カール・ベーム、圧巻のブルックナー

DECCA《ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団エディション》をきく⑫


CD32
ブルックナー:交響曲第3(ノヴァークⅢ版)
カール・ベーム(指揮) [録音:1970年]/





「第3番」は作曲者が敬愛するワーグナーに捧げた曲で、初期の稿でワーグナー楽曲の引用があることでも知られている。
でも、それ以上に大切なことは、彼の作風を特徴付ける「荘厳さ」を基調とした、最初の交響曲であることだろう。
この作風は「第5」「第8」「第9」の高峰につながっていく。

カール・ベームの指揮は、確信に満ちている。

第1楽章冒頭の旋回リズムから、中庸のテンポを崩さず、しっかりとした足取りで進む。「マイスタージンガー前奏曲」を模したトランペットのテーマが響き、変形して巨魁のような第1主題があらわれる。
ベームの作り出す強音は、金管の轟音を生かした、荒々しく凝縮された、岩のような「ベーム・フォルテ」だ。この、念を押すような厳しい音を随所に打ち込みながら、音楽は緊張を緩めず粛々と進む。

第2楽章では、一転して弦楽器の情感あふれる合奏が美しい。ベーム指揮の演奏では、凝縮しすぎて音が痩せて聞こえる場合も少なくないが、この「第3」では厚み、表情ともに豊か。あくまで色彩感を抑えた渋い音だが、指揮者の強い共感が乗った音だと感じる。

第3楽章に入ると、明晰さと俊敏なリズムが加わり、音楽に鮮度が高まってくる。とりわけ中間部のアクセントの利いた舞踏感覚がすばらしい。

そしてフィナーレでは、凝縮された音圧を徐々に開放し、聴き手を興奮に導くベームらしい構成法が生かされる。楽章の中間あたりで響き渡る、乾坤一擲の低弦の唸りを合図に、音楽は最後の和音まで、熱く静かに高揚を続けていく。

 
CD33
ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」
カール・ベーム(指揮) [録音:1973年]/



 
「第3」に続いて録音されたベーム指揮の「第4」は、LP発売当時、大きな評判を呼んだ。ブルックナーの交響曲が日本でこれほど話題になり、売れたのは、このときだけだったのではないだろうか。
国内盤LPの帯に大書された「ロマンティック」という副題の力も、きっとあったのだろう。




この曲は、前作「第3」に比べて、充実に乏しい…という意見も少なくない。
でも、本当にそうだろうか。
両端楽章のスケールは決して「第3」に劣らない。「晴朗さ」という点では、むしろ凌ぐものがある。後に行くほど迫力も深みも増していき、圧倒的なクライマックスにむけてじりじりと高揚していく曲の構成もよくできている。
とくにフィナーレは、作曲者が改訂を繰り返したためか、展開が追いにくく、唐突に終わってしまうような「第3(ノヴァークⅢ)」よりも、ずっと後味がいいと思うけれど。

この演奏、何度繰り返し聴いただろう。
私にとっては、ブルックナーの魅力を教えてくれた大切な一枚だ。なかなか冷静に聴けない。
今回あらためて「第3」の後にじっくりと聞いてみると、ベームのアプローチがかなり違っていることに気づく。「第4」では、指揮者が音楽とやや距離を置き、肩の力を抜いて振っている様子が伝わってくるのである。

テンポは全体にやや遅め。
明確なリズムの置き方や、ホルンの響きに重点を置いた朗々たるフォルテはいかにもベームらしく「第3」と共通した手ごたえを感じる。
その一方、弦楽の響きは「第3」に比べて、音に気持ちが乗る度合い(共感音圧)が低く、力まずにさらりと流れていく感じだ。
ここが違う。

第1楽章は、その弦のさらりとした弾き方のために、全体が金管主体の音楽に聞こえる。
フレーズの運びに「矯め」をつくらないせいなのか、
ゆったりとした歩みで、細部までよく聞き取れるにもかかわらず「ここは、もう少し血の通った表情も聴きたいな…」と感じる瞬間も少なくない。

