唯一無二の響きの創造に賭けた「田園」




ヨス・ファン・インマゼール指揮アニ マ・エテルナ
録音20061113-16
仏Zig-zag Territoires(CD)



古楽器による演奏である。
 
ピッチのことはよくわからないが、解説によると現代とほぼ同じとのこと。その点での抵抗感は確かにない。これは良いと思う。
演奏はヴィヴラートを抑制し、メンバーを少なめにした、ピリオド・スタイルの典型という感じ。ネコパパのあまり好まない演奏スタイルだが、音色には独特の良さがある。
 
第1楽章はよく弾む、早めのテンポで風のように通り過ぎる。
フレーズの終わりを弱めにして、すっと次につながっていく。
クレシェンドで音の厚みを広げず、どこまでも平坦に流れていく。
響きはよくブレンドされて耳あたり良い。管楽器が違和感のある音で突出したりすることがないのは、いい音づくりだと思う。
けれどもハッとさせられるような場面や、覇気といったものはあまり感じられず、あっさり終わってしまう感じなのが物足りない。

第2楽章は古雅な響きに満たされた小川の情景。
ここでもテンポは速めだが、木管やチェロなどのまろやかで暖かい音色が、なんとも耳に優しく、美しい。

第3楽章からはテンポは一層速くなる。
農民の踊りから第4楽章の嵐に至る流れはリズムがよく弾み、快活。
金管やティンパニも程よいバランスで、刺激的な突出音を鳴らすことがない。
ピリオド演奏で私が苦手なのは、ヴィヴラートの抑制と管楽器、打楽器の突出した「うるさい」感じなのだが、インマゼールたちの演奏は音色作りの点で抜群のセンスを持っていると思う。

フイナーレになると、ホルンやトランペットがそれまでよりも力を持って鳴り響き、テンポも若干遅くなって、全曲中もっとも表情の濃い音楽が展開される。
けれど、金管が少しでも音量を上げると、弦はたちまち音をかき消され、か細い音になってしまう。
インマゼールは、フィナーレを全曲中最も大きな音楽と捉えているようだ。
それはとても共感できるのだけれど、その構想を実際に音にするためには、ピリオド楽器のアンサンブルは少し力不足ではないだうか…なんて言うと、ピリオド演奏に生涯を賭けて挑戦しているインマゼールは激怒するかもしれない。
 
かつて読んだ批評に、インマゼールたちの演奏は音色が命で、ライヴでないと良さが十分伝わらない、というのがあった。
確かに、ここで鳴り響いている音は、現代のオーケストラには作り出せないものだとは思う。溢れ出る熱情や覇気を表現するのは他の演奏家に譲り、彼が理想と考える唯一無二の響きや音色の創造に賭ける…そういう道も確かにあるのだろう。
響きのよい、小さめの会場でこのオーケストラの演奏を聞くならば、宝石の輝きのような音楽が聞けるのかもしれない。
 
録音もそのことを意識してなされている。
超低歪率で有名なSonodoreのマイクロフォン」を使用したとのこと。
残響を多く取り入れ、中低域を重視した音で、ピリオド楽器の独特の響きをよく捉えている。
ハイエンドな装置で再生すれば、天上の響きが再現されるかもしれない。
 
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コメント

コメント(4)
No title
こんにちは。
インマゼールの音源はシューベルトの交響曲などを通じて、音の雰囲気が気に入っています。レーベルが仏Zig-zag Territoiresというのは本で名前を読んだことがあるのですが、どんなレーベルなのだろうかと思っていました。
ソニーの音とは少し違っているのだろうと推測しましたが、記事を読ませていただいてこの音源の音を聞きたくなりました。(「超低歪率で有名なSonodoreのマイクロフォン」での録音ということですが、このマイクも全く不勉強で存じません。)
良い音源を紹介いただき、ありがとうございました。

”音”故知新

2015/01/24 URL 編集返信

No title
音故さん、こんにちは。
Zig-zag Territoiresは古楽を中心としたマイナー・レーベルらしいです。
ソニーも一度彼らのベートーヴェン交響曲全集を企画したらしいですが頓挫、仕切り直しで新たに録音された全集の一枚がこれです。
ソニーからシューベルトの交響曲が出たときに、現代ピッチを採用したとして話題になりましたね。私も早速それを聞いてみたのですが、どうもピンときませんでした。この「田園」はシューベルトよりも熟成された音楽に聞こえます。

yositaka

2015/01/24 URL 編集返信

No title
ピリオド・スタイルのベートーヴェン第6番は、2年ほど前にパーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ドレスデンの映像を見ておりますが、評判高いインマゼールは未聴です。

ピリオド・スタイルの演奏は、総じてあまり好みではない私ではありますが、パーヴォの映像では、小気味良いテンポでグイグイと進んでいく音楽が魅力的ではありました。
ただ、この演奏スタイルは曲を選ぶところを感じまして、第6番よりも、そのあと聞いた第7番の方が強いインパクトを感じたように思います。
ピリオド演奏というのは、この先定着するんでしょうかねぇ…

ピッチの問題は、ヨーロッパがどんどん高くなっているのに、アメリカのオーケストラの方が保守的というのが面白く感じます。
マゼールがウィーンでピッチを正しくしようとして大喧嘩になったそうです。

gustav_xxx_2003

2015/01/25 URL 編集返信

No title
グスタフさん、私もヤルヴィの演奏は映像、CDで聴いています。ドイツ・カンマーフィルはドレスデンではなくブレーメンの団体です。「ブレーメンの音楽隊」です(^O^)
モダン楽器ですが、ピリオド・スタイルで演奏しています。速めのテンポでぐんぐん、突き上げるように押しし進むかと思えば、すっと音を和らげたり、オーボエが思わぬところで突出したり…と多彩な表現を繰り広げています。ただ、広々とした豊かな空間性は感じられず、たしかに「第7」のような音楽によりふさわしい気がしますね。
最近は多くのオーケストラが割合普通にピリオド・スタイルを取り入れるようになりました。一つの奏法として定着しつつあると感じます。私としては、抽象的な言い方ですが「音楽よりも演奏スタイルが目立つ」演奏はちょっと遠慮したい…という思いを持っています。

yositaka

2015/01/25 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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