ひさびさに、ライヴで「田園」を聴く

先週9日につづいて、しらかわホールでコンサートを聞く。
はじめて聴く団体だが、プログラムに「田園」が入っているので、こりゃ聞き逃せない。


クリンゲン・フィルハーモニカー第11回定期演奏会

2015912日(土)
しらかわホール 18:00開演
指揮  小久保 大輔
ヴァイオリン独奏 辻 彩奈



このオーケストラは、2005年設立。ベートーヴェンの交響曲の全曲演奏を目指して、毎回プログラムに入れてきたという。
今回の「田園」は、その全曲演奏達成の一曲とのこと。
記念すべき演奏会だったわけである。
団員は、東海地区の音楽好きらしいが、プログラムを拝見しても、設立の詳細などはわからない。弦は9,9,6,5,3という中編成で、室内楽の延長として、各パートの濁りのない響きを目指しているそうだ。
その趣旨との関連なのか、メンバーは思い思いのフォーマルな衣装を身にまとうのが流儀らしい。
女性メンバーの色とりどりの華やかないでたちには、クラシックの堅苦しいイメージを払拭しようとする気概が感じられ、なかなか素敵である。
 
<プログラム>
バッハ
管弦楽組曲第3番ニ長調
シベリウス
ヴァイオリン協奏曲ニ短調
<アンコール>
バッハ
無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番~ブーレ
ベートーヴェン
交響曲第6番「田園」 


バッハの組曲から始まる。ここがいかにも昔のコンサート風だ。
よく伸びた、いい響きが高らかに鳴り響く。
このオーケストラ、腕達者の集まりだ。
アンサンブルや音程に不安感がなく、第一ヴァイオリンと金管の音に伸びがある。
序曲の冒頭は、近年の研究成果を反映して速く、ヴィヴラートも控えめだが、ピリオド奏法はあまり強調されず、基本的にたっぷりと音が出てくる。
「エアー」が終わると、後半楽章は切れ目なく一気に演奏して、舞曲らしい、心地よい活力を生み出していった。

ひっかかるのは「エアー」だ。

ヴァイオリンによる主旋律を「歌」と解釈せず、平坦な音階の流れとして直線的に鳴らしていく。支えとなるチェンバロやチェロの動きや音色はも美しく、耳をひきつけるるのだが、旋律に「G線上のアリア」のイメージを期待すると、肩透かし。
音楽史的には、これが正解なのかもしれない。
しかし、歴史の中で一度譜面から発見されてしまった「歌」を、敢えて封印するのはどうなのだろうか。

「全て音楽は同じ。ファンタジーと秩序」と語ったパブロ・カザルスの言葉を思い出す。

二曲目のシベリウス、ヴァイオリン協奏曲は、情熱的なソロが 聴衆を圧倒。
ソリストの辻彩奈は強弱の強い、激しく訴えかける演奏ぶり。楽器の鳴りもいい。
多少の音のミスなどものともしない、全身で訴えかける音楽だ。
オーケストラも、そんな彼女に追い立てられるかのように、熱演を展開していく。
圧巻の第3楽章はソリストもオーケストラも、持てる力を出し尽くし、最後の音が終わるや、客席から響めきが湧き起こる。
アンコール曲のバッハ「ブーレ」は、ため息のような演奏になってしまった。
これは、シベリウスの音楽としては、ちょっと体温が高すぎる…と思う人もいるかもしれない。
でも、音楽はこれでいい。惜しみない「歌」さえあれば。

20分の休憩を挟んで、いよいよ『田園』だ。

第1楽章の始まりは、急がない、レガート気味の出だしに気持ちがこもり、美しいと思った。
これは…と、ネコパパの期待は高まったが、それからあとは
何も起こらない。
展開部は音が広がらず、曲想にあわせての表情や強弱も控えめ…というよりは、ほとんど「音を置いていく」感じの淡々とした音楽作り。
第2楽章に入っても、あまり調子は変わらない。
オーボエ、フルート、ファゴット、ホルンはとても腕達者で、音楽に華を添え、特にオーボエは魅力的。けれど、きっちり拍を刻むだけの棒運びでは、ベートーヴェンが細部に込めた自然のきらめきやゆらぎ、音楽の魅力が、十分に伝わってこないように感じられた。

指揮者の小久保大輔は、第3楽章まで、ほとんど大きなアクションをしない。

わずかな腕の動きで拍を示すくらいで、これはオーケストラから自発的に音楽を引き出そうとする意図なのだろうか。
けれど出てくる音は広がりのない、箱庭的な音楽に聞こえてしまった…
その、彼の身振りが大きくなるのは、第4楽章からだ。
ここでは、十分な音量で嵐の音楽を表現していく。
とくに良かったのは、ピリオド奏法に特有の、打楽器と金管だけで盛り上げるような浅薄な響きがなく、弦楽器が中心になって厚みのあるフォルティッシモを実現していたことだ。
そして、フィナーレ。
「さあ、ここからだ」と言わんばかりに、指揮者の身振りがひときわ大きくなる。
彼はここで、第4楽章以上のスケール感を表出し、大きなクライマックスを作り出そうとしていたようだ。
ヴァイオリンには大きなヴォリュームを要求し、締めのコラールは大きな間を取り、表情豊かに歌い上げる。最後二和音のスタッカート、テヌートの対比も大胆と思った。

しかし…前半で押さえを利かせすぎたせいなのか、
指揮者のアクションの落差ほどには、音楽に広がりと迫力は出ていないように感じられた。
前半は押さえを聞かせて、最後でぐっと盛り上げる…そいういアプローチが有効な曲は、たくさんあるだろう。

でも、交響曲第6番「田園」は?

