有名な稀少盤、ライマーのピアノ協奏曲

DECCA《ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団エディション》をきく⑳


CD18
ベートーヴェン(マーラー編):弦楽四重奏曲第11,「セリオーソ」
ブラームス(シェーンベルク編):ピアノ四重奏曲第1番~
クリストフ・フォン・ドホナーニ(指揮)[録音:1995年]



 
「セリオーソ」は冒頭から切れのよいアンサンブルが迸る。
緊迫感にあふれた曲想もあって、ぐんぐん引き込まれてしまう。
しかしドホナーニは、基本的には知性を重んずる人。
例えば、アルバン・ベルク四重奏団のような、激情の渦に聴き手を巻き込んでいくスタイルとは違って、一歩距離を置いているような冷静さが感じられる。
ここでは前半よりも後半が彼の音楽づくりによく似合う。特にフィナーレは瑞々しい音の流れが、なんとも心地よい。
マーラーの編曲は、コントラバスを追加した弦楽合奏によって低音の厚みが増し、音楽の力強さと豊潤さがいっそう際立つ。
「古典派」から「ロマン派」に、大きくシフトした音楽に聴こえるが、それは曲がもともと持っている要素をマーラーが一層拡大して見せた、ということなのだろう。
 
一方のブラームス「四重奏曲」は、若い時期の作品ということだが、ピアノのパートを除外してオーケストラに編曲しているのだから、原曲とは相当違うものになっているはずだ。
前半はとても渋い。流れのあるテーマで開始される第1楽章はまだしも、第2楽章になると、曲がどこからどこに向かって流れているのか、今はどのあたりを進んでいるのか、分からなくなってくる。
しかし第3楽章以降は、多様な打楽器が活躍し、激しいフォルテが頻出。「ハンガリー舞曲」を思わせる民族色豊かな曲想に惹きつけられる。

シェーンベルクの編曲は、ブラームスの管弦楽法とは少し違って、金管や打楽器をかなり開放的に鳴らす。
それが曲を「晦渋の沼」から救い出しているようだ。
ドホナーニの透明度の高い音楽作りも、そんな音楽にふさわしい。
近年、この曲が演奏会で取り上げられる機会が増えてきているようだ。巧みな編曲による演奏効果のためかもしれない。大きく盛り上がる締めくくりは、演奏会の最後に持ってくるのにふさわしい。
編曲者の名前から、現代音楽的なアレンジも期待したのだが、それはなかった。シェーンベルクは、ここではアレンジャーとして真面目な仕事ぶりをしていると思う。
 

CD51
ワーグナー:
ヴェーゼンドンクの歌,
「ローエングリン」より「ひとり曇りし日に」,
「パルジファル」よりクンドリーの語り,
「ワルキューレ」より「あなたこそ春」
キルステン・フラグスタート(Sp)
ハンス・クナッパーツブッシュ(指揮)[録音:1956年] 
マーラー:
亡き子をしのぶ歌, さすらう若者の歌
キルステン・フラグスタート(Sp)
エイドリアン・ボールト(指揮) [録音:1957年]




ワーグナーは、高校時代からLPで愛聴していた演奏。
フラグスタートの骨太で朗々とした、呼吸の大きな歌は、人の声というよりも自然,の音、風や嵐のように遠くからこちらに向かって響いてくる木霊のように感じられる。
それがワーグナーの音楽によく似合う。
オペラからの3曲はどれもいいが、
「ローエングリン」の「エルザの夢」は、とりわけ好きな演奏だ。
曲の途中から第1幕前奏曲のテーマが響いてくる。
その音の凄みに、ネコパパはいつも「ぞくっ」とする。
クナッパーツブッシュの作り出す透明度と実在感のせめぎ合う音と、Deccaの録音の鮮度が、これほど生きている例はめったにないだろう。
「トリスタンとイゾルデ」のエコーのような、ヴェーゼンドンク歌曲集の沈んだ情感も魅力的だ。
 
一方、ボールトと共演したマーラーは、始めて耳にしたもの。
ボールトの指揮もクナに劣らず良い。色彩感に満ちたオーケストラ部分の魅力を存分に楽しむことができた。
しかしフラグスタートの「風の声」は、人間の情感の細やかな機微を表現するにはあまりにもおおらかすぎる。もっと小さな呼吸で、キャラクターをはっきりさせて歌わないと、これら一曲一曲の違いがはっきりしない。マーラーの曲は交響曲に限らず「多彩な変化」が必要なのである。
キャスリーン・フェリアークリスタ・ルートヴィヒなどの盤がなぜ名盤と言われてきたのか、少し分かったような気がした。



【ボーナスCD
ハチャトゥリアン:交響曲第2番~
アラム・ハチャトゥリアン(指揮) [録音:1962年],
クルト・ライマー:ピアノ協奏曲第4番~
クルト・ライマー(P) ロベルト・ヴァーグナー(指揮) [録音:1958年]



