読書というのは、振り子です。たとえ古い本であっても、過去に、過ぎた時代のほうに深く降れたぶんだけ、未来に深く触れてゆくのが、読書のちからです。そういう読書のちからを取りもどす。思いだす。あるいは、自分のなかに確かめる。そうした未来に降れてゆく読書のちからが、いまも本当は求められているのではないでしょうか。
なつかしい時間
長田 弘
2013/02
岩波新書
\840(税込)
長田弘の文章は、いつも読み終わるのが惜しい。
新刊の『なつかしい時間』も、新書一冊なのにずいぶん時間をかけて読んだ。
言葉の重さ、深さをかみしめる読書の楽しみだ。
筆者はNHKの映像コラムともいうべき『視点・論点』の時間に、地道な提言をつつけていて、ネコパパもときどき目にしていた。
それが17年もの長きにわたって続いていたことは知らなかった。
開始は1995年8月28日。
最後は2012年7月16日。
国境を超える言葉
大切な風景
会話と対話
古い本を読もう
時間の中の故郷
絵本を読もう
樹が語ること
日々をつくる習慣
美しい本の必要…
48篇のエッセイを、
いくどもくりかえされる主題をめぐる48曲の「平均律クラヴィール曲集」のように楽しんでほしい…とは、いかにも長田さんらしい。
ところが、このシリーズの終盤に、東日本大震災が起こる。
筆者は直後の回を「詩五編」に変えて、思いを語っていく。
以下、自由に引用…
人はみずからその名を生きる存在なのである。
自分の名を取り戻すことができないかぎり、人は死ぬことができないのだ。大津波が奪い去った海辺の町々の、行方不明の人たちの数を刻む、毎朝の新聞の数字は、ただ黙って、そう語り続けるだろう。
悲しみは、言葉を美しくしない。
悲しいときは、黙って、悲しむ。
…
つよいのは もろい
もろいのが つよい
ただしいは まちがっていて
まちがいが ただしかった
うそが ほんとのことで
ほんとのことが うそだった
…
一番古い、日本語で書かれた聖書。
ハジマリニ カシコイモノゴザル
コノカシコイモノ ゴクラクトモニゴザル。
コノカシコイモノワゴクラク。
コノカシコイモノとは、ことばだ。
ゴクラクが、神だ。福音が私たちに
もたらすものは、タヨリ ヨロコビである。
ヒトノナカニ イノチアル、
コノイノチワ ニンゲンノヒカリ。
コノヒカリワ クラサノナカニカガヤク。
だから、カシコイモノヨ、教えてください。
どうやって祈るかを、ゴクラクをもたないものに。
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