蓄音機でジャズを…

新聞でこんな企画展が行われていることを知ったので、出かけてみました。
久しぶりに出かけた名古屋市の繁華街。
晴天で、ちょっと汗ばむほどの気温です。
会場の電気文化会館近辺は、「明るい表通り」と呼ぶにふさわしい…そんな日曜日の午後です。


浮世絵とジャズ・オリジナル盤LPジャケットという、ちょっと風変わりな取り合わせなのですが、
これが不思議と、広いギャラリーに調和しているのでした。
「古き時代の記憶と香り」がよく響きあうのでしょうか。
浮世絵は、画題と作者以外にコメントのないシンプルな展示だったのに対して、ジャズジャケットは、収録セッションの内容や、アートとしてみたジャケットデザインの特長について、思い入れのこもった文章が添えられていて楽しく見ることができました。
さて、お目当ては、3時から開始予定の「蓄音機ジャズコンサート」。
2時から整理券発行とのことだったので、早めに並んでいたところ、時間が近くなるに連れて列は長蛇となり、2時にはざっと100人近くになっていました。
定員は60人とのことでしたが、この人気ぶりには驚きました。それでもスタッフの機転で座席は追加となり、全員会場には入れたのは何よりでした。
全体に年齢層は高いのですが、夫婦連れも多く、オーディオ関係の試聴会とは客層が違います。
「蓄音機」には人をひきつける不思議な力があるようです。

プログラムは、こんな内容。





再生装置は1932年に、英国でおよそ300台のみ製造された、高級蓄音機EMGマークⅨ。
この日使用されたのは、世界でも稀少な完動品とのこと。最初の軽快なベニー・グッドマンから、その音のまろやかな質感とさと、思わぬ音量に吃驚です。
ターンテーブルの回転は手巻き式ではなく、モーター駆動とのこと。しかしアンプによる拡声はなく、サウンドボックスの音声をそのまま、紙を幾重にも張り合わせて作られた巨大ホーンに送出するしくみ。

プログラムがまた、よく考えられています。
おなじみの名曲を楽しみながら、スイング、ビバップ、クールと、50年代ハード・バップ前夜までのジャズの歴史をたどっていく趣向。
音質、盤質はどれも良好で、ノイズが気になる盤はまったくありません。

まず、スイング時代の盤では、後半のどんどんディミヌエンドしていく緊迫感がすばらしいグレン・ミラーの「イン・ザ・ムード」、
辛口の編曲で、原曲の渋い崩しと複雑なアンサンブルの精緻さに驚く「明るい表通りで」、
ベン・ウェブスター、ジミー・ブラントン参加の黄金時代、底光りの熱演を記録したデューク・エリントンの「A列車」がとりわけ印象的でした。

続くビ・バップものでは、
「チュニジアの夜」と「ソルト・ピーナッツ」の両曲で、チャーリー・パーカーのアルトサックスの名技に感嘆。
豪華アルバム「ジャズ・シーン」は、この分野では珍しい12インチ盤の組み物。
演奏された一曲はレスター・ヤングのテナーサックスにナット・キング・コールのピアノ、バディ・リッチのドラムスが加わったトリオ作品で、全盛期のレスターはもちろん、鋭く弾むキング・コールのピアノがまた素敵。それに加えて12インチ盤の録音が、飛び切りの「ハイファイ」なのでした。
同じレスターがテディ・ウィルソンとともに伴奏に回った「君微笑むとき」での、伝説的な歌い手ビリー・ホリディは、声は可憐、技は最高。
エピソードばかりで語られる「悲劇の人」ではなく、彼女は正しくプロのジャズ・シンガーであったことを痛感させられる一曲でした。

