恒例、豊橋夏の聴き会②

bassclef君宅での聴き会の報告を続ける。

後半は、マイルス・デイヴィスのプレスティッジ・レーベル初期作品を集中的に聴いていった。

ネコパパもsige君もマイルスには目がない。とくにこの辺りは学生時代から繰り返し聴いてきたものだ。
それでなお、この新鮮さ。次から次へと聴きだすと、もうとまらない。
あっという間に数時間過ぎてしまった…


コレクターズ・アイテムズ』より、『ノー・ライン』『バイヤード・ブルース1956.5



チャーリー・パーカーとの共演で有名な一枚だが、
今回はそれではなく、B面のソニー・ロリンズ、トミー・フラナガン、ポール・チェンバース、アート・テイラーとのクインテット。
時期的には、コルトレーン等とのレギュラー・クインテット結成後なのに、なぜか別メンバーで録音している。それも、凄い顔ぶれだ。
ロリンズは好調。クールなマイルスと好対照な熱い歌心が魅力的だ。5人が楽しみながらのびのび演奏しているのが心地よい。このセッションが3曲だけで終わりというのは…


ブルー・ヘイズ』より、『4月の思い出』『フォア1954.3~10



マイルスのワン・ホーン作品を主体に、複数のセッションを集めたアルバム。

4月…』は有名盤『ウォーキン』と同じ日の演奏。
ホレス・シルヴァーのピアノがテーマのメロディをさらりと奏でると、それにかぶるように登場するマイルス。オリジナルなフレーズを淡々と、緊張感を持って奏していく。
そのラインを変えないスタイルで、まずホレス、つぎにアルトサックスのデイヴ・シルドクラウドがソロをつなぐ。
ベースのパーシー・ヒースとドラムのケニー・クラークは、まじめ一本のリズムで支える。
音楽はマイルスの色にすっかり染められ、それがまた心地よい。

『フォア』は後年の疾風のようなスタイルではなく、ミディアムテンポだ。五つの音節からなるシンプルなテーマを、マイルスは初めの三つの音節は淡々と、後半はほんの少しの音のずらしと間合いで情感を紡ぎ出す。音のつながりが「歌」に変わる瞬間だ。


マイルス・デイヴィス・ウィズ・ミルト・ジャクソン』より、『チェンジズ』1955.8



アルバム最後を飾るバラード演奏。
ミルトのヴィヴラフォンも、ピアノのレイ・ブライアントもマイルスの音楽に共鳴し、音数を絞りに絞って、情感を表出していく。
bassclef君架蔵の米オリジナル盤は、ジャケットの存在感が再発盤とはまるで違う。厚みがあって、ポートレート写真の色も深い。まるで50年代の空気をまとっているみたいだ。


ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット』より、『ジャスト・スクイーズ・ミー1955.12




「小川のマイルス」の異名で知られる。
名高いレギュラー・クインテットの最初の一枚だが、ジョン・コルトレーン以下のメンバーは、ここではまだ支えに回っている。
主役はマイルスのトランペット。この綿々たる歌いっぷりに酔い痴れる。


スティーミン』より、『ウェル・ユー・ニードント』『アイ・フォール・イン・ラヴ1956.10



レギュラー・クインテット絶頂期の4部作、その最後に発売されたのがこれだ。

プレスティッジ・レーベルとの契約消化のため、録音は2日間で25曲、全曲ワンテイクで一気に仕上げ、発売は年1枚のペースでゆっくりと…
マイルス人気は高まると予想してのプロデューサー、ボブ・ワインストックの戦略は、当たった…

有名なエピソードだ。

「でもさすがに最後の一枚になると、ちょっと残り物、という観があるなあ」
と、bassclef君。

バラードが3曲あることや、最後の1枚なのに、1曲を除いて5月の古いほうのセッションからの選曲になっているのは、確かに落ち穂拾い的ではある。
でもそれは曲の話。演奏内容は申し分ない。ただ1曲、10月のセッションからの、このモンクの名曲も、上機嫌に踊るモンクを思わせる愉快な曲想を生かしつつ、きっちりと洗練されている。
テーマのあと、マイルスのトランペットに絡んで登場するコルトレーンの音がきりりとしている。
いつものシングル・トーンの煌めきを抑えて低音でピアノをたたき込むレッド・ガーランド。
アルコに持ち替えてベースから荒々しい音隗を繰り出すチェンバース
グループとしての個々の存在感も、初録音のころとは段違いで、全員の音がそそり立つ。

