名曲喫茶探訪③

阿佐ヶ谷の名曲喫茶『ヴィオロン』は、二度目の訪問になる。
 
アヤママと脱原発デモに参加した、その帰り。
隣り合っているタイ料理店『ビッキーニ』でまず食事をして、そのあとでちょっと立ち寄ろう、と目論んでいたのだが、
時間が押して、食事の時間が遅くなり、閉店時間が過ぎてしまった。

ビッキーニの料理はとても美味しく、ヴィオロンは次の機会でいいかな…と思っていたら、
店員に交じってレジ打ちやレシート書きをしている中年男性に、見覚えがある。
思いきってお聞きすると…やはりヴィオロンのマスター、寺元さんである。

「え…もしかしたら隣のヴィオロンと、ここの店と二軒、経営されているんですか」
「はい、そうです」
「あのう、勝手なお願いなんですが、この後ヴィオロンにお邪魔していいでしょうか。ぜひ妻に聴かせたいと思って来たのですが、あいにく遅くなってしまって」
と無理な注文をするネコパパ。
もちろん、自分が聴きたいのである。
でも、マスターは

「どうぞどうぞ。飲み物はお出しできませんが、ライヴが終わって、ちょうどアンプも温まってきたころですから」

上機嫌でお店に迎えてくださった。




 
「遅くなるのもご迷惑ですから、短い曲を。よろしければクライスラーの『ユーモレスク』を聴かせていただけませんか。」
この店のシステムに最適の曲をリクエストした。
「いいですね。まあ、でもその前に、ウィンナ・ワルツでもお聴きになってください」
 
ヨハン・シュトラウス ワルツ『春の声』

独唱つきのオリジナル版である。
部屋の奥に鎮座する、暖炉のような風情のスピーカーが鳴り始める。


Die Lerche in blaue H?h entschwebt,
der Tauwind weht so lau; 
sein wonniger milder Hauch belebt
und k??t das Feld,die Au. 
Der Fr?hling in holder Pracht erwacht…

ヒバリは舞い 風は温もり帯びて
喜びにあふれる 吐息は 
野に、牧場に くちづけをする
春は目覚め
ああ 
すべてのつらいことは終わるだろう…


オーケストラもソプラノ・ソロも、まろやかさの極み。

さて、演奏は?
リタ・シュトライヒ…そんなに古くないか。オーケストラもうまいし…
終わると盛大な拍手。
とすると…バトルのか。



 
キャスリーン・バトル(S)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1987年、ニューイヤーコンサート・ライヴ録音
独グラモフォン
 

「1987年、CD時代のものなのに、LPがあったんですね」
「あるんです。ニューイヤー・コンサートでは最後の頃のLPですね」
 
そしてクライスラー



 
ボルディーニ 踊る人形
チャイコフスキー アンダンテ・カンタービレ
ドヴォルザーク ユーモレスク

フリッツ・クライスラー(Vn)
フランツ・ルップ(P)
1938.2 アビイ・ロード・スタジオ
HMV 復刻LP

 
有名な「ユーモレスク」の身も心も溶けてしまうような歌い回しが、これほどの柔らかさで再現されるとは…SP時代の録音ということを感じさせない、実在感だ。
1987年のデジタル録音と1938年のSP録音が、基本的に同じような音の輪郭線で描かれている。
個性ある音作り、とはまさにこれだろう。

聴き終わった後、思わず拍手するネコパパ夫婦。
 
「いやあ、まだまだ音が硬いんです。今後、アンプ類をすべて入れ替えていくつもり。フランスでいい真空管を製造する工場を見つけたので、いま注文を出しているところです」
 
寺元さんの飽くなき追求はまだまだ続きそう…

 
ここは阿佐ヶ谷駅前の飲み屋街のはずれにあります。ちょっとわかりにくいところなので、地図は必須かも。
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コメント

コメント(4)
No title
いやあ,いい旅をされましたね。うらやましい。
バトルが歌う「春の声」は大好きな演奏です。この演奏をなんとレーザーディスク(今となっては長大な遺物)というメディアで知りました。それ以来,バトルのファンで,レヴァインが伴奏したシューベルトの歌曲集のレコードは,ぼくの大切なお宝の一枚です。歌手としての寿命が短かったのは残念です。

_リ_キ_

2012/08/13 URL 編集返信

No title
リキさん、どの店も滞在時間はわずかでしたが、いい体験をさせてもらいました。我が地域にはこういう場所がなかなかありませんねえ。
バトルの歌は今聴いても新鮮です。
1993年のレヴァイン指揮によるモーツァルト・アリア集あたりが最後の頃のアルバムでしょうか。スキャンダル騒動でメトロポリタン歌劇場とたもとを分かつ直前の録音です。未だ絶頂期の歌です。惜しい。

yositaka

2012/08/14 URL 編集返信

No title
バトルのわがまま話は山ほどあるようですが,ファンとしては耳を(目を)ふさぐことにしています。「人間的に問題があるからその芸術がいいものであるはずがない」との文章を読んだときには,腹が立ちました。まあ,いろんな意見がありますね。久しぶりに聞きたいのですが,わがレコード部屋はエアコンがないので,9月まで我慢の時期です

_リ_キ_

2012/08/14 URL 編集返信

No title
知る限りでは、バトルの場合はドロドロした色恋沙汰や陰湿なお話はなく、子どもっぽいわがままが多いと思います。
件の意見なら、クレンペラーにしてもホロヴィッツやルービンシュタインにしてもデュ=プレにしても、みんなダメな芸術になってしまいます。とかく並はずれた才能の持ち主は、周囲の人には迷惑な人になるケースが多いのですよ。心を広く持ちましょう。

yositaka

2012/08/14 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

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