解釈。聴いていて感じるのは、どこまでも雑味のない清潔さである。

3楽章。例によってあっさりと始まるが、主部ではホルンの音がよく立ち、弦との会話を繰り広げる。オーボエの音色も素敵だ。トリオに入ってもテンポや色合いを変化させない。

4楽章。少しも無理をしないで、広がりと力強さを押し出してくる。各楽器とも最上のバランスでよく溶け合う。その中でもティンパニと金管を微妙にずらしたり、フルートの一節を一瞬突出させたり、「気づく人は気づく」小技をまぶしてくる。

5楽章、テンポを心持ち遅くして、ここまでは聞かれなかった立体的な音楽を構築していく。強音が熱を帯び、音圧も次第に高くなっていくのは、クールなスタイルをはみ出そうとする楽員たちの自発性だろうか。
各パートが鮮明に見渡せ、ピチカートが煌く。そして、音をつないでゆったりと歌いあげるコーダに到着する。



 、
レイボウイッツ(1913-1972)は、ポーランド出身のユダヤ系作曲家、兼指揮者。前衛的な現代音楽の尖峰に立った一人だったらしい。
おそらく「ユニークな演奏」もしたのだろう。
けれどもこの「田園」は基本的にオーソドックスな演奏である。
ただ、全体を包むクールな感触と、繊細な手つきで紡がれた、さりげない表情が隠し味となって、どこかダンディな感覚の演奏となっている。
 
全集を企画したアメリカの出版社リーダーズ・ダイジェストは、録音製作をRCAに外注。担当プロデューサーのチャールズ・ゲアハートは、録音スタッフに名録音技師ケネス・ウィルキンソン率いる英デッカのチームを起用する。
売れ行きは良かったのだろう。レコード企画はその後も継続される。スタッフは、通信販売目的という抜け道を使い、RCAにも英デッカにも属さない演奏者を多数登用して、かなりの録音を残した。レイボウイッツは、ホーレンシュタインと並び、中核を担う指揮者となる。

1960年代は、出版社とレコード会社が手を組んで、クラシック音楽を広く行き渡らせた時代でもあった。この全集には大部な解説が添付されていて、録音の発端となったエピソードがゲアハート自身の執筆で掲載されている。

フランス音楽の収録後に立ち寄ったパリのカフェで、レイボウィッツはゲアハートにベートーヴェンの第5交響曲が正確な演奏で録音されていないと主張、スコア片手に数十箇所のミスをたちどころに指摘する。その会話の中で二人は、
「では、われわれで真に正しい交響曲全集を録音しようじゃないか」
と、意気投合する…
そしてオーケストラ、録音場所の確保、主任技師(ケネスのことだろう)との録音バランスをめぐる対話、録音現場の様子などが詳しく報告される。

内容重視、採算度外視の牧歌的な時代のレコーディング…これを読みながら聴くと、一曲一曲が一層味わい深いものに感じられてくる。





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コメント

コメント(8)
No title
懐かしいですね、掲載されたBOXの写真。もっともカタログのみで、あったわけではないですが、フィードラーのBOXや名曲集というのはありました。そしてこのレネ・レイボヴィッツもこのリーダースダイジェストで知りました。他にアレクサンダー・ギブソンやルドルフ・ケンペ、ヤッシャ・ホーレンシュタインの名前もです。レイボヴィッツは実は凄い先生だったのだそうですね。今手許にはそのレーダースダイジェスト用に録音されたムソルグスキーの「展覧会の絵」と「はげ山の一夜」があります。

SL-Mania

2015/10/19 URL 編集返信

No title
レイボウィッツのベートーヴェン交響曲は全9曲持っていますが、意外とオーソドックスな演奏だと思います。若干、物足りなさは感じます。2、6、8番あたりがいいかな~・・・

HIROちゃん

2015/10/19 URL 編集返信

No title
SL-Mania さん、私たちの年代は少年期にこの種のセットの販売攻勢に出会っていたんですね。ただ、買うのは親でしたので、その散財がのちにクラシックファンを育てる苗床になった可能性があります。私のところはタイム・ライフのソノシート付きのダイレクトメールがそれにあたりました。
お書きになっている「禿山の一夜」は、レイボヴィッツの超個性的演奏の代名詞のように言われているものですよね。

yositaka

2015/10/19 URL 編集返信

No title
HIROちゃんさん、噂とは違って基本を踏まえた演奏ですので、過大な期待は持たない方がいいでしよう。ただ、指揮者がロイヤル・フィルから引き出している音自体は、清廉な透明感を持っていて、そこに独特の魅力があるのは確かです。
また、「第5」はさすがに疾走感も出しています。

yositaka

2015/10/19 URL 編集返信

No title
そもそも全9曲に均等な思い入れを持っているわけではないですが、レイボウィッツのベートーヴェン、ぼくは非常に鮮烈に感じました。
タイムライフのソノシート付きのダイレクトメール!!初めてその名を耳にした未知の企画に興味津々です

Loree

2015/10/19 URL 編集返信

No title
レイボヴィッツという名前は、音楽よりもシュールレアリズムの解説本の中で最初に覚えたように思います。
のちに指揮者としての活動にも気づきましたが、残念ながら、その録音はまだ聞いたことがありません。

リーダーズ・ダイジェストは、その昔は本屋さんの割といい場所に積み上げられていたように記憶しています。
何気なく一冊買って家で読んでいたら、親父に「そういうアンチョコ本は読むな、ちゃんと全部を読め」ときつく叱られたので、すっかり離れてしまいました(笑)
ただ、大きな本屋さんには、このBOXでしょうか、箱入りLPが飾られていて、リーダーズ・ダイジェストがレコードも売っているんだと驚いたことは覚えています。

gustav_xxx_2003

2015/10/20 URL 編集返信

No title
ロレーさん、「田園」は9曲中でも穏当な演奏で、「第5」「第7」などではシャープな切れ味もあります。ただ全体としては斬新な解釈よりも、雑味のない響きを引き出した演奏と感じます。61年当時は厚みや重量感のある独奥の伝統的なスタイルが主流でしたので、異彩を放つ演奏と受け止められたのではないでしょうか。
ダイレクトメールは「交響曲」「協奏曲」の販促用のものが各一通ありました。
交響曲のものにはカラヤンの「第九」リハーサルの一部が、協奏曲のほうは収録曲のさわりが時代順に収められていました。わずか数分の片面ソノシートでしたが、何度も繰り返し聴いた記憶があります。
「協奏曲選集」の実物は6年前に入手。記事にしています。http://blogs.yahoo.co.jp/izumibun/24638931.html
手に入れたときは、感慨深い思いでした。

yositaka

2015/10/20 URL 編集返信

No title
グスタフさん、「リーダーズ・ダイジェスト」の日本版も売れていたのでしょうね。広告が多く、薄い紙が使われた小型版で、その名のとおり各分野の話題作の抜粋が掲載されていました。
この社は児童向き雑誌「ディズニーの国」も出しました。編集には今江祥智が携わり、田島征三、長新太、手塚治虫、北杜夫らに多くの作品を依頼して児童文学の世界に新風を吹かせる場にもなったのです。

yositaka

2015/10/20 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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