「きりひと賛歌」には14箇所の削除があった

「美味しんぼ」論議に関連して、次のような記事が週刊誌に掲載された。
1971年の話だから、もう43年前の出来事。
しかし、こちらも舞台となったのは、「美味しんぼ」と同じ出版社から出ている雑誌だ。

その作品は、傑作として名高い手塚治虫『きりひと賛歌』



手塚が、連載作品を単行本化する場合、相当の手を加えるのが常だったことは、ファンにはよく知られている。
しかし『きりひと賛歌』の件は、私はまったく知らなかった。

以下、記事を引用。

 
圧力? 手塚治虫作品にもあった漫画と原子力めぐる深い闇

 
表現の自由に関する議論にまで発展した漫画「美味しんぼ」(小学館)騒動。
福島での放射能リスクを描いたことが物議を醸したが、実は、かつて手塚治虫漫画でも放射能に関する記述で“異論”を招いていた。
その漫画は「きりひと讃歌」。医学界を舞台に、陰謀に立ち向かう青年医師の運命を描いた社会派漫画だ。
 
 
ある村で、顔が動物のように変化する原因不明の「モンモウ病」が発生する。青年医師が調査に乗り出し、自ら発病しながらも住民が飲む水が原因だと突き止めるというストーリーだ。
初めて掲載された1971年のビッグコミック(小学館)誌上では、水の分析過程で「放射能障害」「核物質」という言葉が使われていた。だが単行本になり、版を重ねるうちに、これらの表現が一切消えてしまった。一例を挙げると、「水に微量の放射能」は「水に微量の結晶」に、「核物質などあるはずがない」は「振動する結晶などあるもんか」に変わった。
病因の記述も、「一種の放射能障害による風土病」が「微量の結晶体の蓄積によってもたらされる骨変形をともなった一種の内分泌障害」に変更されるなど、放射能関連の言葉が計14カ所削除されている。
 
この漫画のファンで、改変に気付き、昨夏、版権を管理する「手塚プロダクション」へ問い合わせた大阪市の梅野栄治さん(47)が言う。
 
「最初は『多数の読者から意見が寄せられたので手塚氏が表現を変えた』と言っていたが、やりとりするうちに『会社上層部に何らかの圧力があった。これ以上、お話しすることはありません』と回答が変わった」
 
一方、本誌の取材に手塚プロは「圧力はない」と否定した。
 
「原爆被害者遺族から内容について『行き過ぎ』との指摘があり、手塚が表現を変えました。変更しても作品の訴える力は変わらないと判断したのではないでしょうか」(松谷孝征社長)
 
食い違いはあるが、作者が亡くなった今では確認のしようもない。
 
「被爆者への配慮で手塚氏が表現を変えたのであれば、それも一つの判断。しかし、原子力関係者など社会的な力を持っている人たちがかかわっているとすれば、表現の自由の侵害です」(弁護士の井戸謙一氏)
 
「鉄腕アトム」を描いた手塚氏は、原発反対論者だった。
存命なら「美味しんぼ」騒動をどう見ただろうか。

 
―週刊朝日  201466日号
 
 
物語の核心となる、奇病の原因を、手塚治虫は放射能だとしていたのである。
 
当時の日本は、原発の時代の夜明け前の時代。
全国に原発が普及する契機となった「電源三法」が成立するのは1974年のこと。
しかし、冷戦下の当時は、各国で盛んに核実験が行われていた時代でもあり、核は放射能被害をもたらす恐ろしい兵器であるという認識が一般的であった。
手塚の発想も、そのような危機意識から生まれたものだったのかもしれない。
 
「圧力」の有無は不明確。
しかし、初めての商用原発だった東海原子力発電所が稼動して5年、いよいよ全国に原発推進を進めようとしていた当時の関係者には、
例えばの話であるが、原爆被害者遺族の抗議という形を取ってまでも「圧力」をかけるだけの理由があったと見るのも…不自然ではないだろう。

「変更しても作品の訴える力は変わらない」と手塚は考えたのか?

本作品の衝撃力は、確かに45年後の現在も弱まってはいない。
描いた手塚も凄いが、このような作品を掲載した編集部も凄かった。
それでも、何らかの理由で削除された14箇所があったという事実は…
「表現の自由」の観点からも、重く受け止めるべきだ。
 
「美味しんぼ」について、
雑誌に掲載された「編集部の見解」からは、多くの批判に対して、腰が引けた様子は感じられなかった。
けれど、一方で「表現を見直していく」という一文が含まれていることには留意したい。
それは、単行本化で何らかの変更を加える、という意味なのか…
今後の動きを、注意深く見つめていきたい。
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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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