充実の聴き会7時間

7月12日。
台風通過の翌日、ネコパパとbassclef君は、konken君運転の車で藤井寺のYOさん宅へ向かう。
20125月以来の再訪である。

天候は昨日までの大型台風の日本縦断が嘘のような晴天。
同乗二人の心配をよそに、豪快なハンドルさばきを駆使するkonken君の腕前で、予定よりずっと早い到着になった。
由緒あるお屋敷の佇まいは少しも変わらず。
楽しみにしていた山の狸との出会いは今回も不発…
なんでも猫が住み着いてしまって、近頃は姿を表さないとのお話だった。
狸族は、きっと猫族よりもずっと用心深く、控えめな一族なのだ。
我が家の近辺にも猫は多い。駿敏だが、ゆとりの時間の使い方も心得ている彼らは、きっと音楽も好きなのだろう…などと考えてみたりする。
 
さて、変わらぬ笑顔で迎えてくださったYOさん一家のお茶のおもてなしも早々に、一同は2階リスニングルームに急ぐ。
私たちの他に大阪のdenpoさんと今回初対面の神戸のfjさんも追って駆けつけ、賑やかな聴き会が始まった。
そのほんの一部をご紹介したい。

 
はじまりはキース・ジャレット
スタンダーズVol.1
ケルン・コンサート



 
そういえば、ずいぶん聴いていなかった。
独ECMレーベル独特の、夢見るような長い残響を伴って、叙情的なキースのピアノがきらめく。
それは私たちの世代の、青春の響き。それだけに、年齢を重ねるうち、遠ざかってしまったのかもしれない。久々に耳にして、少しも鮮度の変わらない孤高の歌に聞き惚れた。

2年ぶりのYOさんのシステムの音は、さらに磨きがかかっていた。
どの帯域も強調されず、音の純度が高い。パワーに満ちていながら、ストレスなく音楽に浸らせる、静かな豊かさを持っている音である。
 
denpoさんとbassclef君はアメリカのジャズレーベル、ベツレヘムのコレクションを持参。
バート・ゴールドブラッドによる10インチ盤のジャケットデザインは、コレクター心に火をつける魅力がある。
フィルム・ノワール風のモノクロ写真に、手書きの白文字を基調としたものが多い。見ているだけで50年代のアメリカに潜む哀感と郷愁の香りが漂ってくるほどだ。



音楽の内容は渋い。これがこの人の唯一のアルバム、という作品も少なくない。録音は生々しさとはちょっと違うが、バランスが取れた良い音のものが多い。特に低音がいい。
そのひとつヘレン・カー。
ちょっと蓮っ葉な感じのヴォーカル。フレーズの終わりのやんちゃな切り上げ方が独特だ。好き嫌いが出そうだ。この声にチャーリー・マリアーノのアルトサックスがからむと、ついアルトの美音に耳がいってしまったりする。
ブッカー・リトル最後のアルバム「リトル・アンド・フレンド」もベツレヘム。



「イフ・アイ・シュッド・ローズ・ユー」…空に突き抜けるようなトランペットが何とも心にしみる。
クロード・ウィリアムソン・トリオの「ラウンド・ミッドナイト」も。レッド・ミッチェルの参加した、ネコパパ愛聴の一枚。「星影のステラ」はいつ聴いてもいい。酔わせる、というより、溌剌。

 
ブルーノート名盤もいくつか聴かせてもらう。
リー・モーガン、ハンク・モブレイの比較的目立たない作品や
ハービー・ハンコックボビー・ハッチャーソン、ふたつの「処女航海」…



ジャズでこういうのも妙だが、「処女航海」は、完成度の高い音楽。どちらのヴァージョンもソロが目立たず、曲想に溶け込んでいる。「ハプニングズ」に含まれたボビー盤も、オリジナルにない体温の高さがいい。
モーガンの「リー・ウェイ」では、地道な進行だな、と思う中、モーガンのトランペットが一音出ると、一瞬で周囲の空気がパッと変わる。まさに閃光のような天才ぶりだ。



