マントさん登場①

「僕のコレクションは、自分にとって最良の一枚を厳選して、一生聴き続けるということですね。…30を過ぎたころから、安物買いは一切しなくなりましたよ」
と話すのは、マントさん。
ううむ。
こちとら50を過ぎてますます安物買いに拍車が掛かり、物量に追い詰められていく、ネコパパだ。
「ネコパパさんも、整理するものはして、スリム化を図られた方がいいのでは?」
「しかしねえ。スリム化をはかるといっても、すでにこの本も、音盤も、自分の内臓のように一体化しているからねえ…」
この違いは大きい、実に。
 
でも。
いったん音盤に針が落ち、音楽が流れ始めると、まあそんなことはどうでもいいや…という気分になってしまう。
音楽の力は、やはりすごい。
 
 
5月某日、「杜の会」で知り合ったマントさんが、浜松から電車を乗りついてネコパパ庵に来訪。
旅行バッグいっぱいの貴重な初期盤を持参されて。
その数は相当なもの。さてこれを数時間でどれだけ耳にできるか…
 
 
リキさん同様『田園交響曲』好きの私に気を配ってか、オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団のベートーヴェン交響曲第6番のレコードを真っ先に取り出される。
EMI録音だ。
しかもマントさんは英盤、仏盤、二種類のオリジナル盤を持参。
英盤のジャケットデザインはこれ。
 

 
音は、やっぱり違う。
重心低く、薄く曇った響きの英盤、
雲が晴れたようにすっきりと明朗な仏盤。
一般に価値ありとされているのは英盤とのこと。でも第1楽章を聞く限りでは…いいな。仏盤。
マントさんも仏盤贔屓。入手は困難らしいけれど。
 
演奏は、これまで思っていたより、ずっとライヴ感がある。出だしはゆっくりと穏やか、抑えた響きで始まるが、展開部あたりから、個々の楽器の音に輝きが増してくる。
クレンペラーの棒が熱を帯びてくるのが手に取るように、伝わってくるのだ。
録音してすぐのオリジナル盤には、演奏の緊迫した空気までも刻み込まれているのか。
 
 
続いては「杜の会」に持参されたが時間切れ、あるいは部分的な聴取だったアルバム。
 
 
ペーター・レーゼル(P)ストラヴィンスキー『ペトルーシュカからの3楽章』(東独エテルナ)
マルセル・メイエル(P)スカルラッテイ『ソナタ集』(仏ディスコフィル・フランセ)
デジレ・エミール=アンゲルブレシュト指揮 フォーレ『レクイエム』(仏デュクレテトムソン)
 
「メイエルは僕には特別です。音は小さく低めですが、それがまた良い。この八分音符が天使の羽に見えるのですよ。メイエルが短い音符を鳴らすと、羽が羽ばたくのです。ほら、こんなふうに…」
 
フォーレのレクイエムはネコパパにとっても、高校以来の思い入れ深い盤。
 

 
仏オリジナル盤は、なんと10インチ盤だった。
人が奏でているとは思えない、撫でるような弦の音、一人ひとりの声が聞き分けられるような合唱。高音から低音まで、くっきりとした輪郭でとらえられたオルガンの音。すべてが天国的な音楽の核心にある。
 
マントさんが帰った後のこと。
隣室にいたアヤママが
「あのフォーレの『レクイエム』が聴きたいんだけど」
と言うのだ。
さて、困った。
 
 
CDで持っていて、日ごろ演奏録音に感嘆している2枚。これもオリジナル盤の音は味わい深い。
 
 
リムスキー=コルサコフ『シェエラザード』
トーマス・ビーチャム指揮 ロイヤル・フィルハーモニー(VSM)
 

 
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番『悲愴』
イーヴ・ナット(P) (ディスコフィル・フランセ)
 
「イーヴ・ナットのベートーヴェン、日本では1970年に東芝から全集で出て、『幻の名盤が発売』と評判になりました。今では考えられないが、新聞や週刊誌にも、たくさん広告が出てね…その写真、逆光で顔が影になっていて、よく見えないやつなんだ。却って神秘性を高めていたね。東芝は商売上手でしたよ」と、ネコパパ。
 

 
「挑むような力強さがあって、剛直で、なお繊細な演奏です。ナットは、ピアニストとしては指がとても短かったそうです。どうやって弾いていたのか、想像できないですね。それで、こんな演奏を…これを聴いていると、なんだってやれないものはない、という気持ちになってくるのです」と、マントさん。
 
まあ、このあたりまでは、ネコパパもよく知っている音源だったのだが…
そこからマントさんの取り出すレコードは、驚きの連続だった。
 
 
次回に続く。
 
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コメント

コメント(2)
No title
マントさんのバッグからはお宝盤がざくざくと出てきたのですね。
ぼくも,安物買いの銭失い路線に近いです。カンで買いあさり,知られていないのに安くていいレコードが見つかるのが一番の快感です。もちろん,評価の高い盤がいいものであることも知っていますが,高いお金を出したのにがっくりくるものがけっこうあるのも事実です。なかなか「選りすぐり」を一発で当てるのはむずかしいです。

_リ_キ_

2012/05/28 URL 編集返信

No title
マントさん曰く「聴くべきもの、持つべきものは必ず自分のところにやってくる。そういうものなんです」
その感じ、私もたしかに実感できます。でもその一方で、bassclef君の「何度も足を運んで、いろいろ買って、まめに探し続けるから、いい出会いがあるんだよ」という言葉にも共感するんです。
一発で当てるのが難しいから、面白い、とも言えますしね。
マントさんのお宝盤、目を見張るものかありました。
次の記事で、じっくりご紹介しましょう。

yositaka

2012/05/28 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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