辛口のチェロ、工藤すみれ

LOVE OF BEAUTY/工藤すみれ



 
工藤すみれ(VC) 江口玲(P)
2000.12 ニューヨークにて録音
フィリップス(ユニバーサル)国内盤CD 2001/03/23UCCP-1025


1. チェロ・ソナタ ニ短調(ドビュッシー)    
2. 夢のあとに(フォーレ/カザルス編)            
3. シシリエンヌ(フォーレ)             
4. 「スペイン舞曲集」~5曲 アンダルーサ(グラナドス/マンザー編
5. 「恋は魔術師」~火祭りの踊り(ファリャ/ピアティゴルスキー編)      
6. 「動物の謝肉祭」~白鳥(サン=サーンス試聴する
7. 夜想曲嬰ハ短調遺作(ショパン/ピアティゴルスキー編)        
8. チェロ・ソナタ ト短調op.65(ショパン)  
 

 
ドビュッシーチェロ・ソナタ
冒頭のピアノの打ち込みが鋭い。対するチェロは、冒頭では鋭さを溜めて、のびやかに滑り出る。でも、そのすぐあと、音がしゃべるように短く刻むところになると、俄に緊張が増す。
楽想への反応が素早く、音の彫りが深い。
2楽章、チェロのピチカートとピアノとの不安な対話の部分。
爪弾きの一つ一つに、何かを訴えるような気迫がこもっている。ピアノも鋭い打ち込みで反応する。音量もある。伴奏なんてものではない。
二人はどちらも、この曲をフランスの作曲家のこじゃれたソナタ…なんて、まったく思っていないらしい。
陰影の深い、先鋭的な現代音楽として、再現しているのだ。
 

まるでアイドル路線のようなアルバムタイトル、そしてアートワークだが…この一枚に収められた音楽は辛口である。
取扱注意!
 

真摯なアプローチはショパンのソナタでも同様だ。
このソナタ…晩年の曲だが、ネコパパは個人的に、彼の曲中でも飛び切りの逸品だと思っている。
1楽章が全曲の半分以上で、緩徐楽章がわずか3分しかない。
ショパンの特徴である旋律美も抑えられていて、渋い。
けれど、立体感、音の動きの斬新さ、漂う哀愁などは、ほんとうにすばらしい。ショパンは「ピアノの詩人」の枠にとどまる人じゃ決してなかったんだ。
工藤のチェロはドビュッシー同様、少し硬めの音で、鋼がしなるように切り込んでいく。瑞々しさも十分。
ドビュッシーとの違いは、曲のスケール感を生かし、フィナーレに向けて高揚していく音楽として構成していることだ。
二人が一丸となって駆け抜けるフィナーレを耳にして、初めて曲を知ったような気持ちになった。
江口玲の硬質で俊敏なピアノの動き…曲のせいもあるが、これでは工藤のソロアルバムとは呼べない。彼なくしてこの演奏はなかっただろう。
すばらしいデュオだ。

 
曲の小品も、ため息の出るようないい曲ばかり並んでいる。
中でもショパンの「遺作のノクターン」。
ピアノの原曲も、ジネット・ヌヴーの演奏するヴァイオリン編曲盤も素敵だけれど、こんなに魅力的なチェロ版もあったのか。
曲の沈んだ、感傷的な味わいが、チェロの音を得て際立っている。
これらは二つのソナタと違って、ストレートな演奏ぶり。
老大家たちが聴かせるような、味のある語り口を期待すると、ちょっと物足りないが、若々しく艶やかな音色を聴くだけで、十分に楽しめる。


蛇足ながらこのディスク、録音がまた、すばらしい。よい再生装置をお持ちの方なら、吃驚するような響きが聴けるかもしれない。
 

チェリストの工藤すみれは、現在ニューヨーク・フィルの一員で、ソロ活動は少ない様子だ。
ディスクはオーケストラ入団前に、フィリップスから枚だけ出している。これはその枚目。
以来12年間、新盤は出ていない。
その間に、フィリップス・レーベルもなくなってしまった。


こういうのが「幻の名盤」になっていくのだろうか。
 
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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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