リキさん宅、ガルネリ唄う

「えっ、『金と銀』ですか…」
リキさんの声が、一瞬曇った。
ネコパパが何処に行っても所望する、あの一曲をリクエストしたのだ。
だって、お気に入りのルドルフ・ケンペ指揮のLPが、ドレスデン盤、ウィーン・フィル盤、両方揃っているんだから…しかも、状態万全のオリジナル盤だっ。
 
…針が落ちると、空気は一変する。冒頭からの溌剌と飛び出してくる弦の迸り。部屋の中に、ドレスデン・聖ルカ教会の、ムジークフェラインの響きが満ちてくる。
 
イタリア生まれのスピーカー、ガルネリ・オマージュが唄っている。
リキさんが手塩にかけて調整した音の器、ヴァイオリンの銘器ガルネリにちなんで名づけられた、ブックシェルフ型2ウェイの逸品である。
 
 
日曜日の午後、ネコパパはリキさん宅を訪問。
ガルネリの置かれた2階のリスニングルームは、整備された再生装置とLPレコード、楽譜などが整然と並ぶ。ネコパパ部屋のような「もろもろの雑品」はなく、音楽に浸りきる場所。
数時間、聴きに聴いた。
 
 
ふたりの聴き会、ポイントはモーツァルト、弦楽器、そしてカール・リステンパルト…
 
 
モーツァルト セレナータ・ノットゥルナ
オトマール・スウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン
1960年録音 東独エテルナ 
 

 
あの交響曲第29番、アイネ・クライネ・ナハトムジークが収録された盤だ。
各楽器がすっきりと見渡せる透明さと、底知れぬほどの強靭さ確信させる音が立ち上がる。Dukeさんが惚れる理由がわかる。なるほど、東独盤の、これが音か。
 
 
モーツァルト 3つのザルツブルク・シンフォニー
カール・リステンパルト指揮ザール室内管弦楽団
仏クラブ・フランセ
 

 
 
>颯爽としたリズム感でぐんぐんと進んでいく音楽そのものの喜び…この世の中にはすばらしいものがまだまだたくさんある,そして,そのほんの一部分しか自分は知らない。この先も生きていくのが楽しみになります。

 
リキさんがブログで熱のこもった一文を書かれている、愛聴の一枚。  
ディヴェルティメントK136。これは、モーツァルト、16歳のときの作品だ。
若き白馬が駆け抜ける、といった趣の演奏で、若書きの機会音楽、なんてことは意識の外。
音楽の持つ何者をも畏れぬ活力、ひたむきに前だけを見る目が、聞き手に向かって直進してくる。
 
 
リキさんに教えていただいたロシア生まれのヴァイオリニスト、ポール・マカノヴィツキーの盤も登場。
 
モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番
マカノヴィツキー(Vn)リステンパルト指揮ザール室内管弦楽団
仏クラブ・フランセ
 
 

 
バッハのソナタと同様、マカノヴィツキーの音は「一筋の光のような純白の音色」。ガルネリの再生音は、アンドレ・シャルランの名録音に一層の「生々しさ、近さ」を加える。長く雄弁な第1楽章のカデンツァは技巧も十分に利かせ、ちょっと意外な感じがしたが、儚い美しさを秘めた演奏に魅了される。

 
カール・リステンパルト。
 

 
1900年ドイツの港町キール生まれ、1967年リスボンにて没。玄人好みの名指揮者。
師はヘルマン・シェルヘン。フランスとドイツの国境に位置するザールラント州で1950年に設立された、ザール室内管弦楽団の指揮者として活動、多くの録音も行っている。
レコードは、70年代に日本コロムビアがいくつか発売していた。それで、私も名前(それとバッハ『フーガの技法』)は知っていたが、正直、聴き込んでいる人ではない。マイナーレーベルで、来日もない音楽家は注目されていなかったのだ。
耳にした限りでは…「強度」のある音楽を作る人。緊密に引き締まった音作りは、ちょっとシューリヒトを思わせる。ザール室内管弦楽団は、ザールラントという地の利を生かし、整然たるドイツの弦と、馥郁たるフランスの管が調和しつつ、主張しあう音楽を生み出す。シェフである彼は、異質な要素を巧みな手綱さばきで融合させる技量の持ち主だ。
関心を持って聴いていきたい指揮者だ。
 
彼が多くの録音を残したクラブ・フランセにも注目。フランスの会員制レコード・クラブで、通販用に多くの音源を製作。クラシック部門の録音技師は、アンドレ・シャルランが主力。録音、盤質ともに優秀なものが多いとのこと。
でも日本では、昔から供給元はなく、レア・アイテムの眠る愛好家垂涎のレーベルとなってしまった。
 
リキさんは、相当数を収集されている様子…。

 
 
「弦の名盤」も次々に登場。

 
 
バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲~「第6番」
ヤーノシュ・シュタルケル(Vc) 米マーキュリーの稀少なオリジナル。
 
 

 
「シュタルケルの無伴奏、これがやはり最高ですね」と、リキさん。
「この6番は、全曲中では格別。これだけの録音を成し遂げながら、その後も何度も、録音を繰り返しているのは不思議ですね」と、ネコパパ。
「自分の演奏を超えたくなるのが音楽家というものなのでしょう。ミッシャ・マイスキーの二回目のように、やらなかったほうが…という例もありますが」
無伴奏チェロ組曲では、ポール・ケンツ室内管弦楽団の一員、ジャン・ルイ・ハーディの演奏する第3番(クラブ・フランセ)も。これはきりっとした小粋なバッハだ。2曲だけが入った10インチ盤だが、全曲は?
 
