真夜中の大時計の音


■Thelonious Monk (Solo On Vogue)
■Thelonious Monk ,piano
■1954.6.7
■Vogue

1.ラウンド・アバウト・ミッドナイト
2.エヴィデンス
3.煙が目にしみる
4.ウェル・ユー・ニードント
5.リフレクションズ
6.ウィ・シー
7.エロネル
8.オフ・マイナー
9.ハッケンサック

学生時代、bassclef君の自宅で聴かせてもらい、強く深く、印象に残った一枚。
社会人五年目の冬に購入したのが上掲のLP。ジャケットはまったく見覚えのないもので、
これは日本独自のデザインだったのだろう。

ちょうどこれを購入してすぐの、夜だったと思う。

このLPを聴いているときに若いセールスマンが訪れてきて、

「あ、ジャズですね。モンクですか。
私も好きなのです。このごろはロックばかりで、なかなかこういう音楽を聴いている人は
いないんですよ。いいですね。なんだか生きていてよかった、という気持ちになりますね。」

などと、言葉を交わしたのを覚えている。

モンクのピアノを聴くと、
「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」という言葉と響きあうように、
フィリパ・ピアスの小説「トムは真夜中の庭で」(Tom`s midnight gerden)に描かれたある場所が思い出される。

それは、この作品の鍵となる、古い大時計のある玄関。
深夜、作品の舞台となる屋敷で、古い大時計が十二時の鐘を鳴らす。
しかしそれでも音は止まらず、改めてもう一度、一つ、二つと鳴り続け、とうとう十三回目の鐘が響き渡る。
そのとき、屋敷を包む空間は一気に時を越え、過去の時代にさかのぼるのだ。

その、大時計の鳴らす音。
時代の響きが重なり、不思議な不協和音を生み出し、
しかもそれが確固たる、ゆっくりとしたリズムを刻んでいく、そんな音。
モンクのピアノは、時を駆けるこの時計の音に似ている。

「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」はジャズのスタンダードとなり、
モンク自身も何度も録音している。
最近、チャーリー・ラウズがサックスでテーマを演奏するライブ録音を聴いた。
テンポや語り口がモンクのイメージに忠実になるよう、ラウズは懸命に演奏している。
しかし、本盤のような情感と熱気は生まれてこない。
それは、古い時計鳴らす含蓄深い音色が欠けているためだろうか。

訥々として、音は少なく、それだけに一音の無意味さもない、均質の強靭さと深い呼吸が感じられる音。

音楽家としての一生を特異な演奏スタイルで貫いたために、一般の評価を得るには時間を要したが、
孤独な長い時間は、いっそう彼の音楽を深く、確固たるものにしていったに違いない。

生み出したジャズの名曲は数十曲。
当時その世間で蔓延していた麻薬には断じて手を染めず
一方で友人バド・パウエルの違法所持に義理で付き合って罪をかぶり、平然としていた。
マイルスグループを放逐されたコルトレーンに共演の機会を与え、その底知れぬ才能を一気に解き放った。
モンクは器の大きい人物である。その器が強い音楽の波動となって、
時も場所も越え、私たち聴き手を励まし、支えてくれるのだ。


bassclef君のブログに、本盤について書かれたすばらしい文章があった。
引用したい。


全てが気迫のこもった素晴らしい演奏ばかりです。その中で、唯一のスタンダードの「煙が目にしみる」・・・これがまた素晴らしい!よく「モンクは変。判りにくい」とか言われるが・・・この「煙が目にしみる」みたいなスタンダードを弾くときのモンクは、一味違います。誰もがよく知っているあのメロディ、あの魅力的なメロディーをそれほど大きく崩したりはせず、謳い上げています。強いタッチなので、演奏全体にゴツゴツした「堅い岩」みたいな雰囲気を感じるかもしれませんが、それがモンクの「唄い口」です。そうしてこのモンク独特の無骨な唄い口が、却ってこの曲の持つ<哀感>みたいなものを、よく表わしているように思います。
ちょっと気持ちが弱った時なんかに聴くと・・・「おい君・・・人生ってそんなに悪いもんじゃないよ」とモンクに優しく諭されているような気分になります。


bassclef君、私もまったく同感です。

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コメント

コメント(3)
No title
yositakaさん、こんばんわ。yosiさんのブログに、どんどんいいジャズレコードが出てきて・・・見るのが(読むのが)楽しみになりました。shigeさんとyosiさんとの3人会からまだ1週間しか経ってないのに・・・なぜだかあれが遠い昔のことのような変な感じもしてます(笑)
モンクの「ソロ・オン・ヴォーグ」~これは本当に好きな1枚です。yosiさんの写真の盤はキングから出た、たしか+1曲のやつですね。学生時代にお聴かせしたというのは、僕が高校2年の時だったかに買ったThe Monk Runs Deep(東宝)というタイトルのやつでしたね。

bassclef

2008/08/31 URL 編集返信

No title
(続き)いつも長いコメントでごめん!
>強靭さと深い呼吸が感じられる音~
う~む・・・と唸る表現だと思います。モンク独特の語り口~厳しさとしかし温かい眼差しが入り混じったような、あるいは泣き笑いのような(これをペイソスというのかもしれない)なんともいえない音の世界・・・一度はまるともう抜けられません(笑)
yosiさんがこのレコードを聴いていたら現れた若いセールスマン・・・それもなにやら短編小説のような情景ですね。面白い絵が浮かんできます。それも含めて・・・モンクの世界だったのか(笑)
拙文の引用・・・大いに照れます・・・がThanksです!

たぶんこれからもお互いに、モンクの音は聴いていくしかないのです(笑)

bassclef

2008/08/31 URL 編集返信

No title
いやあ反応がお早い!まだ未完成の記事でした。申し訳ない。
今見直したら、誤字脱字の山。あわてて手直しをしたところです。
音楽を言葉にするのは難しいが、そうすることで自分の中の音楽の位置がよりはっきりし、自分という人間がわかってくる。
楽器をやらないので、何でも自分の得意分野に引き寄せることになってしまう。でも、これもひとつのジャムセッション、と考えるのも楽しいことです。今後もよろしく。

yositaka

2008/09/01 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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