マイルス、ドリーブ、フォーレ

8月29日、毎年夏の恒例になったbassclef君宅の聴き会では、珍しくクラシックの話題が多く出た。
bassclef君はベース弾きだけあって低弦楽器のチェロが好き。
最近入手したカザルスのベートーヴェン、チェロ・ソナタ第3番のGR盤LPもすっかりお気に入りだし
近頃はそれだけでなく、モーツァルト、ブラームスのクラリネット五重奏曲などにも心惹かれている様子だ。
その、フリードリヒ・フックス(cl)とウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の日本録音LPをプレゼントしたsige君も、そんなbassclef君の変身ぶりに、仲間が増えたとにんまりの顔である。

そこで話題に登ったのが、マイルス・デイヴィスの一枚だ。
数多い名盤の中でも、bassclef君が特別に愛好している「マイルス・アヘッド」である。
初版のモノラル盤ジャケットはこれ。



ジャズ・ファンには周知のことだが、
これはマイルスがマイナーレーベルのプレスティジから、メジャーの米コロムビア(現在のソニーレコーズ)に移籍まもない時期の作品。ギル・エヴァンス率いる19人のジャズメンからなるオーケストラが、哀感漂うよう色彩的なサウンドを漂わせる中、マイルスのメロディアスなアドリブ・ソロが響き渡る。

アレンジとアドリブの交錯する長い演奏を数多く収録し、編集で繋げたり部分的にオーバーダビングして、じっくり仕上げたアルバムなのだという。
そのためか、ジャズ盤としては「作り込まれた感じ」が不可思議で、ネコパパは、これまであまり親しんでいたレコードとは言えない。
けれどbassclef君(の薀蓄)と一緒に聴いていると、これが味のある、かっこいい作品に聞こえて来るから不思議だ。
家でも何度か聞いて、ようやくその魅力が身に染み渡ってきたところである。

ジャケットに白人女性を使ったことで、マイルス激怒。差し替えられたジャケットデザインがこれ。80年代に初めてステレオ盤も発掘された。




bassclef君は、このアルバムにクラシックを原曲としたものが2曲あることを指摘。
ネコパパも気になりだし、ちょっと確かめてみることにした。
ひとつは、二曲目の「THE MAIDS OF CADIZ」、もうひとつは6曲目の「BLUES FOR PABRO」だ。
最初の曲はレオ・ドリーブの曲という。バレエ「コッペリア」「シルヴィア」やオペラ「ラクメ」が有名なフランスの作曲家だが、これは?
検索すると「カディスの娘」。バレエやオペラとは関係のない歌曲という。
ネットと動画で幾つか聞いてみた中で、飛び抜けて美しい歌唱があった。
ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスのソプラノ。
歌の翼に」というアルバムに含まれたものだ。さっそくCDを入手してみると、これがすばらしい。




原曲は、ビゼー「カルメン」に出てくる「ジプシーの歌」にも似た、軽快なボレロ調のはずんだ曲で、野外でうきうきと踊り戯れ、笑いこぼれている奔放な娘たちの歌という設定。
ロス・アンヘレスはその奔放な曲調をまったく強調せず、例の気品ある歌い口で優しくまろやかに歌っていて、実に味わい深い。

一方、マイルスのTHE MAIDS OF CAIZは、
「アランフェス協奏曲」の一節のような淡いオーケストラの序奏に続けてこのテーマを非常に遅く、哀愁込めて歌い上げている。奔放な娘たちの姿は全くないが、この「濡れた高音」は別の意味でセクシーだ。

BLUES FOR PABROの方は、ギル・エヴァンス自身、マヌエル・デ・ファリャの「三角帽子」とメキシコの作曲家カルロス・チャベスの曲を参考にしたと言っている。ファリャはスペインの作曲家で、カザルス同様、フランコ独裁政権に反対して亡命した人だが、なんと、生まれはカディス。
冒頭のファンファーレは、どうやら「三角帽子」の第3曲と第4曲の後半に出てくる舞曲「ファンダンコ」のテーマが元らしい。参考にしたCDはエルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団。演奏はまさに鮮烈。音質も同様。



でもチャベスは…不明。
もし知っている方があればぜひネコパパまでご教示を…


こちらも「カディス」同様、ギルは早いリズミカルな曲を遅く切々たるものに改変している。それがまたマイルスによく似合う。
「マイルス・アヘッド」には、タイトル曲や「ラメント」など軽快なテンポの曲も含まれるのだが、全体の色調は哀愁よりで、bassclef君お気に入りのMY SHIPもそうである。
彼の絶妙のコメントをここで紹介したい。

マイルスは、ほとんど原メロディを吹いてるだけなんだが、この「マイルス・アヘッド」の流れに中で、聴かされると・・・何か別の曲のように聞こえる。説明しづらいのだが、「普通のスタンダード」という感じではないのだ。どうやら、ギル・エヴァンスの「哀愁アレンジ」が醸し出すあのアトモスフィア(雰囲気)に、この盤全てが、包み込まれてしまったのかもしれない。そうして、そのアトモスフィアに、マイルスの「あの音色」が溶け込んでいく・・・。どうにも魅力的な音楽だ。ああ・・・マイルスは素晴らしい・・・。(bassclef君のブログ「夢見るレコード」より)

こうして聞いてみると「マイルス・アヘッド」は
ギルとマイルスのコラボ第二作「スケッチ・オブ・スペイン」と地続きの作品だったことがよくわかる。
それにしても…ドリーブもビゼーも、ドビュッシーもラヴェルも、
そしてギルもマイルスも、みんなスペインに憧れを抱き、音楽をつくった。
いったいそこには何があったのだろう。