そして最後には、名残を惜しむかのように美しいバラード『アイ・フォール・イン・ラヴ』を持ってくる。
これ、実は5月のセッションのものだが、星のまたたきのようなガーランドのピアノに乗せて歌い上げるマイルスのミュート・ソロは四部作最後の一曲にふさわしい。

ちなみにこの曲、7年後のコロムビア時代にも録音している。
セブン・ステップス・トゥ・ヘブン
こちらもカルテット編成で、ビクター・フェルドマン(P)ロン・カーター(bs)フランク・バトラー(ds)との共演。聴き比べてみると、新盤の方がずっと明るくアクティヴな演奏だ。

 
マイルスの作品の中で、この5枚は地味な存在なのかもしれない。。
でも、一つ一つ丁寧に聞いてみると、同時期の有名盤と比べても、まったく遜色がない演奏ばかりだと思う。
考えてみれば、これらの録音を行ったのは、マイルスがまだ20代後半のころ。
他のメンバーも、みな若かった。

このころの彼らが生み出したのは、今の耳で聴くと、青臭さの片鱗もない、抑制の美を極めたかのような、いわば「大人の音楽」に聴こえる。
このあとの彼らは、むしろ逆に、若々しく躍動し、流動し変転するする音楽へ身を投じていくのである。

なんだか、クラシックの演奏家とは逆のルートを辿っているようで面白い…


今回も最高に愉しい時間でした。bassclef君、sige君、ありがとう。
ぜひまた聴きましょう。


 
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コメント

コメント(9)
No title
やあ、yositaka君。マイルスの初期prestigeのレコード・・・いくつかまとめて聴くと僕自身も改めて、マイルスという人の凄さみたいなものを感じました。その凄さとは・・・「オレは絶対にありきたりのフレーズは吹かないぞ!という信念というか、確固たるジャズに対する美学というようなもので、だから、マイルスはいつも・・・アドリブ全体の展開というか構成を考えて、それを手癖フレーズに頼らず、考え抜いた、しかしシンプルなフレーズで紡いでいく。そしてマイルスは・・・フレーズだけではない。あの「音色」が暗く沈んだ調子で、そうしてどの曲・どのアドリブにおいても、マイルスの残した音は・・・とても味わい深くて心に残る~ということなのかな・・・と思うわけです。そんな風なことを思っていたので、yositaka君の言う、
≪ほんの少しの音のずらしと間合いで情感を紡ぎ出す。音のつながりが「歌」に変わる瞬間だ≫は、なるほど!と大きく頷いたわけです(笑)

bassclef

2012/08/19 URL 編集返信

No title
(その2)
Steamin'の「残り物の感」~いやあ・・・そんな風なこと言いましたね。悪気はなかったんです(笑)
なるほど・・・yositaka君が弁護してくれたように(笑)いい曲のテイクは先の3枚に使ってしまったので、ちょいと地味めの曲ばかりになってしまった・・・というだけのことなんですね。
4部作は5月と10月のセッションで、このSteamin'収録の唯一の10月テイク~well you needn't は、
≪マイルスのトランペットに絡んで登場するコルトレーンの音がきりりとしている。いつものシングル・トーンの煌めきを抑えて低音でピアノをたたき込むレッド・ガーランド≫と、君がしっかり表現しているとおり、すごく聴き応えのある演奏だと思います。

bassclef

2012/08/19 URL 編集返信

No title
(その3)
この前、お聴かせした僕の手持ち盤は~
『コレクターズ・アイテムズ』 と 『マイルス・デイヴィス・ウィズ・ミルト・ジャクソン』は、黄色ラベルのNYC。
『スティーミン』は黄色ラベルNJ。
この3枚は、1stオリジナルなので、盤質はともかく、その鮮度感は味わえたと思います。
しかし『ニュー・マイルス・デイヴィス・クインテット』~僕の手持ちは、ジャケット違い(「小川」ではない)7254番:黄色NY(「小川」が緑色~青色とあるので、7254番は3rdになるのかな)なので、たぶん・・・録音音質の鮮度感としては、かなり落ちた感じだったと思います。
それに対して『ブルー・ヘイズ』も残念ながら黄色ラベルNJで2ndだったんでが、それでもあの音の鮮度感・・・これは≪ベースのパーシー・ヒースとドラムのケニー・クラークは、まじめ一本のリズムで支える≫と表現してくれた、その時のベースのキリリと締まった録音の質感によって、パーシー・ヒースという人の硬質な良さ・・・みたいなものを、僕は初めて感じとれたような次第です。それと、このセッションではアルトのデイヴ・シルドクラウドもなかなかいいんで