 
バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1
ヴィクトリア・ムローヴァ(Vn) 蘭フィリップス
 
 

 
「バッハは、これ1曲だけ含まれているんですね。惜しい…」と、ネコパパ。
「この28歳のムローヴァの演奏には、冬の透き通った空気感が漲っているようです。これは、最近の彼女の演奏からは絶対聴けない音楽ですね。」
 
 
ワレフスカ・チェロリサイタル~ボロニーニ:ガウチョ・セレナーデ
クリスティーネ・ワレフスカ(Vc)ブルース・ガストン(p1967年録音 米OWL
 

 
「杜の会で紹介して、好評でした。ボロニーニはワレフスカの師で、これは彼女だけに演奏を許可している曲だそうです」
チェロをギターのようにかき鳴らして始まる、情熱的な音楽。これは吹き抜ける南国の疾風だ。
 
ああ、そういえば…bassclef君が以前「杜の会」でワレフスカというチェリストの、すごい曲を聴いた、と話題にしていた。
これが、その曲か。

 
クリスティーネ・ワレフスカは、
1970年代の若いころに、フィリップスに数枚のアルバムを録音。当時活躍中だった、ジャクリーヌ・デュ=プレのライバルみたいに、売り出されていたっけ。
でも、このリサイタル盤は、まったく知らなかった。
bassclef君の話にぴんと来なかったはずである。ネコパパ、参った!
 

 
 
弦の響きが美しいリキさんの装置だが、オーケストラにだって強い。
 
 
定番、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮BPOの『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲 歌劇『薔薇の騎士』終幕(ずれもDG)
そして、レハール『金と銀』の含まれたケンペの『ジルヴェスターコンサート』『ウィーンの夜
…音楽の泉はつぎつぎに湧き出して、たちまち時間は夕刻に。
最後の締めは、レイモンド・レッパード指揮イギリス室内管弦楽団、チャイコフスキー『弦楽セレナード』。
 
 
「『金と銀』…ケンペ指揮の2枚を聴き比べると、二つのオーケストラの違いがはっきりとわかりますね。」
と、すっかり満悦のネコパパに、リキさんは
「うーん。でもこの曲は…うちの学校の掃除の音楽なんです。毎日聴いているんです…」
と、一言。
えっ、そうだったのか。
どうりで…
 
いつも聴きたい
毎日聴かなきゃいけない
 
似ているけど、少し、いや、だいぶ違いますね。
「うちの近くの学校では、幻想交響曲の第2楽章を掛けているんですよ」と付け加えるリキさん。
 
そいつは驚きだ。 

子どもたち、ワルブルギスの地獄の業火に焼かれぬように、しっかりと掃除をしよう、ね。
 
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コメント

コメント(4)
No title
いつもながら,表現がすばらしいですね。さすがです。
それにしても楽しい一日でしたね。
話題が広がるにつれて次々とレコードをかけていると,時間が足りませんよね。
また次の機会を楽しみにしています。

リキ

2012/05/21 URL 編集返信

No title
リキさん、情報量がありすぎて、とてもこなしきれません。
まさしく、これから生きていく楽しみが一つ増えたという実感です。
ぜひまた聴きましょう。

yositaka

2012/05/21 URL 編集返信

No title
リステンパルトの師はシェルヘン、について。うろ覚えの記憶で書いたのですが、先日マントさんから「本当ですか」といわれ、不安になりました。確認したら、なんとシェルヘンは「義理の父」らしい。
リステンパルトの実父は天文学者でしたが、赴任先のチリで謎の死をとげ、その後母親はシェルヘンと結婚。シェルヘンは9歳年上の義父となった、ということのようです。
リステンパルトが音楽家を志したのは、おそらく義父の影響も大きいと考えられ、ある意味「師」と呼んでおかしくはないかも。
ただし、この結婚はまもなく破局を迎えたようです。彼の人生、なかなか波乱万丈です。

yositaka

2012/06/01 URL 編集返信

No title
くいだおれさん、お知らせありがとうございます。名古屋でのコンサートは終わってしまったんですね。残念…でも多くの人に聞いていただきたいですね。彼女の今の芸風はどのようなものなのか、コンサートではどんな演奏をされたのか、興味津々です。お聞きになった方、ぜひ教えてください。

yositaka

2013/03/31 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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