児童文学の旗手、古田足日氏を悼む

児童文学者の古田足日がなくなった。

日本の現代児童文学の方向性のひとつを決めた「少年文学宣言」の起草者の一人にして、近代童話伝統のあり方に疑問を投げかけた歴史的な評論「さよなら未明」の筆者である。
一般に知られているのは…『おしいれのぼうけん』の作者として、だろうか。

先日、古田の近著『現代児童文学を問い続けて』(くろしお出版2011.11)を、私は、やっとのことで読み終えた。熱い文章だった。
若き日から変わらない、児童文学「変革の意志」が、
80半ばを過ぎても、勢いを失わず燃え盛っていることが伝わってくる文章があった。

「自分こそ現代児童文学」

そんな矜持を最後まで保ち続け、問題提起を続けた人。



 
童話には深い真実がある、人間、人類にとって大切な真実が語られている、だからぼくは、真実を見失ったぼくは童話に惹かれるのだ。
 
ぼくは敗戦のあと天皇と祖国日本に忠誠をつくすという価値観を失い、新しい価値観を見つけ、つくりだすのには「長い時間」がかかった。
おこがましいが、これも「体験の思想化」の一例であり、「体験の思想化」とは…何度もその体験に立ち帰って、自分の生きる道を問うことである。
 
ぼくは日本国民の多くが戦争に加担していった、その「加担体験」、忠君愛国に育てられ、育っていく「被教育体験」も含めて体験の意味を問い、そこから得たものを自分の生き方に生かすことが、前にいった被害体験記の「一応完結」から一歩踏み出すことになるのではないかと思った。
ぼくはそれを「体験の思想化」ということばでとらえていたのである。
 
「戦争体験の語り継ぎ」のなかに「体験の思想化」を語るものを意識して取り入れたい。この「思想化」は戦後、民主主義を自分のものとしていく生き方、また自分の「責任」にどう対していくかという生き方をかたちづくるものである。
…受け継ぐ者があって成立する。「体験の思想化」を意識し、その視点、取組み方を取り入れるということは体験者がそうするということだけでなく、次の世代、次の次の世代がその作業をするということである。
 
―『現代児童文学と問い続けて』より
 

藤田のぼるの提唱する60年代児童文学のキーワード「理想としての子ども」を、
最後まで体現し続けた人、といってもいいだろう。
児童文学の旗手」という称号こそ、彼にふさわしい。

古田足日にとって、作品は「思想」「理想」を載せる船であった。

「ぬすまれた町」
「宿題ひきうけ株式会社」
「ぼくらは機関車太陽号」…

多くの作品で、船の「構造」が読者にはあまりにも見えすぎて、
船に当たる波のしぶきや、潮のかおり、鳴き交わす海鳥の声が聞こえない…
保育園での丹念な取材をもとにした『おしいれのぼうけん』は別として、そんな印象を受けるものが多かった。



そのために、私は正直、作家としては敬遠気味の人になってしまっていた。
古田足日を語ることは、これからの課題である

ただ、一つだけ確かなことがある。

彼の「体験の思想化」を文学として結実させる作業は、
次の世代に手渡され、ゆっくりと着実に、実を結びつつある、ということだ。

心からご冥福をお祈りします。


 
「おしいれのぼうけん」児童文学作家の古田足日さん死去
2014691929
 
絵本「おしいれのぼうけん」などで知られる児童文学作家の古田足日(ふるた・たるひ)さんが8日、東京都内の自宅で心不全のため亡くなった。86歳だった。通夜は14日午後6時、葬儀は15日午前10時から東京都府中市多磨町2の1の1の多磨葬祭場・日華斎場で。喪主は妻文恵(ふみえ)さん。葬儀委員長は画家・絵本作家の田畑精一さん。
 
 1927年、愛媛県生まれ。早稲田大学中退。戦後の児童文学界で、創作と評論の両方の分野で活躍した。「おしいれのぼうけん」は1974年に刊行され、12年に累計販売部数で200万部を超えた。他にも「宿題ひきうけ株式会社」「大きい1年生と小さな2年生」「ロボット・カミイ」、評論では「現代児童文学論」などの作品がある。97年から02年まで日本児童文学者協会会長も務めた。
 
 平和運動にも力を注ぎ、作家の松谷みよ子さんらとともに「子どもの本・九条の会」の代表も務めた。
 
朝日新聞デジタルより
 
 
 
古田 足日(ふるた たるひ、男性、19271129 - 201468日)は、
日本の児童文学作家・評論家。本名同じ。
父は国文学者の古田拡、東大教授を務めた国文学者・古田東朔は兄。
 
作品

全集 古田足日 子どもの本

19931125日に童心社より発行。作品名の後の情報は初出でなく、当書に記された底本情報から。続く名前は順に解説・挿絵画家・作品エッセイ・作品エッセイ二人目。また日常生活を舞台とした作品では、東久留米市のどの場所がモデルになったかの解説も掲載されている。

