星のふるよる

星のふるよる



長崎 夏海 ()
長野 ともこ (イラスト)
63ページ
ポプラ社(おはなしボンボン)
2004/07
 

「東京の空なんて、うそなんだぜ。」カズくんは、こわい目をしていった。だけど、かりんはこの空がすき。それに、たしかにここできいたんだ。『しゃらん、しゃらん』って、星がまたたくときの音…。目にみえてもみえなくても…空には星が、あの子のなかにはやさしさが、いっぱいにかがやいてる。
 
かりんの両親は食堂で働いていて、帰りが遅い。
うちは団地の五階・遠くにはビルの窓明かりが見え、夜も空は明るい。でも、そんな星空がかりんはすきで、ときどき「しゃらん、しゃらん」という星のまたたく音が聞こえたりする。
けれど、このあいだ団地に引っ越してきたばかりのカズくんは、そんなかりんをにらんだり、ちょっとどついたりする。
暴力事件で転校してきたという噂のあるカズくんは、かりんに言う。
「おまえ、ほんとの星、みたことあんのかよ。東京の空なんて、うそなんだぜ」
 
カズくんは、お父さんと寝転んでみた、湖のほとりの星空の話をする。
穴だらけの傘を通してみた「昼の星空」も明かりに照らされた団地の星空も、かりんには急に色あせて感じられるのだった。
そんな夜、バンソウコウを買いに出かけた夜のコンビニで、かりんはカズくんに会う。
カズくんの父親も帰りの遅い仕事で、「おれのばんごはんと、あしたのあさごはんと、すだこ」を買いに来ていたのだ…
外に出たかりんはバンソウコウをまく。
バンソウコウには一枚一枚に星の絵がついていた。
 
「わかった」
かりんは、つぶやいた。
「かくれてるんだ」
みえないだけで、このなかには、たくさんの星がひかってるんだ…
 
 
星を題材にした作品には、
孤独と別離、哀惜の情がよく似合いますね。

「銀河鉄道の夜」
「よたかの星」
「星の王子さま」

それは、星の世界と対比されることで、人の小ささや儚さが、際立って感じられてしまうからかもしれません。 
幼年文学にも「孤独」を見事に描く作品がある…そんな例として、宮川健郎はこの一冊を」を挙げました。 

でも、ネコパパの受け止めは、ちょっと違っています。

この作品には、たしかに深い孤独感が漂っています。
けれど、題材から想像されるような感傷的なもの、別離、哀惜の寂しさは、あまり感じられませんでした。
そこが、すごい。

それぞれの事情を抱えた、互いに異なるこどもがいる。どこにでもいそうな、コミュニケーションのうまくない、普通の子どもたちです。
彼らは、不器用。軋み、反発しながらも、なぜか、どこかで惹きあっている。
そして、星という一点で共感しあう。
それは、非常に難しい、稀なことです。でも、もしこんなことがあったら最高だなあ…と、
語る大人も、聞く子どもも、ほんとうにそう思えるのですね。

大勢に向けての語り聞かせではなく、一対一で、じっくりと「読みあい」たい作品です。


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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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