ピチカートのリズムに乗って、立ち止まり、振り返りながら孤独な散歩をするような第2楽章では、その音圧の薄めな弦が、かえって寂しさを強調し、ニュアンスの豊かな演奏になっている。
このアンダンテ、ブルックナーの緩徐楽章の中でも、最も単調で「華」がない曲だけれど、心に染みとおるような空気感があって、とても好きだ。聴き始めは地味すぎる感じだけれど、聞き進んでいくうちに時間を忘れている。

第3楽章は再びホルンの朗々たる吹奏が、狩の情景に生命感を与える。そして、沈むトリオでは第2楽章の寂しげな風が再び戻る。

そしてフィナーレでは、すべての楽器に、これまで、おそらく意識的に抑制されてきた
「共感音圧」が高まってくる。
音楽の密度が一気に高まる。
ここからが、ベームの音楽の醍醐味だ。
強靭な主題提示の部分を聴くと、ここに「第9」の第1楽章の先駆けがあることが実感できるだろう。
音楽は高揚と沈静を繰り返しながら進み、
はるか彼方から木霊のように響いてくる、ホルンの長いフレーズを合図に、壮大なコーダに突入していく。
ベームは力まず、自然な高揚に身を任せているように聴こえるが、オーケストラの弾き出す響きは強靭で、爆発寸前の緊迫感をはらんでいる。
そして、最後の和音は、ちょっと前のめりに、あっけなく終わらせる…

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コメント

コメント(13)
No title
ベームによるブルックナーはこの二つ持っています。他はちょっと聴いてみましたが、ピンと来ず持っていません。第4番は所属していた学生オケでやるということで、繰り返し聴いたもので、思い出深いです。ちょっとテンポが遅いのが気になりはしましたが、愛聴しています。第3番もクナかこのベーム盤で聴いています。最近は初版の演奏があって、ワーグナーのオペラから引用があって、ちょっとまとまりに欠ける感じがあって、全く別の作品に聴こえます。

SL-Mania

2015/01/16 URL 編集返信

No title
ベームのこの3番、4番ともLPとCD両方持っていますが、どちらも名盤だと思います。
ウィーンPOとの第7番、第8番もまあまあいいのでは。。。その他、録音は古いですが1949年のVPOとの7番もいいと思います。
イタリア製の海賊版?かもしれませんが、1971年のライブ録音でバイエルン放送響との8番を持っていますが、ステレオで音もまあまあ、演奏もいいと思いますね。

HIROちゃん

2015/01/16 URL 編集返信

No title
SL-Maniaさん、コメントありかとうございます。ベームのブルックナーは他にDG盤の7番8番が有名ですが、なぜか重苦しく抵抗感があります。もしDecca録音だったら事情は違っていたのではないかと思ったりします。
実際に演奏経験をお持ちとは、素晴らしいですね。演奏する立場からするときっと難しい曲なのでしょう。私も練習の場に立ち会ったことがあります。
版の問題は「第3」では顕著です。私は「エーザー版(ノヴァークⅡ)」が最も抵抗なく聞けますが、レコードはあまり多くありません。

yositaka

2015/01/16 URL 編集返信

No title
HIROちゃんさん、いつもありがとうございます。
ベームの第7、第8は、もしかしたらライヴの方がいいかもしれません。第7は1953年VPO、第8は1974年ケルン放送のものもあり、後者はDeccaの4番と同時期のもの。速いテンポで引き締まった演奏をしています。バイエルン盤は今では正規発売されていますが、私は未聴です。

yositaka

2015/01/16 URL 編集返信

No title
こんばんは。ベームの『ロマンティック』発売された時は、こんなにオシャレなLPの帯がついていたのですね!
LP時代は、音盤だけでなく「帯」も大切だった、そんな文化でしたね。
私もブルックナーの交響曲第4番は、ベーム/VPO盤を聴いて覚えました。

