若きマズア、ゲヴァントハウスを振る

親日家で来日も多く、髭の風貌もなかなかにチャーミング、
さらには東西ドイツ統一に大きな役割を果たした人…と、話題性も豊か。
指揮者クルト・マズアの印象である。
 

 
でも、初来日から40年以上にもなるのに、クラシックファンの評価は…どうなんだろう。
 
以前、名古屋のオーディオ店Pで、マズアのレコーディングに立ち会った方のお話を伺ったことがある。
「マズアは、本当は、素晴らしい指揮者なんです。目の前でライヴで聴けばよくわかります…」
つまり、音盤ではわかりにくい人、という意味なんだろうか。
 
マズアの「田園」を聴いてみよう。
 
1楽章、ゆったりと穏やかな、良いテンポで始まる。弦の響きが伸びやかで、フレーズの始まりはちょっと遅めに入ってくる、指揮者のそんなセンスが味わい深い。
2楽章も、弦の響きが際立ち、小川の水の迸りがそのまま、ヴァイオリンやチェロの響きとなって鳴り渡るかのようだ。コーダで木管が小鳥の声を模すところでも、クラリネットが吹き終わるや待ち構えていたように、ちょっと強めの音で入ってくるヴァイオリン。
このあたりを聞いていると、マズアたちが奏でようとしているのは、弦楽器を主体とした滑らかに流れ行く「田園」であることが良く伝わってくる。
 
そのせいもあるのか、この曲では特に見せ場の多いオーボエ、クラリネット、フルート、ファゴットなどの管楽器群は、全体の響きにすっかり溶け合っている。
管楽器の個々の音のきらめきを聞き手に意識させることがほとんどなく、それは木管のソロが裸で出てくる小鳥の囀りの部分でも、変わりない。
ずっと遠くの、山奥の森から、空気の層を通して伝わってくるような、そんな囀りなのである。
 
後半3楽章では、第4楽章が印象的だ。地響きのような力強い嵐の表現。
一方、それに続く第5楽章は、速めのテンポ。息の短い、きりっとした歩みが最後まで続いていく。コーダの自然への感慨を思わせる部分も、風のようにあっさりと通り過ぎてしまう。
前半楽章のゆったりとした穏やかさとは、一味違うのだ。
マズアとしては、後半に描写音楽的なドラマを持ち込むことを、敢えて避けたのかもしれない。
音量の起伏も、全体にわたってフラットというか、室内楽的なダイナミックレンジを保つのも、そんな考えのあらわれだろうか。
 
潔い清潔感が持ち味の「田園交響曲」。
マズアの意志が細部までしっかりと通った、個性的な演奏なのは、確かだろう。
 
でも…
 
そうだ、思い出した。
ドイツ統一後、凱旋将軍のように日本を訪れたマズアとゲヴァントハウス管弦楽団は、サントリーホールでベートーヴェンの交響曲全曲チクルスを敢行。
その模様は、連日FMTVで放送された。
音の引き締まった、密度の高い演奏という印象が残っている。
ただ、なぜか、どの曲も、理由はよくわからないのだが、だんだんと「息苦しい感じ」になってくる。
 
あの感触だ。
この音盤に感じる一抹の違和感。それはあの時感じた感触に近いのかも。ネコパパは、これを聞いていて、何だか深呼吸がしたくなった…
 
 
197311月、ドレスデン・ルカ教会での録音。
このコンビの最初のベートーヴェン交響曲全集のひとつ。
東独エテルナに全集企画を持ちかけたのは、日本ビクターだった。1971年の来日時にまず「英雄」と「田園」を世田谷区民会館で収録、続けてドイツで録音を続行。全曲完了した後セット化されたのに、提携先のエテルナはなぜか続けて録音済みの2曲までも本国で収録してしまった。
世田谷盤、今では「幻」の録音になっているはずである。
ビクターが目論んだのは、世界最初のディスクリート方式(CD-4)4チャンネル録音による全集だった。ルカ教会の残響の豊かさがここに生かされている。
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コメント

コメント(4)
No title
親日家のはずです。今の奥様は日本人ですね。

まじめすぎて面白みがないという人が私の周囲もいますね。NYPでは少し保守的なプログラムだったと思います。

NHK交響楽団でベートーヴェンの第9番を振った時にコンマスと見解が異なり、第3楽章でしたが、やり直したというハプニングは耳にしたことがあります。その演奏は聴いていません。

SL-Mania

2012/06/06 URL 編集返信

No title
「第9」の一件は、テレビでは編集されてしまいましたが、リハーサルとは違う速いテンポで第3楽章をはじめたために、オーケストラがついてこれなかったといわれています。これ一つとっても「まじめすぎて面白みのない」人でもなさそうなんですが。
知る限り、アンネローゼ・シュミットとのモーツァルトのピアノ協奏曲や、ジェシー・ノーマンの独唱によるR=シュトラウス『四つの最後の歌』も、いい演奏で、愛聴しています。

yositaka

2012/06/07 URL 編集返信

No title
R=シュトラウス『四つの最後の歌』は私の手許にありますが、なかなかいい演奏だと思います。第9番ですが、NYPとのものはかなり速いテンポです。面白みがないどころか、却ってユニークな解釈をする人ではないかと思います。

SL-Mania

2012/06/07 URL 編集返信

No title
そのユニークさが、ちょっと聴いただけではわかりにくい、そんなタイプかもしれませんね。大器晩成の人なのかもしれません。

yositaka

2012/06/07 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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