マスタード・チョコレート

マスタード・チョコレート[コミック]

冬川智子
イースト・プレス
2012/4/14
 
文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作とのこと。
表紙の地味さに惹かれて手に取ってみたのだが…ネコパパ、一気に引き込まれてしまった。



 

アマゾン内容紹介。
 
人とかかわることが苦手で、いつも孤独感を抱える高校生、つぐみ。
そんな彼女の世界が、美術予備校へ入学してから、ほんの少しずつ変わり始める。
-不器用な心の動きを繊細に描く、少女の恋と成長の物語。

ケータイコミックとして週刊連載され、大好評を博した本作。
手探りで他人との関係を築いていく主人公の姿が共感を呼び、連載中から書籍化を熱望する声が続出。
ゆっくりと進んでいくストーリーと、心の琴線に触れる数々の描写により、なんども読み返したくなる作品。
連載時の最終話に加筆し、番外編を収録。

 
ケータイコミックとして週刊連載、とは?
個人が発信しているのではなく、電子化された雑誌があり、編集も介在してきっちり発行している…という意味か。どうもそうらしい。
一コマは携帯画面の大きさ。本になると1ページに縦長のコマが4つ並ぶ。
シンプルな描線で背景も最小限なのは、メディアの特性に合わせた結果だ。でも、これが作品の内容ととてもよく合っている。
こうして本として読んでも、いい作品だと思う。
 
主人公は高校3年生のつぐみ。津組倫子(つぐみ・りんこ)。
名前みたいな名字。周囲に自分を「つぐんでいる」彼女の立ち位置をそのまま表している名だ。
彼女には名前が二つある。
「つぐみ」が「りんこ」を隠している。
このことは、物語が進むにつれて、彼女が変わっていくだろうという見通しを読者に伝える。
 
物語は、美大をめざして美術予備校へ通い始めたつぐみが、講師とぎくしゃくした会話をするところから始まる。
細面でイケメンの若い講師、矢口とは対照的に、丸顔で無表情、笑顔なし、口調もぶっきらぼうで、周囲と浮いた感じのつぐみ。
美大を「孤独でも居場所を見つけられる大学」と期待して、進学を志す。
そんな彼女に好意を持ち、なにかれとなく面倒をみる矢口を、つぐみはかえって疎ましく思い、遠ざける。

一方、お気に入りのミュージシャン、イグルーのファンである男子、浅野に出会い、つぐみは、はじめて他者とまともに会話している自分を発見する。
つぐみに親しみを持ち、無愛想にもめげず、心を開いてくる女子マリとも、うちとけていく。
 
この三人に、あとほんの少しの登場人物が絡んで、
進学前、進学後の若者たちの、心の触れ合いと軋み、恋愛模様が物語られる。
ストーリーそのものは、絵柄と同じく、シンプルだ。
多くの読者が期待するとおり、自分を閉じていた「つぐみ」はだんだんと変わっていき、最後にようやく「倫子」に出会う…。
 
だから、この作品の魅力は、主人公の気持ちそのものを表したような、絵そのものと、
先を急がず、人物一人一人の心の動きをゆっくり、ていねいに描き込んでいく語り口にある。

作品の中に、つぐみが携帯電話で話すコマがある。いたずら書きのような丸顔にかかっている三角定規のような髪が、手に持つ携帯をそっと隠す。

そのとき、彼女の表情に体温がよみがえる。

情報洪水の象徴のような、携帯電話というメディア。
けれど、その込み入った小さな画面の中に、この作品のようなゆったりとした時間が流れ込むことがある。
都会の、人ごみの中で、静かに見入る読者がいる。
それは、もしかしたらこの世界の小さな救い、かもしれない。

 
作品タイトルは、つぐみの好きな絵の具の色。
マスタードとチョコレート。本書のカバー絵は、この二色に彩られている。主人公のキャラクターを象徴し、また物語を締めくくる巧妙な伏線にもなっている色である。逸品。
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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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