血潮のたぎる人間の歌

コンヴィチュニーを聴いたら、トスカニーニも聴きたくなった。本当に久しぶりのこと。
 
一番手近にあったのは、19521月に録音されたRCA盤のCDだ。
 

 
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団
 
カーネギー・ホールでの、レコーディングと放送を兼ねた録音。
彼の録音暦でいえば、比較的晩年にあたるもの。
録音は鮮明だが、残響が少なく、ちょっと硬い感じの音である。
トスカニーニの録音は、場所に関係なくこういう音のものが多い。
 
1楽章、出だしはとても穏やかな響きで始まる。
初夏の田園、陽光のぬくもりが感じられる。せっかちな感じはすこしもない。提示部の反復も行っている。
意外だ。
さすがのトスカニーニも『田園』となると、曲想を意識したのか。それとも年齢のせい?
でも、展開部に入ると、音がだんだんと鋭くなる。弦のフレーズの頭が、びしっ、と力んで入ってくる。
音がトスカニーニらしく、決まってくる。
金管の音も荒々しさを増して…再現部から締めくくりに入ってくるころには、音楽はもうすっかり、肩いからせたトスカニーニ調に変わっていた。
 
2楽章、テンポは心持速め。弦の歌も木管も十分に鮮明だが、弦のアクセントや金管の強さのために、どこか荒ぶる気分が漂っている。
 
やはりコンヴィチュニーとは違う。
あのライプツィヒの老将の演奏を特徴付けていた「執拗なリズムの刻み」は、トスカニーニではあまり目立たない。「すべての楽器が鮮明に立ち上がる」見通しのよさも、ない。
 
コンヴィチュニー盤を細部まで描きこまれた銅版画に喩えるならば
トスカニーニ盤は、クライマックスに向けて緊迫をたかめていくオペラの舞台を見るようだ。
 
彼は旋律を前面に出し、木管の歌よりも金管の高鳴りを重視する。発止とばかりに打ち込まれる甲高く乾いた音のティンパニが、聴き手の血を滾らせる。
老いてなお活力に満ちた、「歌の国」の巨匠なのだ。
 
3楽章から第4楽章までは、そんな気質と曲想とが一致して、ますます強靭さが押し出されてくる。
テンポは速く、響きは激しい。
足を踏み鳴らすような農村の踊り、ティンパニと金管が沸騰するように高鳴りする、嵐の場面。
地の底に響くような、コンヴィチュニーの抑えたティンパニと、トスカニーニのそれを比較すると、到底同じ曲とは思えないくらい。
これで二人とも「音楽は楽譜どおり、忠実に」と口を揃えるのだ…
 
フィナーレでも主役は、弦楽器と金管の強く、熱い鳴りだ。
自然賛歌というよりは、血潮のたぎる人間の歌である。
最後の二つの和音を、断ち切るように短く、鋭く鳴らして締めくくる。トスカニーニらしさ、ここに極まれり。
 
でも、体温の高さと、情感の豊かさは、ちょっと違うことなのかもしれない。
コンヴィチュニー盤ではらくらくと呼吸でき、満ち足りた気持ちになれたネコパパだが、トスカニーニ盤はちょっと暑苦しく、汗臭く感じてしまう。
 
本当の農村というものは、そういうものなのかもしれないが…。
 

 
 
この盤は、ヘルベルト・フォン・カラヤンが自分の録音のお手本にしたことでも有名だ。
1950年代の、フィルハーモニアとの録音のときなのだろうか。リハーサルの合間に、控え室に入っては、トスカニーニのレコードに耳を傾けていたという。
楽員にレコードを聞かせていたという話も、どこかで聞いた覚えがある。いくらなんでもそれは…とは思うが。 
カラヤンのレコードからトスカニーニのエコーを聞き取ることは、ネコパパには困難だ。
音楽家ってのは、本当に不思議な人たちだなあ。
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コメント

コメント(2)
No title
こんにちは。過去記事へのコメント失礼します。
トスカニーニの「田園」は私も良く聴くのですが、確かに第1楽章の展開部を境に全く雰囲気の異なる演奏だと思います。
理由の一つとして、この録音が恐らくはレコード用のスタジオ録音と、放送用のライヴ録音との継ぎはぎにより成っていることがあります。(展開部の頭に、はっきり分かる編集の痕が聴こえます)
その編集部分を境に、明らかに間接音(残響)が少なくなり、演奏解釈まで変わったように聴こえてしまうのです。
私としては、できれば最後まで第1楽章提示部の音質で演奏を遺して欲しかったな、と聴きながら思うことしばしばです・・・。

ポンちゃん

2012/07/16 URL 編集返信

No title
ボンちゃんさん、コメントありがとうございます。なるほど、つぎはぎはあり得ることですね。
トスカニーニには、これも有名な1939年のライヴによる全集もあり、こちらは放送音源そのものなので、まあ編集はないと思います。両者の違いを比べてみるのも面白いかもしれません。

yositaka

2012/07/16 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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