竜神七子の冒険

竜神七子の冒険
 

 
■越水利江子
■絵/石井 勉
■小峰書店
■発売日: 2006/11
 
ペンクラブの集いでお目にかかった越水利江子の作品をはじめて拝読。
いや参りました。ひさびさの一気読み。
 
タイトルから見て、きっとファンタジーに違いないと思ったのですが、それが大間違い。
主人公、竜神七子。これが本名なのです。
七子の名前は、飲んだくれで借金の塊である「ろくでなし」の父が「七転び八起き」からつけたもの。
ところが親子四人の竜神家、そんな父親のおかげで、七転びばかりの毎日なのでした。
「冒険」というのは、そんな竜神一家のすったもんだの日常そのものを表す言葉です。
 
借金だらけの父のせいで、七子は所属している野球チームの会費すら気楽にねだることもできない有様。
しかし、芯が強く、しっかりものの七子は、困窮にもめげず、友達を思い、野球を愛し、前向きな明るさを失わずに毎日を送っています。
すこぶる、気持ちのいい小学生です。弟の笑太も、天真爛漫。
 
そんな、うそやろ?こんな家庭環境で?
 
でも、七子の心を歪めない強い支えは存在します。
何事にも動じず、夫への不満も口にせず、ベストな対応を冷静にこなしていく、母親です。
七子の母、麟子は、父のろくでなし振りを知り尽くしていながら、たった一つ持っている美徳ゆえに、理不尽を一人でかぶり、絆を守っているのです。
ところがその「美徳」も、話が進むにつれてあやしくなっていく…
 
これは七子の物語であるとともに、いやそれ以上に、麟子の物語でもあります。
 
父親を脅迫するやくざの「からくりもんもん」。
夜の京都で酔客に芸を見せて生活している、隣人の「カンノンのおばちゃん」。
身寄りのない子どもたちを預かる『天童の家』の責任者で、野球チームの監督でもある住職の若王子さん。
そして、七子が思いを寄せる男気のある少年、心平。
 
一人ひとりの人物が個性的に、生き方によりそって描き出されているのも心地よい。
とんでもなく迷惑で、ある意味救いようのない人物たちが、不思議に存在を許容され、街の仲間として、ともに呼吸している物語。
 
そう、こんな時代が、こんな空気が、かつて確かに、あった。
 
一歩間違えば殺伐たる話になりそうなところを、絶妙にかわしているのは、「関西弁」の持つゆるやかな寛容の力です。
共通語ではとても書けない題材までも、あっさりと取り込んでしまえるのも、その力のせいでしょう。
 
 
「女にはな、どんな女でも、生まれつき小さな観音さんがいやはるんや…けど、それだけでは女は幸せにはなれへん。男は、女の観音さんをりようするだけやしな。そやから、あては宇宙にいらっしゃる観音さんにお願いするんや。あんたらもやってみ」
 
 
京都の夜を背景に起こる「事件」。夜の五条に子どもたちが迷い込んでいくお話は、中でも圧巻でした。
カンノンのおばちゃんから預かった犬が病気になってしまい、七子と笑太はおばちゃんが「チャンバラを見せて」働いているという夜の五条へたったふたりで出かけます。
そこはもちろん、子どもたちだけでうろつくには似つかわしくない大人の世界。
七子達は、「五条楽園 竜宮殿」というメモを手がかりに、遊園地で働いていると思い込んだまま、出かけていくのです。
そして七子たちが覗き見たおばちゃんの「チャンバラ」の真実とは。
 
いやあ、児童文学で、ここまで書いてしまうんですね…まさに物語の「冒険」、言葉の「冒険」です。
 
でも、読み終わって感じるのは、さわやかさよりも、むしろ苦さ、すでに失われてしまった時代への愛惜…というのは、ネコパパ自身がおじさんになってしまった証拠なのでしょうか。
 
この物語に幸運にも接した子どもたちや、若い人たちの意見も聞けたらいいな、と思います。
 
 
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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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