物語もっと深読み教室
宮川 健郎
■岩波ジュニア新書 739
■新書判222頁
■定価 861円(本体 820円 + 税5%)
■2013年3月19日
■岩波書店
文学作品は,何が書いてあるか(主題)だけでなく,どう書いてあるか(構造)に着目して読むと,もっと深く読みこむことができます.語られ方に注目して,主人公,語り手,作者など,作品の要素に気を配りながら,「走れメロス」「風の又三郎」「こころ」など,教科書などにのっている小説・詩を講義形式で楽しく読み解いていきます.(出版社内容紹介)
作品についての情報ではなく、テクストの読みそのものから引き出される情報をもとに、じっくりと物語を読み込んでいく…テクスト論を基盤とした「ファンタジーとして近代小説を読む」楽しさを伝える講義録。
詩や夏目漱石、森?外など、近代小説も含め幅広いジャンルを扱っていますが、
やはりこれは宮川流『児童文学論』と呼ぶにふさわしい一冊です。
とりわけ感銘を受けたのは、第4章「ファンタジーって何だろう」で、C・S・ルイスの『ナルニア国物語』を論じるくだり。
ナルニアへの通路が、なぜ衣装たんすなのかを考察しています。
引用してみましょう。
つづいて筆者は、
こうしたファンタジーという表現方法が日本にどのように紹介され、
また日本の文学はそれをどのように手法として発展させていったのかを述べていきます。
そのなかで、ファンタジー概念の輸入の前にいち早く「鏡の国のアリス」を読み、ファンタジーに接近していた宮澤賢治の立ち位置にも触れ、彼の作品がどの部分でファンタジーに近く、どの部分で遠いのかを示しています。
なかなか刺激的です。
それにしても「衣装たんす」への読み込みには、考えさせられるものがありました。
着られなかった衣装が、生きられなかった可能性だとしたら、ことは衣装だけに限らない。
私たちの日常には、何とたくさんの「可能性」「無意識の領域」に満ち溢れていることでしょう。
そこからは
使われなかった鉛筆
描かれなかった絵
履かれなかった靴に
置き忘れた傘。
本棚に入れられたまま、読まれなかった本
見逃してしまったテレビ番組
聴いていないレコードに
言いそびれて、そのままになってしまった言葉…
たくさんのものが次々に「ファンタジーのイメージ」として立ち上がってくる…そんな錯覚に襲われます。
ネコパパは、ちょっと立ち眩みがしそうになりました。
私たちの周囲には、まだ開かれていない世界が無数にある。
そこにはもしかしたら、手詰まりに見える世の闇、混沌とした不安に光を当てる可能性がまだまだ含まれているのかもしれません。
物語、童話、本に関心がある人も、ない人も…ご一読をお勧めしたい一冊。
Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。
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