ハチャトゥリアンの「鐘」、
LP時代は、確か普通に国内盤でも発売されていた記憶がある。特に珍しい盤ではないと思うが、それが今回「ボーナスCD」扱いになっているのは、なぜだろう。
タイトル通り、鐘の音が鳴り響き、多数の打楽器にピアノも加わり、民族色豊かなダイナミックな音楽が展開される。
第3楽章はグレゴリオ聖歌の「怒りの日」をテーマに引用した葬送音楽で、この曲で唯一沈んだ曲想が聴かれるものの、荒ぶる魂の呻きは止むことがない。
まさに「剣の舞」のハチャトゥリアンがここに健在。
違いはこれが3分ではなく、50分も続くことだ。さすがに、ちょっと参ってくる。
オーディオ好きには快感かもしれないけれど。
指揮者としての彼も、例によって遠慮なくパワー全開の演奏を繰り広げる。この屈託のなさが魅力だ。
 
一方のクルト・ライマーワルター・ギーゼキングの遠縁にあたるという作曲家兼ピアニスト。
EMIIにはカラヤンの指揮で入れたビアノ協奏曲第2番などの録音もある。資産家だったそうだし、このDecca盤ともども自費録音に近いのかも。

曲自体は難解なものではなく、ガーシュインのピアノ協奏曲へ長調を思わせる、リズミカルで野趣に富んだ音楽だ。
伊福部昭の映画音楽のような、重々しく執拗なリズムで始まり、曲が進むにつれてジャズ的な感興がぐんぐん高まってくる。
ピアノの技巧の見せ場も、もちろん多い。ちょっと長すぎるきらいはあるけれど…
1958年当時のウィーン・フィルが、優美な音色を振りまきながら、意外な乗りっぷりでソリストを支える。
こちらはハチャトゥリアンとは違って、プレス数が極端に少なく、コレクターには有名な稀少盤として高価で取引されているそうだ。
特典盤とはいえ、こうしてCD化されてしまうと、価格も下がるのだろうか。
年代の割りに音の鮮度が高いのは、Deccaに保管されていたマスターテープがほとんど未使用だったせいかもしれない。
 
ところで指揮者のロベルト・ヴァーグナーって、どんな人?
しばしばフォンタナの廉価盤で見た、懐かしい名前ではあるのだが…そう、ミシェル・オークレールの伴奏をしていた人だ。



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コメント

コメント(6)
No title
ライマーという作曲家とその作品は知りません。少し興味を持ちました。後は全て国内盤の単品で持っているものばかりです。フラグスタートによるワルキューレ」は第1幕だけの録音から抜粋なのでしょうか。手許には歌曲だけ3曲が入った国内盤(しかもキング発売)があります。

SL-Mania

2015/04/15 URL 編集返信

No title
ここに収められたフラグスタートによる「ワルキューレ」の一部は、1956年の録音、「ワルキューレ」1幕は1957年の録音なので、その前年の別録音で、プロデューサーも別人です。カルショウはこれを聴いて驚嘆し、第一幕の録音を決意したのかもしれません。だったら全曲収録すればよかったのに、と思います。
ライマー、曲は駄作ではないし、ピアニストとしての腕も確かですが、かといって探し回るほどのものかと言えば…?

yositaka

2015/04/15 URL 編集返信

No title
ライマーは、カラヤンBOXに収録されていたピアノ協奏曲2種で初めて聞きました。
EMIでもDECCAでも録音があるということは、そこそこの人気作曲家であったのでしょうか。
3年ほど前に聞いたカラヤンの録音も、さっぱり記憶がありません(汗)
私の記憶力の問題ではありましょうが、曲そのものの強い特徴を持つものではなかったこともありそうな気がします。

51枚目までたどり着くには、まだまだ時間がかかりそうです。

gustav_xxx_2003

2015/04/15 URL 編集返信

No title
グスタフさん、ギーゼキングの縁者でお金持ちだったことから、業界に影響力のある人だったらしいです。後に自分の名前を関したピアノ・コンクールも主宰しています。なんとなく、コネで作られたような感じもありますね。
「怪しい盤だ」と半信半疑で聞いたのですが、意外にも真摯な作品でした。
といっても、やはりボーナス盤扱いが妥当なところだと思います。

yositaka

2015/04/15 URL 編集返信

No title
ロベルト・ワーグナー懐かしい名前ですね。手元に有る資料では1915年4月20日ウィーン生まれ、2008年12月21日に亡くなっています。ウィーン音楽アカデミーに学び、のちにグラーツで教鞭にたっています。教え子にエルンスト・メルツェンドルファーがいます。1970年代にはトルコのイスタンブール歌劇場の音楽監督になっています。それが縁でウィーンフィルと東欧のツアーに出掛けたこともありますよ。

geezenstac

2015/04/16 URL 編集返信

No title
Geezenstacさん、彼は、どちらかといえば音楽教育に力を尽くした人だったのですね。メジャーになれなかったのはトルコで活動していたからかもしれません。メルツェンドルファーも地味な指揮者でした。

yositaka

2015/04/17 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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