5月某日
初夏の日差しも爽やかな街並みに、音楽が響いています。
ここは、名古屋市の古くからの住宅街。ネコパパが少年時代に生まれ育った場所からさほど遠くない場所です。
ぎゅっと詰まった、感じで立ち並ぶ家屋、近くに軒を連ねる商店街。
車を止めるスペースはなかなかありません。そう、ここは確かに昔の記憶を呼び起こす街。
チャランさんの家に集合したのは、リキさん、マントさん、ネコパパ。
杜の仲間でも、とりわけクラシック好きの顔ぶれ。
リキさんは、10キロ離れた市外から、自転車での到来です。
すると、レコードは…
「自転車で持ってこられるもの、ということで…」
バッグの中身は、すべて10インチ盤でした。
それも貴重(稀少)なものばかり。
そのなかに、二枚のジャズ盤が含まれていたのを意外に思って尋ねました。
「これは思い出のレコードなんですよ」
かつて神戸に、音楽とオーディオを愛するメリケンさんという、音楽とオーディオをこよなく愛する「杜の仲間」がおられて、何度も集まりがあったそうです。
惜しくも数年前、50そこそこで亡くなられたそうですが、お話によれば、人徳豊かな、慕われる方だったのでしょう。
マントさん、リキさんも彼を訪れた仲間の一人でした。
この2枚は、彼のコレクションに含まれ、リキさんへのお薦めの盤でもありました。
ピアノだけを伴に、澄んだ声で歌う若きエラ、気品の漂うリー・ワイリー。
・エラ・フィッツジェラルド(Vo)エリス・ラーキンス(P) Ella Sings Gershwin 英brunswick 10インチ
・リー・ワイリー(Vo)ボビー・ハケット(Tp)/マンハッタンの夜 米Columbia 10インチ
どちらも心にしみわたるような、内省的な歌が刻まれていました。
音盤愛好なんて受け身の趣味、後に何が残るのか、と時に自嘲するネコパパですが、この2枚を聴きながら「いや、そうじゃないな」と感じていました。
星の数ほどある音盤の中からの、この2枚。そこからは、まぎれもない、一人の「音楽を愛し、人生を愛し、人間を愛した男」の肖像が…目に浮かんでくるような気がしたのです。
約5時間、まあ…たくさん聴きました。
その中で起きた、不思議な偶然。名ヴァイオリニストのソロがまとめて聴けたこと。 今回はそれに絞っての報告です。
まずはマントさんのレコードから…
最初は、妖刀のごとく、魔術的な歌い回しのドイツの巨匠フーベルマン。
・ブロニスラフ・フーベルマンMELODIYA復刻集よりショパンとブラームスの『ワルツ』 ソビエトMELODIYA10インチ
レガートな歌があふれる若きフェラスの名演。ソリスト、指揮者、アル中同志の共演というのが何とも…
・クリスティアン・フェラス(Vn)モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番 アンドレ・ヴァンデルノート指揮パリ音楽院管弦楽団 仏VSM
幻の女流、アンドラードの秘盤もついに登場。一点の曇りなき清楚な音色…ブラームス、チャイコフスキーの協奏曲も残されているとのこと。
聴いてみたいものです。
・ジャニーヌ・アンドラード(Vn)/モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第2番 第6番 東独Eterna
ソビエトの名手ユリアン・シトコヴェッキは、マントさんとリキさんの競合。
マントさんの盤でシベリウス、リキさんの盤でバッハ。
骨太の楷書のような力感に満ちたシベリウスに対して、、内向的なバッハの「シャコンヌ」でした。曲によって大きくアプローチを変える面白さ。
・ユリアン・シトコヴェッキ(Vn)/シべリウス ヴァイオリン協奏曲 ニコライ・アノーソフ指揮チェコ・フィル チェコSupraphon10インチ
・ユリアン・シトコヴェッキ(Vn)/バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より「シャコンヌ」 ソビエトMELODIYA(青松明)10インチ
チャランさんの盤で、イタリアの名手リッチが登場。
陽光のような美音のほとばしるメンデルスゾーン。まだ10代の少年指揮者のバックも聴きもの。音質も素晴らしい。
・ルジェーロ・リッチ(Vn) ピエリノ・ガンバ指揮ロンドン交響楽団/メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 英Decca モノラル盤
ネコパパ盤は、スクェアな端正さが粋なミルシテイン。でも弾き振りは…ちと無理がありましたか。
・ナタン・ミルシテイン(Vnと指揮)フィルハーモニア管弦楽団 モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番 米Angel
さすがに、自分で音を生み出さなければ一節たりと鳴り出さない楽器、すべて違います。
自分ひとりで、一つの楽器を、これだけ集中的に聴きこむことはまずありません。
こんなことが起こるのも、聞き会の楽しみですね。
チャランさんのアルテック/ゴトウシステムも、後になるほど元気に、はりきって音を出してくれました。聴き手が多いと、やはり装置も張り切るのでしょう。
皆さん、お疲れ様でした。
チャランさんありがとうございました。
コメント
_リ_キ_
2013/05/13 URL 編集返信10インチ盤そのものに、物語的、逸話的な魅力を感じますね。思いを掻き立てられるのです。
ブリテンの弾き振りによるモーツァルト・ライヴのデザインも、オールドバラの地図と連合王国各国(?)の紋章をあしらった面白いものでした。シトコヴェツキの盤で、ロシアのキリル文字ではバッハをBAXと表記することも知りました。イギリスの作曲家、バックスと間違えてしまいそうです。
yositaka
2013/05/13 URL 編集返信シュナイダーハン(Vn)は、亡父の思いでであり、リキさんとyositakaさんとの最初の出会いの人でした。
チャラン
2013/05/14 URL 編集返信シュナイダーハンのモーツァルトは67年録音、彼のも弾き振りでしたね。ちと心配ですが、オーケストラはベルリン・フィルだから大丈夫でしょう。
次回はぜひ拝聴させてください。
yositaka
2013/05/14 URL 編集返信しかし、聞き手によって感じ方はさまざまですね、僕はフーベルマンの歌いまわしは、年老いた名ヴァイオリニストがそれこそ何も分からない幼稚園児くらいの子供に、クラシックも知らないであろうその子に、ピアノの名曲を(それも分からないであろうが)面白おかしく弾いて聞かせているように思えるのです。『孫をあやしている?』
アンドラーレは、どこまでも雲ひとつない空と海のイメージですね。
捕らえ方は人それですね~
マント・ケヌーマー
2013/05/14 URL 編集返信>面白おかしく弾いて聞かせているよう
これです。これが私には「魔術的な歌い回し」にきこえるのです。感じ方は様々でも、個性は不変。意味づけるのは聴き手の仕事…
『高いけど』…うーん、確かに。リッチは、モノラル盤でさえかなりするんですねえ。
http://members2.jcom.home.ne.jp/silent_tone_record/silent_tone_record/xie_zou_qu_jimenderusuzonburuffufan_ritchiganba_zhi_huirondon_LXT_5334.html
yositaka
2013/05/15 URL 編集返信もう一人。シベリウスの協奏曲で伴奏している指揮者ニコライ・アノーソフは、いまも現役指揮者のゲンナジ・ロジェストヴェンスキーの父親です。音楽家の血は脈々と受け継がれているんですね。
yositaka
2013/05/21 URL 編集返信