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コメント

コメント(6)
No title
(その1)やあ、夏の終りの3人会の様子をまとめてくれてありがとう!ジャズ好きの僕がクラシックを聴く~というのも恥ずかしながら・・・なんですが、クラシックと言っても、まずは演奏家~その個性を楽しむという観点からしか聴けてないです。作曲家の楽曲と指揮者の違いによる味わいみたいな聴き方はまだまだ無理で、そうなると交響曲よりも、協奏曲(特にチェロ協奏曲に惹かれる)や、室内楽(弦楽器の鳴りをたっぷり聴ける)それから「クラリネット~重奏曲」みたいに、それぞれの楽器の個性が味わえるフォームが聴きやすいのです。ジャズで言えば・・・個人のソロが大きくフューチャーされている状態ですね(笑) で・・・そうなると、やっぱり「無伴奏」もいいんです(笑) カザルスのチェロには本当に惹かれました。あの気合のこもった音色・・・音楽は魂だ!ってな感じのカザルス独自の強いリズム感・・・好きですね。
この前の聴き会では・・・偶然ですが、パブロ繋がりで(笑)カザルスからマイルス・アヘッドに話しが変って、最後はやっぱりマイルス・・・で終わりました(笑)

bassclef

2015/09/26 URL 編集返信

No title
(その2)スペイン音楽がいろんな工夫のキーポイントになっている指摘~には、なるほど!です。何故でしょうかね?スペインの旋律や音階という外見的な特徴はあるにしても・・・。
ギルエヴァンス作となっているblues for Pabroの出だしの部分・・・ファリャの曲のどこかの部分らしい・・・とまでは判っても、あれ、よく見つけましたね!同じメロディ(らしくあっても)テンポがあれだけ違うと(ギル版はとっても遅い)まったく別の雰囲気になり・・・おそらくギル・エヴァンスは当時、そういうアレンジに凝っていたのでしょうね。そうして、自身のアレンジに「マイルスの音色」が乗っかることで、うんとその音楽が魅力的になることを発見して、大いに喜んだんでしょう・・・というのが僕の妄想です(笑)

bassclef

2015/09/26 URL 編集返信

No title
やあbassclef君、長文コメントありがとう。
クラシック音楽ももともと娯楽で、メインは個人の名技を楽しむものでしたので、「まずは演奏家~その個性を楽しむという観点」はまったく正統派の聞き方だと思います。モーツァルトの時代も、ロマン派の時代も、多くの人々の音楽の楽しみ方はそれでした。
合奏は、演奏会やオペラの開幕の「ガヤ沈め」や「間奏」としての使用が主でした。ところがイギリスとフランス、ドイツの一部で合奏好きのディレッタントが育ち、作曲家に演奏会のメインとなる管弦楽曲を注文するようになった。それが演奏会用の交響曲の始まりです。以来ずっと、インストだけの合奏は少数の聞き手に熱愛されてきた、ということでしょう。ジャズもビッグバンドのアレンジ物は、同じことが言えそうです。
アメリカやフランスの作曲家のスペイン愛好は根強いものがあり、理由を探るのも楽しそうです。音楽だけでなく、絵画や映画にも現れている気もします。

yositaka

2015/09/27 URL 編集返信

No title
かなり前の日曜日、NHKラジオ第一で1日中ジャズを流した番組があり、そこでギルエバンスが特集されました。若きギルの編曲「禿げ山の一夜」がかかった時、お袋ができぞこないの吹奏楽みたいだなと言いまして、ガクッとしたことがありました。個性的な音を求めて格闘していたギルがマイルスという人格や音色に出会ったことは、大きな可能性の予感を感じたことと思います。哀愁、哀感。マイシップの出だしの大海原へ繰り出そうとする広がり。ジャズやクラッシックの音・技術を駆使しながらギル、マイルスの音世界へたゆたうように私たちは連れ出されます。死刑台のエレベーターがあとか先か忘れちゃったけれど、寂しさと哀感をペット一本で奏でました。深いカップのマウスピースは暗めの音を表出し、ハーフバルブの詰まった音は言えないもどかしさを表出します。

toy**ero

2015/09/28 URL 編集返信

No title
この度お二人の指摘と確認で、原曲の速いテンポがゆったりとしみじみと語られるフレーズに昇華されたギル、マイルス音楽と理解して聞くと、重奏的な音楽だったんだとその深みを感じます。スパニッシュな音は、マイルスでは「フラメンコスケッチ」と「テオ」にも登場しているのはお二人もよくわかってますが、コルトレーンも一回だけ「オレ」で試みており、これもお二人は周知のことです。モード音楽の可能性を求めフラメンコスケールに行ったと言えばそうも言えますがやはり図式的なことで、マイルスの一音一音揺るがせにしない緊張した哀感の音にしびれてしまいます。そういえば「ソーサーラー」の三曲目もそうだったっけ。

toy**ero

2015/09/28 URL 編集返信

No title
やあsige君、インスト合奏は、どちらかというとBGM要素が強かったんですよ。ベートーヴェンの交響曲にせよ作曲者本人は拘って作ったのでしょうが、観客の大半は単に耳に心地よい曲を求めていたのでしょうから、初演が散々だったのもわかる気がするね。
「死刑台のエレベーター」は、ギル・エバンスを随分刺激したらしいですし、米コロムビアも「あれがヒットするなら…」という腹はあったと思います。とにかくギルのオーケストレーションは、パーカーやブラウニーたちの伴奏をつけたストリングスの編曲とは別次元の芸術性をもっていますね。
スペイン嗜好の問題については、これからも資料を集めてみたいと思います。

yositaka

2015/09/28 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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