そして、クール・ジャズの時代。
このころになると、既にLP時代という印象が強いのですが、これらの名盤も、当初はSPとして発売されていたのですね。
キング・コールやビング・クロスビーなどを聴いて、人の声は蓄音機のダイナミックレンジに、まことによく似合うと思いました。当時主流のオン・マイクな録音がまた、歌に血を通わせているのです。
ジェリー・マリガンは音も演奏も、斬新な「室内楽」のジャズ。
こうしたものを喜んで聴いていた当時のファンたちの、耳の肥えっぷりというものは、たいしたものではありませんか。
一方、スタン・ゲッツマイルス・デイヴィス・ノネットは、音の状態がいまひとつ。
特にマイルスは、編曲の出来云々を別にしても、ちょっと余所行きの演奏になっていはしまいか…これを含む、いわゆる「クールの誕生」セッション全体に感じていることなのですが。

全17曲、コメンテーターさんの心配をよそに、プログラムどおりすべて聴き終えることができ、100人の観客は拍手喝采です。
それに応えてのアンコール盤は、ルイ・アームストロングの「マック・ザ・ナイフ」
しかもこれは、マークⅨのほかにビクターのコンソール型手巻き蓄音機と聞き比べるという趣向です。
さすがのビクターの高級機も、マークⅨの底力のある音のあとに聴くと、
いかにもこじんまりとした「箱庭的」な音ですが、親密さや繊細さがしんみり伝わってくる味わいがあり、これはこれで美しいものでした。

マークⅨの誕生した1932年は、ちょうど先日没した母、ネコグランマ誕生の翌年となります。
この日耳にした音楽は、母の人生に、ちょうど重なる時期のものばかりでした。

それを思うと、楽しくもちょっと感傷的な気分も湧いてくる…ネコパパでした。

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コメント

コメント(4)
No title
蓄音機ジャズ・コンサートに行かれたのですか!
割引券付パンフレットを持っていて嫁に「いったら」言われたのに・・・。
このプログラムなら届くレコードをほかっていった・・・。
蓄音機の紙ホーンで聴くシナトラ、ナット・キング・コール・・・(前掛けがいりますね)

チャラン

2015/04/27 URL 編集返信

No title
≪豪華アルバム「ジャズ・シーン」は、この分野では珍しい12インチ盤のアルバム≫
~これはSP6枚組の写真集が付いているやつ・・・三島のレコード仲間(パラゴンさん)がお持ちでしたね。聞いたところによると5000セット限定とのこと。ジャズが真に生きていた時代の逸品ですね。
Yositakaさん、お母さんのこと・・・お悔やみ申し上げます。たいへんに個性的だったお母さんのことを想いつづった前回のブログ、読みました。、自分の母親であった人物への足跡というか、ひとつの記録として何か形を残しておきたい・・・そんな心情だったのかなと思います。あのように「書く」ことで、残された人間の気持ちも浄化されていくのかもしれませんね。
事情が許せば、またレコード聴きでもしましょう。

bassclef

2015/04/27 URL 編集返信

No title
チャランさん、実は行ってきてしまいました。
予想を超える蓄音機の威力にまずおどろきました。音質はもとより、100人収容の会場に、難なく音を響き渡らせるパワーがあるのです。
次回は6月20日、「大黒屋」という和菓子屋さんの二階で聞き会が開催されるとのこと。予約はしましたが、今度こそは60人限定とのことで、抽選結果が心配です。チャランさんも割り込める可能性があるようでしたら、どうぞ。

yositaka

2015/04/28 URL 編集返信

No title
bassclef君、痛み入ります。
そんなわけで先日は思わぬドタキャンになってしまいました。
母との付き合いはなかなか微妙なところもありましたが、よく考えると、本質的なところではしっかりと気質が遺伝していると思います。これからもご迷惑とは思いますが、お付き合いください。
さて、「ジャズ・シーン」はまさしく「あの」アルバムです。
5000セットのうち、良い状態で現存しているものは少ないのでしょうが、三島と、ここと、二度も出会ってしまったということは…持つべき人の手には渡っているということなんでしょうね。

yositaka

2015/04/28 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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