 
参加者の方々は、みんな、基本、ジャズ好き。
でも一人ひとり、嗜好の違いはある。それもかなりある。
ウェイン・ショーター、セロニアス・モンク、キース・ジャレット…個性派の演奏は、好きな人は熱中するけれど、そうでない人は「いや、もう結構…」という顔をお見せになる。
ショーターも好悪を分かつテナー。ネコパパは、どちらかと言うと苦手な人だ。
でも、初リーダー作「イントロデューシング・ウェイン・ショーター(1959)では、細身の青年の初々しい音色が飛び出してきて、惹きつけられた。
bassclef君持参のモンク初期の10インチ「モンク・クインテット・ウィズ・フランク・フォスター」には、あの「煙が目にしみる」の初録音が収められていて、モンクには目のないネコパパとbassclef君には至上のひとときだったけれど、「じっと我慢」の人も居られた様子…
▲訂正…「モンク・クインテット・ウィズ・フランク・フォスター」はYOさんの所有盤でした。



 
そのbassclef君も、ロックは苦手のよう。
ロックのかかる時間は、得意の弁舌も息を潜めてしまうのが可笑しい。
無論ネコパパもこの分野は未知の世界、食わず嫌いかもしれない。でも今回は、YOさんの巧みな選曲のおかげで、意外なくらい引き込まれた。
古典的な名盤ばかりと思われるが、どのアルバムも激しさと叙情の慌ただしい交代の中、紛れもない英国音楽の気品と民族性とが刻まれていた。

エマーソン・レイク&パーマー 「TRILOGY
ピンク・フロイド「炎」
レッド・ツェッペリン「IV



 
クラシックでは、YOさんのコレクションから、
ストラヴィンスキー「春の祭典」アンタル・ドラティ指揮デトロイト交響楽団
シェーンベルク「浄夜ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮BPO
に聴き入った。
全曲をみんなで楽しめたのは、「浄夜」の方だった。



意外な気がした。
一般的に、クラシック好きでなくても聞けるクラシックとして名が上がるのは、「春祭」の方である。
しかし、(私以外は)耳が肥えているメンバーには、この「原則」は当てはまらなかったようだ。
「春祭」は愉しい曲だが、音楽の密度の濃さは「浄夜」が勝っていると思う。
音楽の核心部分をストレートに立ち上げるYOさんのシステムが、違いを描き分けたことも大きい。

ネコパパ持参の盤も何枚か聞かせていただいたが、とりわけ凄かったのは
エルガー「威風堂々」ネヴィル・マリナー指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
大編成による壮大な音楽が、残響の長い空間に響き渡るのが余裕を持って再現されていく。
「そう簡単に出る音ではない。まさに彫琢された音だ…」と思わずにはいられなかった。


追伸

後日、YOさんにお礼のメールを差し上げたところ、大変熱のこもったご返事をいただきました。
その中に、こんな一言が…

>私のオーディオの調整の基本的ポイントが「質感は機器に任せて、低音から高音まですべての音が生きていることと、すべての音のエネルギー感が揃っていること」なのです。

ネコパパはこれを読み、
そうか、YOさんは「質感」よりも「生気」を大切にする音作りをされていたのか…と思いました。
ジャンルを問わず、「音楽が立ち上がってくる感じ」の音の理由が、少しわかったような気がしました。
また、当日少し話題にしたPCオーディオについてのご意見から察するに、YOさんは「アナログ愛一筋」の人かと早合点してしまったのですが、それは間違い。
アナログ好きではあるけれど、各メディアの長所を十分知った上で「それぞれの良い音」を探求されていることを知ることができました。