SC

2015/01/16 URL 編集返信

No title
CORAさん、おひさしぶりです。いまも中古店に行くと、この「第4」の国内盤LPは、どっさりあります。当時はこの曲一曲で2枚組3000円、「巨匠」ベームだからこそ許される価格づけでした。
私は発売時には買えず、少し経って「第3」と組み合わせた2枚組3000円の盤で購入し、さんざん聞いたものです。

yositaka

2015/01/17 URL 編集返信

No title
ちなみにこのジャケットですが、オリジナル盤はかなり古い、ザルツブルクあたりのリハーサル写真を使っていますが、国内盤は録音会場のソフィエンザールで撮影された、おそらく当録音のセッション風景を使っています。ベームが人差し指を立てて「シッ」と音を抑えている瞬間がとらえられていて、素晴らしいセンスです。また、オリジナル盤にはない「Romantic」という副題が青文字で大書されているのも日本らしさですね。私はこの国内盤デザインがとても好きです。

yositaka

2015/01/17 URL 編集返信

No title
この第3番、第4番の録音で、日本のベーム・ブームがピークに達したように記憶しています。
先頃入手したデッカBOXでも第4番が収録されておりましたから、デッカにとっても大事な録音となっているのでしょうね。
朝比奈/大阪poのコンサートでブルックナーを聞き覚えた私には、第3番では圧倒的なオーケストラのパワーの差に唖然とするしかなかったように感じました。
その一方で、第4番ではコンサートで感じた、身体が震えるような感激を味わうことは難しかったように思います。
それでも、最終楽章の迫力は、これはベーム/VPOでこそ成し得たものでしょうね。
ベームは、実演でもそうであったようですが、録音でも当たり外れが多くて選択が難しいです。

gustav_xxx_2003

2015/01/17 URL 編集返信

No title
グスタフさん、ベームはこの2曲だけでも演奏姿勢にかなり違いが感じられます。また、75年の来日公演におけるブラームスの1番は、2回の公演が録音されましたが、かなり違う内容です。録音でも実演でも、時々の気分や調子がかなり濃厚に演奏に反映される人だったのかもしれません。
私にとってベームは大切な指揮者のひとりで、その違いや当たり外れも含めて、楽しみの尽きない人です。

yositaka

2015/01/17 URL 編集返信

No title
エーザー版はクーベリック盤がありますね。長さもちょうどよく、変な引用もなくていいです。

SL-Mania

2015/01/17 URL 編集返信

No title
こんばんは。私はマタチッチ&N響の「8番」とベームのロマンティックでブルックナーに目覚めました。まだ中学生でレコードを買うお金も持っていないので、もちろんFMエアチェック。テープの片面に収まらないので、楽章の間で急いでテープを裏返すテクニックも身に付けたのは懐かしい思い出です。
この2枚組LPはずっと後になって入手しましたが、仰る通り良く売れたらしく、安価に入手できました。記事を拝見し、久しぶりに聴いてみているのですが、LP全盛の時代ならではの素晴らしいサウンドを堪能できました。

ポンちゃん

2015/01/17 URL 編集返信

No title
SL-Maniaさん、クーベリックはいいですね。
彼も確か全集が計画されていたはずですが、奇しくも3番4番の2曲で頓挫しました。エーザー版(Ⅱ稿)はⅢ稿よりも素朴な流れを持ち、私にははるかに聴きやすく感じます。ハイティンクVPOも好演です。

yositaka

2015/01/17 URL 編集返信

No title
ボンちゃんさん、エアチェックでのテープ返しには私も苦労しました。…って、若い人には「なんのこっちゃ」の話題ですね。
第4の2枚組は当時としては大胆な企画でした。「たくさん入っていたほうが得」という時代から、音質重視でゆったり収録する価値観が生まれてきた時期でした。その先鞭をつけたのが1970年発売のベームのベートーヴェン「第9」だったという記憶があります。

yositaka

2015/01/17 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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