湧き出る泉のような「英雄」

DECCA《ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団エディション》をきく③

CD11
ベートーヴェン:交響曲第5&7番~
ゲオルク・ショルティ(指揮)[録音:1958年]/



 
第7番は曲と指揮者の相性がいい。
テンポは普通、特別な表情付はなく、パリッとしたストレートさがよく生きて、爽快な演奏になっている。第3楽章のトリオのホルンが強すぎるくらい高らかで、反面第2楽章はさらりとしすぎる気もするけれど。
第5番はショルティの個性が第1楽章の冒頭から炸裂する。
力こぶの入った鋼のような勢いが全曲を貫く。一点の曖昧さもない響きが細部の動きを明確に示す。そこに感情移入はあまり感じられない。金菅が強く明るい音も特徴的。ウィーン・フィルが、まるでシカゴ交響楽団のように押し出しのいいブラストーンを響かせている。結局彼が求めていたのはこういう音で、シカゴ響との出会いは運命的だったのかもしれない。
不思議なのは、低弦とティンパニが強くないことだ。固く強い響きを押し出しているのは、基本的にヴァイオリンなのである。
 

CD10
ベートーヴェン:交響曲第3番~エーリヒ・クライバー(指揮)
[録音:1955年],
ベートーヴェン:レオノーレ序曲第2&3フィデリオ序曲~
クレメンス・クラウス(指揮[録音:1955&1954年]/



 
エーリヒ・クライバーの「英雄」。
これをショルティの第5番のあとに聞いたのは良くなかった。
厚い壁に囲まれた部屋から野外に出て、そのまま大空に舞い上がるような心地なのだ。
天衣無縫、湧き出る音楽の泉。速めのテンポで、力まずに指揮をとるクライバーの棒に、オーケストラは最高の自発性を発揮、感興の赴くままに、自在に演奏していく…ように聞こえる。まるで一人で弾いているように息を一つに合わせたヴァイオリンの主旋律を聞くだけでも、鳥肌ものだ。でもこれは決してジャム・セッションではない。クライバーが指揮しているからそうなるのである。自由に演奏させているようでも、内にみなぎる力は緩まず、決め所では奔流のように溢れ出る。
「英雄」という音楽を厳粛かつ深刻なものと捉える人は、この演奏を感覚的とか、愉しすぎる演奏と思ったのか、同時期にフルトヴェングラーが同じオーケストラとともに録音した盤を差し置いて、当盤を第一に挙げるひとはなかった。
でも「これはこういう曲」などという理性は、ここにある音楽を聞けば吹っ飛んでしまうのではないか。ここに刻まれているのは、それほどの演奏だ。
だが、クライバーの死後1959年に廉価盤として発売されるまで、Deccaはこの録音をオクラにしていた。
BOXの記載でそのことを初めて知って、ネコパパは愕然。
人が、そのものの真の価値に気づくことは…決して簡単ではないのだ。
 
クラウス指揮の序曲…こんな録音があるなんて、全く知らなかった。解釈はオーソドックスだが、彼らしくウィーン・フィルの音色を十分に開放した、元気ではつらつとしたベートーヴェンだ。中でも「レオノーレⅡ」が印象に残る。


CD14
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番~
フリードリヒ・グルダ(P) カール・ベーム(指揮)[録音:1951年],
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番~
ヴィルヘルム・バックハウス(P) カール・ベーム(指揮)[録音:1953年]/



 
ベートーヴェンの序奏部。
内緒話のようにそっと、という感じで曲が始まり、しゃれた強弱をつけて進んでいくのを聞くと、ベームがウィーン・フィルの音のセンスを最高に生かし、好調に指揮をとっていることに気づく。
陶酔的なくらい香り立つ音色。クライバーの「英雄」で感じた、全員が息を合わせ、一人に聞こえるような弦のアンサンブルがここでも聞かれる。
こんな伴奏で始められては、グルダも大変。若々しい気迫漲る、粒立ちのよいピアノでオーケストラに拮抗する。これは、自信満々で爽快なこの曲の魅力を存分に味わわせてくれる演奏だ。
1951年の録音なのに、当時のDecca録音としても鮮度が高い。

一方のブラームスは、昔から「名演」として有名な録音である。
ネコパパはブラームスのピアノ協奏曲が今ひとつ解っていないせいで
「指揮者もピアノもオーケストラも、全身全霊で曲の奥底に踏み込もうとしているな」と思うばかり。自分自身が踏み込めないのがもどかしい。
第2楽章の夜の湖水に滴る雨…といった風情はさすがに美しいけれど。



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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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