魅惑の音、魅惑の宵

2月某日

チャラン・ポワンさんのお招きを受けて、名古屋市内のご自宅を訪問。
「最近やっと聞ける音が出てきたので」とおっしゃるのだが…
聞ける音どころか、ネコパパの耳には、ちょっと異次元の、音体験だった。


まず、チャランさんが装置のチューニングに使われている、レファレンス盤、藤原真理「夢のあとに」(DENON)を聞かせていただいた。



ピアノ前奏に続いて流れ出す、ふくよかで実在感のあるチェロの音は、鳥肌ものだ。
これは彼女のデビュー盤で、1978年コロムビアスタジオでの収録。

実は私も、藤原真理のLPを持参してきていた。
彼女のライヴに接したのが1984年。そのとき会場で購入した「愛の言葉DENONは、2枚目の小品集。
リスニングルームで最初にした会話は

「藤原真理ですね。実は私も持ってきたんですよ」
「なんと、どちらもサイン入りの盤で」
「おおーっ」

…という具合。


こちらは1980年、狭山市市民会館でのもので、チャランさんの装置では、演奏や、録音場所の違いがはっきりと聴き取れる。
デビュー盤は、マイクが楽器に近く、演奏を目の前で聴くよう。
初めての録音ということで構えもあるのか、のちのアグレッシヴなスタイルとは違い、どの曲も、滑らかで均質な音色で演奏されている。「夢のあとに」「白鳥」といった小味な作品は磨かれた宝石のように愛らしい。一方、「コル・ニドライ」や「ニーグン」などの濃い曲では、ちょっと優等生的で、さらりと流れすぎる印象もある。
それが、2年後の「愛の言葉」ては、表現に自在さを増していることが、よくわかる。

 
チャランさんの装置はマルチ・システム。
アルテックのウーファー、ゴトウユニットの中音、高音のホーンを各一台の管球式パワーアンプで駆動、それにサブウーファーも加わるという規模である。
コントロールアンプ、チャンネルデバイダー、プレーヤー、カートリッジなど、すみずみまで手のかかった製品で、チャランさんがエンジニアの拘りで一つ一つ吟味されていることが伝わってくる。
中でもゴトウユニットのスコーカーホーンの存在感は素晴らしい。
金属の塊から削り出したかのような外感、ゴツゴツとした焼き物のような背面部の手触りなど、オーディオ製品というよりは手に縒りをかけた工芸作品を思わせる。



その開口部の奥を辿っていくと、時をさかのぼり、音楽が演奏された過去へたどり着けるのではないか…


そんな、はるか昔の音が聞ける一枚を聞かせていただいた。 
1903年から1912年にかけて録音されたヤン・クーベリックのヴァイオリン。



彼は高名な指揮者、ラファエル・クーベリックの父君である。
ソビエト・メロディアの復刻LPという貴重盤で、バッハの「アリア」、サラサーテ「アンダルシアのロマンス
古い機械録音なのに、耳に心地よく、物足りなさは皆無。終始聞かれる独特のポルタメント奏法も魅力的。


同じくメロディア盤だがこれまた貴重な「新世界レコード」の初期盤。
ヴァレリー・クリモフ独奏、カール・エリアスベルク指揮モスクワ・フィル、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。
第1回チャイコフスキーコンクール優勝記念の録音。…というと1958年、ピアノ部門でヴァン・クライバーンが優勝し、世界的話題となった、あの年のものだ。



ご近所に、稀少な国内盤を扱う趣味的な中古店があって、そこで入手されたとのこと。

「古い国内盤に高い値をつけている。相手が店主だったら、値切ったところだけど、あいにく奥様でね…」

幾らだったのだろう。盤面はかなり痛みがあり、ノイズも盛大。でも音質は鮮明。すっきりと抜けている。
あの当時のモスクワ音楽院でのモノラル録音とは、俄かに信じ難い。
1958年に、ソ連にはこんな透明な、軽やかに天を舞うようなヴァイオリンを弾いた青年が、いたのだ。
彼は、今どこで、何を?


チャランさんは多忙な在職時はオーディオに取り組む余裕なく、定年後に時間を得て長くしまいこんでいた装置類を再調整、レコード収集にも加速がかかった…というご様子だ。
レコード棚には垂涎もののオリジナル盤がずらり。
エラート、カリオペ、アリオン、ハルモニア・ムンディなどフランス盤にはとくにご執心の様子。

カール・リステンパルト指揮の全然知らない盤が…



これはぜひ次回に聞かせていただこう…

クラシックだけでなく、ジャズやロック、ポピュラーなど、オールジャンルのコレクションもチャランさんの魅力。
シャーリー・バッシーの歌う「ゴールドフィンガー」や、映画「南太平洋」のサウンドトラック盤も聞かせていただいた。


魅惑の宵」…聴くのは何年ぶりだろう。
歌は吹き替えで、ブルーノ・ワルターがオペラ上演で重用した名バリトンのエツィオ・ピンツァが歌っている…ということを昔聞いた記憶がある。
事実はともかく、たしかにこれはオペラの声だ。
チャランさんの装置は中低音がいい。ずっしり、しっとりという感じ。


気がつくと、現実の時間も日暮れ時…


5時間があっという間。
チャランさんのご家庭のこととか、貴重なお話もたっぷりと伺うことができ、充実した時間でした。部屋はリスニングルームではなく、チャランさんご夫婦の居室とのこと。長居の上に、お茶などいろいろと気を遣っていただき、ありがとうございました。

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コメント

コメント(4)
No title
すごいシステムですね。プラス楽しいレコード談義。同好の士の時間はすてきですね。

_リ_キ_

2013/02/11 URL 編集返信

No title
リキさん、次回はぜひご一緒しましょう。
ニーノニーノさんのご助言で、随分音が改善されたそうです。なんだか、私の訪問で一段と快調になってきたと伺いました。
やっぱり、装置のほうも色々な人に聞いて欲しいんですよ、きっと。

yositaka

2013/02/11 URL 編集返信

No title
マルチですか我が家と真逆ですね同じレコード隙同士、時間のたつのもあっという間の楽しい一日ではありませんでしたか。チャランさんのSPはきっと男性なんでしょうね。

mant_kenumer

2013/02/13 URL 編集返信

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マントさん、マルチシステムの音は初めて聞きました。
見かけは確かに男性ですが、音は好バランスで聴き疲れのしないものです。ずっと手をいれ続けてきた年輪みたいなものが感じられました。
レコードコレクションも多彩。見せていただいたものは一部ですが、聞かせていただきたいものはまだまだたくさんあります。ミニ杜候補ですね。

yositaka

2013/02/13 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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