bassclef

2012/08/19 URL 編集返信

No title
(その4 長くてゴメン:笑)
この『ブルー・ヘイズ』と同日録音の3曲(Walkin'に収録)は、演奏ももちろんのこと、さぞやいい音で録音されているんだろうなあ。 今、ビクター国内盤でその3曲を聴いてます。だいぶベース音が膨らんだ感じありますが、やはりいい感じの音です。これはもう・・・Walkin'のNYC盤、聴いてみたくなりましたね(笑)いやあ・・・しかしyositaka君も、相当に、マイルスのこと、好きなんだね(笑) それがよく判る素晴らしい記事でした。
それにしても・・・マイルスは、聴いてて、ホント、飽きない(笑)
それって、凄いことだよね。

bassclef

2012/08/19 URL 編集返信

No title
bassclef君、熱血の4連発コメントをありがとう。この記事は、帰ってから家で一つ一つ手持ちのLPやCDを再聴しながら書きました。
マイルス自身の演奏については、まったく君のコメントに同感です。まさに「確固たるジャズに対する美学」ですね。
音盤に関するデータを書き込んでくれたおかげで、資料的にも記事の精度が上がりました。いつもながら、初期盤の音についてはLPの魔力みたいなものを感じます。次の機会が楽しみです。

yositaka

2012/08/19 URL 編集返信

No title
こんにちは。楽しみにしていたbassclefさん家の聞き会もあっという間に終わってしまいました。それだけ充実し、流れる時の間が短く感じられたことと思われます。また、空気感、鮮度感と文字にしてしまうとなんだか硬質なイメージになってしまいますが、呼吸しているような音、金属質や木質のはっとする音たちに、何度もため息をつきました。よかったですね。bassclefさんにお願いし、また訪れたいですね。マイルスのアルバムを聞き、きちっとした編曲(ヘッドアレンジ)が端正なレコード音楽の完成を支えていたんだと改めて思いました。「四月の思い出」は、『ウォーキン』セッションとほぼ同日(26日前)なんだけれど、初めてのヴァンゲルダー録音。出だしは原メロディーを崩し、幾分チャイナ風にしてあるものの、しっかりしたアレンジ。ブラウン、ローチ、ロリンズらもこの曲を1956年1月録音。このマイルスのトラック(アレンジ)は、大きく影響与えたことでしょう。

sige

2012/08/20 URL 編集返信

No title
その2
また、「ウェルユーニードント」も、テーマ部で2拍なのか1拍半なのかマイルスとコルトレーンがずれてテーマを吹き、終結部では、のちのジャズメッセンジャーズにもつながるようなアレンジでテーマを崩して吹いています。アドリブについてはyositakaさんが丁寧に書いているので略します。bassclefさんも書いている「確固たるジャズに対する美学」がこんなところにも現れているように感じながら、聞いていました。ほんとうに、マイルスは聞いても聞いても新鮮な気持ちになる、いやすべてジャズの音盤から新しい声が次々と聞こえてきた一日でした。

sige

2012/08/20 URL 編集返信

No title
sige君、今回も楽しい聴き会でしたね。『4月の思い出』を聴くと、へッドアレンジによって提示された音楽のラインが、曲の最後まで一貫した音の波を作り出し、メンバーがいかなアドリブを繰り出そうと崩れないことがわかります。自由度が高いと言っても、勝手にやるのとは大違いで、最後までマイルスの目が光っている。クラシックと違って、簡単な打ち合わせだけで、しかも一度のセッションで相当数の曲を録音してしまったのだから恐れ入ります。
当時の辣腕ジャズメンは、一時間を数日分の密度で生きた。多くの場合、そのリスクが生活面に影響したのは悲劇でしたが…

yositaka

2012/08/21 URL 編集返信

No title
今日ニーノニーノさんのサイトを見たら、『コレクターズ・アイテムズ』の米オリジナル盤が出ていました。よい状態のもののようです。
しかし価格は、
ネコパパ基準からすると、凄いです…5桁です。

yositaka

2012/08/25 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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