杜の会レポート①

「洗濯船」オーナー、Mさんの話は「イコライザー・カーブ」から始まった。
 
生の音楽は、人間の耳に聞こえない部分も含む、広大な音域で響き渡っている。
それを、容量に限界のある「レコードの音溝」にきっちり収録するために、技術者たちは工夫を凝らした。原音そのままを収録するには、低域の音圧がありすぎる。そこでそれを抑制し、代わりに高域を持ち上げ、再生時に本来の音のバランスに戻す…そのほか、多くの要因を補正していく精妙な操作が「イコライジング」で、そうして作られた録音用音域の分布を「イコライザー特性」と呼ぶ。
初期のLPレコードは、各社が最も適切と信ずる、自慢の特性が多数存在した。補正の度合いは、美しい曲線のカーブでグラフ表記され、ファンはそれらを敬意を込めて「コロムビア・カーブ」「NABカーブ」「FFRRカーブ」等と呼び慣わした。
1950年代後半、業界にそれを統一しようという動きがアメリカで起こる。「RIAAカーブ」という共通特性が提唱され、乱立の時代は終わっていく。


しかし、長い時が過ぎても、古いレコードを愛するファンは残った。Mさんもその一人だ。
彼らは、古い盤を一般の器機でそのまま再生すると、高音や低音が強調されたり、逆に抑圧されて不自然な音として聴こえてしまうことを知っている。
Mさんのレコード再生への熱情は、各盤の「カーブ」を適切に選択できるイコライザーを初めとする機能を、再生システムに構築させた。
自在にカーブを切り替え、微調整も可能な「夢の」装置が、杜の仲間たちの前に、現われる…
 
104日。
ここ白馬山麓、ペンション「洗濯船」での音楽愛好家の集い「杜の会」は、今回十周年。台風18号接近を横目に見ながらの開催となったが、幸い、上陸一日前の穏やかな天候での開催となった。
午後3時、地下リスニングルームにて「ひとむかし」を振り返るDukeさんの挨拶に続き、この間に亡くなられた二人の大切な仲間を偲ぶ黙祷…参加2年目の筆者ネコパパは、お二人に面識はない。しかし、二人のアナログに賭けた残留思念は、いまもそこに。



 
十周年記念の企画は「一押しの1枚」である。
まずはMさんの、歓迎の曲。
ローズマリー・クルーニー&ハリー・ジェイムズ『ハリウッド・ベスト』米COL。ハリーの伸びやかなトランペットに導かれる、クルーニーの温かみのある歌が艶やか。コロムビア・カーブとRIAAカーブの聴き比べでは、後者で高音に艶がかかるのがはっきりと聴き取れる。
Mさん、もう一曲。次は日本のヴォーカル。奥村チヨ『くやしいけれど幸せよ』日東芝



これだ。60年代のAMで聴いた音は。中音域に声と伴奏が集中する温かい音が耳を撫でていく。
マント・ケヌーマーさんは、門外不出、原点の一枚をついに披露した。カール・シューリヒト指揮ウィーン・フィル、ブルックナー『交響曲第9番』英HMVクラシックファン垂涎の、不滅の第3楽章アダージョが響きわたる。
Musashino-papaさんはトミー・フラナガンの名盤『オーヴァーシーズ』Metronomオリジナル7インチEP盤と、ルディ・ヴァン・ゲルダーがマスタリングを施した米Prestige12インチ盤を比較する。



素朴なMetronom盤のあとにPrestige盤を聴くと、奏者たちがぐっと前に出る。ベース、ドラムの音圧もすごい。何をした?ルディ。
ネコパパは、この日のために発注し、間一髪で到着した一枚を。
ブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィル、 ベートーヴェン『エグモント序曲』英PHILPS。モノラル。自宅で試聴したところ、国内盤に比べ低音多め、高音少なめに聞こえた。「FFRR(デッカ)カーブか」と当たりをつけ、Mさんに調整をお願いした。ドンピシャだ。柔と剛のせめぎ合うワルターの熱演、楽しんでいただけただろうか。
Roxanさんは、50年代、60年代、80年代を代表するロックの7インチシングル盤3枚。最初の2枚はジャケットなし。スリー・ドッグ・ナイト、マイク・オールドフィールド…、ビンときたのは、スリー・ドッグ・ナイト。ネコパパにはロックの文法がろくにわからない。申し訳なし。
Recooyajiさん、意表をついて、ダリダのヒット曲『甘い囁き』。アラン・ドロン語る、巧言令色の誘惑言葉を、ダリダの歌が跳ね返す…懐かしい一曲。