聞き手の立場での、個人的な考えではあるが、
この曲でそういう演奏をするのは、ちょっと勿体無い気がする。
ベートーヴェンは、冒頭から出し惜しみをしていない。
だからこそ、隅々まで音楽を生かし、語りつくし歌いつくすことで、フィナーレには、大きな感動が待っている…そんな曲ではないか、という思いが、どうしても捨てきれなかった。

ともあれ、シベリウスだけでも、聞く価値は十分の、充実した演奏会だった。
オーケストラの健闘ぶりを大いに讃えたい。





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コメント

コメント(6)
No title
こんばんは。。。
「田園」の生演奏は・・かなり前に高関健/群馬交響楽団で1度聴いただけですね。この時は我が町の市制何周年記念かの特別演奏会だったような気がします。入場料は無料の整理券だけでした。田舎の市なので8割くらいのお客様だったような記憶です。

それにしても、書庫の「田園交響曲の部屋」の投稿をみると、この曲に対する思い入れを強く感じますね。。
私は、どちらかと言うと、単純にこの曲はBGMのように聞き流すのが多いのですが、今度からはじっくりと聴いてみようかとも思っています。(今でもこの曲は全9曲の中で最も面白くない・・・と思っている1人なので、聴きこむと変わるかも・・・)

HIROちゃん

2015/09/15 URL 編集返信

No title
HIROちゃんさん、おはようございます。高関健さんは大阪で一度ライヴを聞きましたが、すばらしい指揮者だと思います。でも8割の入りは寂しいですね。ちなみに当記事のコンサートはほぼ満席でした。
さて、そんなに「田園」に思い入れがあるのか、と聞かれると…うーん、どうなんでしょうか。
少年時代は、確かに「この曲が一番好きだ」と思っていました。しかし現在では、もっとも多くの演奏を聞いてきたために、自分にとっての「音楽の物差し」になっているのではないか、という気がしています。
音楽好きには、誰にもそんな一曲があるのではないでしょうか。
ちなみに、ベートーヴェンの交響曲で面白くない曲というのは、ちょっと思い浮かびません。でも「苦手な楽章」なら、ひとつだけあります。それは「第7番」の第3楽章で、トリオが二回目に出てくる箇所です。

yositaka

2015/09/15 URL 編集返信

No title
拝読しておりまして、シベリウスのところでチ少し前にテレビで見た庄司紗矢香さんの演奏を思い浮かべておりました。
この協奏曲は、静かな情熱を感じさせる演奏が多いのですが、近頃はジャニーヌ・ヤンセンもそうでありましたが、歌心いっぱいに素直に情熱を発散する演奏が増えてきているようにも感じます。
辻彩奈さんというヴァイオリニストは存じ上げませんが、楽しみな方みたいですね。

肝心の田園は、ちょっと肩透かしの演奏であったみたいですね。
コンサートではままあることですが、楽しみに行った曲が全く意に染まなかったときの失望感は大きいですねぇ…

gustav_xxx_2003

2015/09/15 URL 編集返信

No title
グスタフさん、こんばんは。シベリウスは自分自身が優れたヴァイオリニストだったこともあって、ヴァイオリンの機能を知り尽くした上で、なお技巧が目立ちすぎない傑作を書き上げています。情感豊かでありながら、情熱的な演奏にも耐えうる強度も併せ持っているんですね。
「田園」は、多くの指揮者が表現の冒険を行っている曲で、それを知っているだけに「何もしない」スタイルで説得力を持たせるのは大変な難事だと思います。できることなら、譜面だけで勝負するのでなく、名盤と呼ばれる録音にも耳を傾け、それに挑戦するような姿勢で挑んで欲しいものです。聴き手のとんだ我儘ですが…

yositaka

2015/09/15 URL 編集返信

No title
こんばんは。

私はコンサートに行くことはないのですが、
ここ一週間でたまたま、シューリヒト、ワルターとフルトヴェングラーの「田園」を聴きました。
シューリヒトの第2楽章、ワルターの第1楽章と第2楽章が好きです。そのせいか、A面だけ聴くことが多いようです。

シベリウスはチョンキョンファのロンドン盤がお気に入りです。

tan*oi*y*n

2015/09/16 URL 編集返信

No title
tanさん、おはようございます。tanさんはアナログ派なので、アナログレコードでお聞きになっているのでしょう。私も第二楽章が好きでA面聞きが多いですし、演奏する側も特に表情豊かに演奏する場合が多いと思います。それにしても、アナログレコードを見たこともない人たちにとっては、A面と言っても意味が通じないでしょうね。

シベリウス、チョン・キョンファのロンドン盤は私も大切にしています。最近の盤ならヒラリー・ハーンかな…と思っていたところ、キョンファがマーツァルと演奏した凄いライヴCD(ベル・アーム)が出てしまいました。

yositaka

2015/09/16 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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