古いほうが円熟している?

交響曲第6番ヘ長調 op.68『田園』
エグモント序曲



 
ベルナルト・ハイティンク指揮

アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1986.4.2123、コンセルトヘボウ

PHILIPS  CD

ハイティンクの旧録音も聞き直してみた。
前回の記事で「穏健な模範演奏」という印象を記したが、改めてじっくりと聞いてみると、決してそれだけの演奏ではない。

第1楽章は中庸、やや遅めのテンポで開始され、テーマの盛り上がりでもクレシェンドは控えめ。フレーズのつながりにも特別な工夫はないものの、音を弱くした時の繊細な音色が心地よい。リズミカルな部分で刻みを意図的に弱めたり、ファゴットの音を前に押し出すために、弦を目立たぬようにそっと小さくしたりするなど、音の美しさを損ねないような配慮があちこちで感じられる。そして…テーマの再現で音を強くするところから終盤までは、自然な高揚感が爽快だ。
録音がまた心地良い。適度な残響を伴ったコンセルトヘボウのホールトーンを見事に捉えている。

第2楽章は最初の低音の一打ちから引き込まれる。しっとりとした音色で緩やかに歌う弦楽器群。この楽章で彩を加える木管は、ちょっと遠目のバランスで、ソロとして目立たせることはないが、例えばクラリネットが柔らかい音色でリタルダントしながら歌い、弦が優しい弱音でそっと支える部分などは水彩画のような淡い色彩があって魅力的である。

第3楽章は遅めに始まる。リズムの一つ一つを丁寧に、舞曲が始まってもそのまま、じっくり進める。オーボエ、クラリネットのソロは音が優しく、ファゴット、ホルンは控えめ。土俗感の強調はない。躍動するトリオも音は強くするけれど、鋭くはならない。

第4楽章も力強いが、会場の響きを生かし、「打ち込む」というより「丸く膨らむ」感じ。ティンパニはここぞというところだけは強いが、バランスはまったく崩れず、「アレグロの音楽」という枠をはみ出すことがない。

フィナーレ。
ここもゆったり始まる。というかこの演奏…第3楽章以降はほとんどテンポが変化しないようにも聞こえる。ホルンは遠くから弱く響き、弦楽器は曲が進むにつれて音の強さを増し、前面にせり出してくるようだ。柔らかさと美観は失わないながら、団員たちの「共感音圧」が高まっていることが伝わってくる。第1楽章後半よりも高揚の勢いは強い。コーダは僅かにテンポを緩め、音を引き伸ばして終結する。
最後から二つ目の和音に「覇気」が感じられるのは嬉しい。

ロンドン響盤はこの20年後の演奏となる。二つを比べると、むしろ86年盤の方が老成・円熟した音楽のように思えるのだが…これは楽譜の違いなのだろうか。
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コメント

コメント(4)
No title
こんにちは。
私はハイティンクは積極的には聴いてはいない指揮者です。音源も少なくベートーヴェンの音源はロンドンSOしか持っていないので分かりませんが、多くの指揮者が同じ曲を何度か録音していますが、旧録音の方がいいな~って思う時が多いですね。

追記:ブログに「田園」について少し触れた投稿をしました。よろしければ訪問してみてください。

HIROちゃん

2015/02/21 URL 編集返信

No title
HIROちゃんさん、再録音を比べるのも興味深いものですが、このハイティンクのようにがらりと変貌する場合は、なおさら興味を覚えます。過去の大指揮者たちは確固たる解釈を持っていて、何度録音しても基本は変わらなかったことを思うと、指揮者の仕事も一筋縄ではいかなくなったものです。

yositaka

2015/02/21 URL 編集返信

No title
フィリップスの方針であったのか、ハイティンクは早い時期から交響曲全集を制作していたイメージがあって、ACOとのベートーヴェン全集の旧録音が80年代というのが、ちょっと意外でした。

この録音は聞いたことがありませんが、伝統あるACOのベートーヴェン全集の一つということで、「正統的な」演奏を意識したのかなと、勝手に想像しております。
最近の演奏では、特にやり尽くした感のあるベートーヴェンあたりでは、なんとなくピリオド風にすることで活路を見出しているような印象も受けています。

gustav_xxx_2003

2015/02/22 URL 編集返信

No title
グスタフさん、フィリップスは60年代にヨッフム/ACOでベートーヴェン全集を録音してしまったので、ハイティンクは後回しになったのではないでしょうか。実はハイティンク、1976年にロンドン・フィルとの全集を完成しているのですが、評判になった記憶もなく、調べてみるまですっかり忘れていました。
演奏スタイルの変化については、グスタフさんのご意見に同感です。流れにのって演奏をガラリと変えたアバドに私は不信感をもってしまったのですが、ハイティンクを聴き比べて、これは決してアバド一人の問題ではなかったのだ、と改めて感じています。

yositaka

2015/02/22 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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