 
言葉、言葉、言葉
いつもの言葉 ただの言葉 安易な言葉 
はかない言葉 虚飾の言葉…
でも これでおしまいよ 夢のような時は
忘れてしまえば 言葉も 思いも 色あせる…
 
Recooyajiさんのもう一枚は、レナータ・マウロ『5』伊DIRE。夜の雰囲気に満ちたバラード。クレシェンドするフレーズが、聴き手にそっと近づいてくるようにも。希覯盤とのこと。とすると、こちらから彼女に近づくことは、難しそう。
Konkenさんの一枚。サド・ジョーンズ『モーター・シティ・シーン』日UA。デトロイトのジャズメンによるハード・バップ。フラナガンがいい。サド・ジョーンズ、ちょっと変わった音…と思ったら、コルネットを吹いている。車のクラクションをイメージしたのか?
チャランさんの一枚なら、やはりこれだ。藤原真理『白鳥・夢のあとに』日DENON



日本の誇る名チェリストのデビュー盤。演奏だけではない。デジタル初期の低ビット録音ではあるが、見事な録音である。これを聴くと、無闇にビット数向上を競う近年のハイレゾ論議の意味は何か、と思いたくなる。
Paragonさんは、女性ヴォーカルが二枚だ。ちょっと素人っぽい歌唱で、50年代アメリカの街の空気を運び込むナンシー・スティール『ニーティ・ニッティ』米キャリオカB級の魅力っていうのかな。
もう一枚は、堂々たる正統の歌声。イギリスのベテラン歌手ローズマリー・スクァイヤーズ『Everythings Coming Up Rosy』英HMV



艶香ではなく気品で聞かせる歌。ジャケットの笑顔と配色から「赤のロージー」の異名を持つ希覯盤。これとは別に「青のロージー」もあるそうだ。次は、ぜひこれも…
病回復して幹事に復帰されたSPUさん。まずは、おめでとうございます。一枚目は、鈴木章冶とリズム・エース『鈴懸の径』1957年発売7インチシングル。日ビクター。そしてヘレン・カー『ホワイ・ドゥ・アイ・ラヴ・ユー』米ベツレヘム。
戦時中の歌謡曲をテーマにした前者は、スウィング・リズムに古さはあるものの、ファンも納得の本格派ジャズ。これがシングル盤として出ていた時代があったのだ。



後者は想像(妄想)を喚起する、ゴールドブラッド撮影の妖しいジャケットが艶かしい。斜に構えたヘレンの歌が、またそれによく似合う。
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コメント

コメント(2)
No title
こんにちは。。。

イコライザー・カーブの話から、音楽愛好家の集い「杜の会」の記事を興味深く読ませていただきました。

今でも私はLPレコードを良く聴きます。フォノ・イコライザー・アンプも自作の真空管式です。ただし、私のコントロール・アンプには「高音」「低音」などの音質調整の回路は全く付けていません。
フォノ・イコライザー・アンプを通しただけです。トーンコントロール回路は私には音の輪郭がボケてしまう感じがします。

音楽愛好家の集い「杜の会」・・・このような会があるのは羨ましいですね。。。

HIROちゃん

2014/10/10 URL 編集返信

No title
Hiroちゃんさん、ようこそ。自作のアンプを使用とはすばらしいですね。音質調整にはトーンコントロールだけでなくいろいろな方法があります。セッティングや部屋の響き、ケーブルなどで調整されているのでしょう。
私はオーディオにはまったく無頓着の上に駄耳ですので、トーンコントロールが頼みの綱なのです。

yositaka

2014/10/10 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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