フルートとハープのための協奏曲

モーツァルトが、パリで就職活動中に書いた作品は、どの曲も格別に、個性的。
 
交響曲第31番ニ長調k297「パリ」
協奏交響曲変ホ長調k297b(偽作説あり)
フルートとハープのための協奏曲ハ長調k299
ピアノソナタ第8番イ短調k301
 
大都会パリの人々は、かつての天才少年に冷たく、青年モーツァルトは、深い孤独に襲われていたのでは。期待した就職活動はうまくいかず、同行した母親は慣れぬ異国で病に斃れる。「パリ」交響曲の一種の虚勢を張った面白さと、イ短調ソナタの悲劇的な情感は、合わせ鏡のように天才の孤独を映し出している。
その中にあって、「フルートとハープのための協奏曲」は、達観したような晴朗さと、晩年のモーツァルトを思わせる哀愁に満たされた音楽。ネコパパの最も好きなモーツァルトの一つだ。
 
ジャン・フランソワ=パイヤール
ペーター・ルーカス・グラーフ
オトマール・スウィトナー
カール・ベーム
エルンスト・メルツェンドルファー
ティエリー・フィッシャー…
 
幾多の名盤があるが、どうしても、この一枚に戻ってきてしまう。
2,3日前も久しぶりに帰宅中の車内で聞いて、たちまち引き込まれてしまった。
 
 
 


 
 
 
ウェルナー・トリップ(fl)
フーベルト・イェリネック(hrp)
カール・ミュンヒンガー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:19629月/ウィーン、ソフィエンザール (英デッカ原盤 日ロンドン)

 
カール・ミュンヒンガー、頑固者の指揮者。
「これ」と決めた造型を、最後まで決して崩さない。
この曲でも、そうだ。
 
全体を貫く遅めのテンポ。
三つの楽章を通して、テンポ感が変わらない。
音量の強弱をあまりつけず、強めのくっきりした音で全曲を弾きとおす。
曲想の華麗さをまったく強調せず、一音一音をしっかり地道に「置いて」いく。
それでいて、フレーズの終わりをいつもわずかにリタルダントさせて、名残惜しげな情感を浮き上がらせる…
 
早めの快活なテンポで演奏されることが多いフィナーレでは、その個性が一層際立っている。
技巧を目立たせず、音楽そのものに奉仕するようなソリストたち。
それを支えるオーケストラの、遅く不動のテンポ。
指揮者の頑固さが、かっこよさに転じているのである。
 
全楽章に設けられたカデンツァが、また美しい。
陶器の名品を思わせる、色艶と品格を漂わせた名カデンツァは、演奏頻度が高いライネッケの華麗な技巧を散りばめたそれとは、まったく別の世界。 
誰が作曲したのだろう?
 
そして、腰が強く、明度の高い音をめざす全盛期の英デッカ録音との相性も、抜群にいい。
 
こんなに素敵なのに、なぜだろう。世の中の評価はさほどは高くない…と思う。
ずっと、現役盤ではあるが、この曲を語るとき、あまり話題に上ってこない気がしている。
フルートとハープという楽器の組み合わせから、人々は華やかな技巧の冴えや、優雅さや、色彩感をイメージする。
貴族の大広間や庭園の音楽…「ギャラント様式」なんていう言葉で呼ばれることもあるが、たぶんこのようなイメージなのだ。
でも、モーツァルトの音楽に色彩感や華麗さというのは、本当は、合わないのではないだろうか。
 
「敢えて『ギャラント』ではない演奏をしたら、どうだろう」
 
ミュンヒンガーは、そう考えたのかもしれない。
 
ミュンヒンガーといえば、やはりバッハだろう。ドイツ流儀のヴィヴァルディを思い出す人もいるかもしれない。
モーツァルトの録音自体も少ない。
まして、ウィーン・フィルとの組み合わせでは。「ハフナー・セレナード」くらいかな?モーツァルトを演奏する指揮者としては、高い評価を受けなかったのだ。
 
でも、この盤は、残された。
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コメント

コメント(3)
No title
ひゃー、ビックリ。
私は道楽で下手なフルートを吹いて(拭いて)います。
横笛を手にするキッカケとなったのが、この曲の、
「第二楽章・アンダンティーノ」なのです^^)

ユキ

2012/05/18 URL 編集返信

No title
そうだったんですか。いいですね、アンダンティーノ。
私は、結婚披露宴のBGMでこの曲を掛けてもらいました。もちろん、演奏はこのミュンヒンガー盤で、当時持っていた米ロンドン盤をカセットに録音して使ったのですよ。

yositaka

2012/05/18 URL 編集返信

No title
さっきネットラジオでこの曲の最新盤、クラウディオ・アバド指揮モーツァルト管弦楽団の演奏を聴いたんです。
霞のように実在感のない、寂しげで不思議な音楽でした。二人のソリストも、一つ一つの音を聴き手に伝えたいという意志が伝わらず、抽象的なオブジェが立ち並ぶ無人の空間のような音楽でした。
個性的です。でも、ミュンヒンガー達の演奏からははるかに遠い場所に来てしまったという印象です。
http://deutschegrammophon-web.snowite.fr/catalogPlayer/deutschegrammophon/deutschegrammophon.php?collectionID=1

yositaka

2012/05/19 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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