ロボット・カミイ(1970年・福音館書店)/れいぞうこロボット(1969年・盛光社)/くいしんぼうのロボット(1973年・小峰書店)/ロボット・ロボののぼりぼう(1982年・童心社)/ぽんこつロボット(1970年・岩崎書店) - 細谷建治、田畑精一、寺村輝夫
大きい1年生と小さな2年生(1975年・偕成社)/まぬけな犬・クロ(1987年・日本標準)/ダンプえんちょうやっつけた(1978年・童心社)/さくらんぼクラブのおばけ大会(1974年・童心社) - 小松崎進、おぼまこと、あまんきみこ
モグラ原っぱのなかまたち(1988年・あかね書房)/夏子先生とゴイサギ・ボーイズ(1981年・金の星社)/犬散歩めんきょしょう(1988年・偕成社)/サクラ団地の夏まつり(1973年・中央公論社) - 亀村五郎、西巻茅子、山下明生
さくらんぼクラブにクロがきた(1984年・岩崎書店)/子犬がこわい一年生(1974-1976年・学習研究社)/ねこねここねこおまえはどこだ(1980年・童心社) - 西田良子、遠藤てるよ、宮川ひろ
おしいれのぼうけん(1974年・童心社)/せかいいち大きなケーキ(1970年・小峰書店)/へび山のあいこ(1987年・童心社)/まちがいカレンダー(1989年・国土社) - 播磨俊子、綾茂恭子、神沢利子
水の上のタケル(1984年・偕成社)/ミゲル孫右衛門のまほう(1967年・理論社)/月の上のガラスの町(1984年・偕成社) - 佐藤宗子、谷口広樹、佐藤さとる
宿題ひきうけ株式会社(1979年・理論社)/忍術らくだい生(1977年・理論社) - 藤田のぼる、田島征三、今江祥智、鴻上尚史
ぼくらは機関車太陽号(1982年・岩崎書店)/ぼくらの教室フライパン(1981年・金の星社) - 鈴木実、和歌山静子、木暮正夫
海賊島探検株式会社(1976年・偕成社)/山ぞくとりでの宝(1966年・学習研究社) - 那須正幹、太田大八、しかたしん
うずしお丸の少年たち(1978年・講談社) - はたたかし、滝平二郎、柚木象吉
雲取谷の少年忍者(1986年・童心社)/戦国武士(1965年・学習研究社)/南十字星の少年(1965-1966年・学習研究社) - 後藤竜二、梶山俊夫、長谷川潮
コロンブス物語(1990年・童心社)/豊臣秀吉物語(1991年・童心社) - 西山利佳、伊藤秀男、さねとうあきら
ぬすまれた町(1972年・理論社) - 宮川健郎、長谷川集平、小沢正、友田陽子
別巻 甲賀三郎・根の国の物語(1983-1985年・日本児童文学者協会) - 石井直人、田畑精一、上野瞭

その他

モンゴル来たる 太平記物語(滝口康彦共著、学習研究社、1967年)
六さんと九官鳥 編(ポプラ社、1968年) - 日本ユーモア文学全集
保安官ワイアット・アープ(金の星社、1971年)
荒野の三兄弟(金の星社、1972年) - ウエスタン・ノベルズ
インカ帝国のさいご(岩崎書店、1977年)
学校へいく道はまよい道(草土文化、1991年)
だんち5階がぼくのうち(童心社、1992年)
ともだちいっぱいぐみのきようちえん(福武書店、1993年)
ぼくのたからもの(あかね書房、1993年)
月の上のつよがりロボット(あかね書房、1995年)
さくらさひめの大しごと(童心社、2001年)
ひみつのやくそく(ポプラ社、2002年)

評論

現代児童文学論(くろしお出版、19599月)
表紙・奥付には記載がないが、中扉に副題として「近代童話批判」とある。巻頭の「さよなら未明 -日本近代童話の本質-」という評論で、小川未明を批判。以後未明批判の先駆者として名を残す。
児童文学の思想(牧書店、1965年)
児童文学の旗(理論社、1970年)
父が語る太平洋戦争 1-3(来栖良夫・堀尾青史共編、童心社、1978年)
空と海を血にそめて
どろだらけの戦線
燃える日本列島
現代日本児童文学への視点(理論社、19814月)
子どもを見る目を問い直す 古田足日講演の記録(童心社、198710月)ISBN 4-494-02225-X
児童文化とは何か(久山社、1996年)
子どもと文化(久山社、1997年)
わたしたちのアジア・太平洋戦争 1-3(米田佐代子・西山利佳共編、童心社、2004年)
日本児童文学を斬る(鳥越信・神戸光男鼎談、せせらぎ出版、2004年)
現代児童文学を問い続けて(くろしお出版、201111月) ISBN 978-4-87424-536-1

―ウィキペディアより
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Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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