オーディオ言語が乏しいネコパパですが、YOさんとのやりとりは刺激的な体験でした。
今後も中身の濃い交流ができそうで、楽しみです。

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コメント

コメント(5)
No title
yositakaくん、この日の集まり・・・ホントにあっという間の7時間でしたね。Yoさんの機器は~ロックのバスドラ(ドラムの低い音のパーツ)、クラシックの弦楽器の艶(つや)ピアノのタッチ感など、どこをとってもその楽器の実在感~奏者によっての音色・タッチの違い~を肌で感じられる音で、だから・・・音楽そのものに浸ることができる・・・のでしょうね。この日はクラシック好きなyositakaくんとYoさんが、じっくりクラシックも聴く~という流れにもなり、クラシック門外漢にはちょいと長い曲もありましたが、僕などは、Yoさんのスピーカーから流れてくる「楽器の実在感」だけを聴いていて、その音色(音楽の流れ)の変化が興味深いので、真のクラシックファンとは違う、いわば、純粋に器楽的・音響的な楽しみ方もできたわけです(笑)それでも「浄夜」30分は・・・yositakaくんの場面ごとの解説で楽しめましたけど、ちょっと長かったかな(笑)

bassclef

2014/07/26 URL 編集返信

No title
(つづき)
ロック~この日はkonkenさんとYoさんセレクトの英国プレグレ系が掛かったわけですが、僕の場合・・・ロック系はテーマが終わるとあとは・・・ひたすら音響聴きです(おっ、バスドラがダブるだ・・・エレベが変なことやってる・・・とか:笑)
でも、同じくロック系にそれほど興味のなかったと思えるyositakaくんが、この日は興味深くロック音楽を聴けた・・・というのも、ある意味、「音響的に」違和感なくその音楽に接することができた~ということで、それこそが、いいオーディオのもたらす恩恵(音の好みという相性みたいなものもあるでしょうが)だったかもしれません。

(レコード提供元関連で訂正ひとつ)
モンクのprestige 10インチ盤(180番)~あれは、Yoさん所有盤です。僕がゲッツやマリガンのprestige10インチ盤を持っていったので、その関連で奥から出してきてくれたものです。モンクとフランクフォスター(ts)のセッションでして、<煙が目にしみる>が大好きなので、掛けてもらった・・・というわけです。

bassclef

2014/07/26 URL 編集返信

No title
bassclef 君、またまた長文コメントありがとう。モンクはYoさん所有盤でしたか。つい間違えました。Yoさんのコレクション、幅広いですね。
器楽的・音響的な楽しみ方…というのは、僕にはあまりない発想ですが、苦手な食べ物でも「よく噛んで食べるといける」というのと似てるかもしれません。似てないか。
「浄夜」30分…長いと思われているクラシックも、楽章単位で10~15分程度の切れ目があるのが普通ですし、オペラやオラトリオのような「大曲」も短い曲の集合体であることが大半です。それが本当に切れ目がなくなってくるのは19世紀後半、後期ロマン派から。ジャズも当初は数分だったものが、ハードバップからフリーの時代にかけて長大化していく。似た展開ですね。いずれにしても、いい体験でした。

yositaka

2014/07/26 URL 編集返信

No title
yositakaさん、ブログに書いて頂いていたようで有難うございます。bassclefさんの博学と記憶力にも驚きますが、yositakaさんの博学にも驚くばかりです。クラシック好みと思っておりましたがジャズにもお詳しいのでびっくりしました。「浄夜」なんてかけたら嫌われるかな?と思ったのですが(笑)同名の詩を元にしている事と「カラヤンの最高傑作だ」という話を読んで買って、その音楽の密度に感動したことから皆さんの反応を見てみたかったのです。結果としてはyositakaさんのカラヤンの録音秘話の解説付きで最後までもったようなものでした。
「生気」というご感想有難うございます。オーディオ好きに限らず「自分のシステムで上手く鳴る音楽を好むようになる」という説があって私にもその嫌いがあることからあのような大目標を立てて「何でも鳴る」を目指してきました。またの機会を楽しみにしております。

Yo

2014/07/29 URL 編集返信

No title
YOさん、先日はありがとうございました。
「自分のシステムで上手く鳴る音楽を好むようになる」…そういう説があるのですね。私がたびたび耳にしたのは「自分の好きな音楽にだんだんと装置が合ってくる」という説でした。出発点と到達点が逆になっているのが面白い。いずれの説も装置の癖というものを前提にしている説ですが、YOさんが目指しているのは、双方の克服、ということなのでしょう。まさに大目標。その目標は聴き手が多いほど張り合いがありますね…ということで、ぜひまた聴かせてください。

yositaka

2014/07/29 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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