守り人シリーズの周辺 別府章子さんの話②


★ネット時代の出版スタイルを作った『守り人』

『精霊の守り人』の出版は1996年。
上橋さんとしては二作目『月の森にカミよ眠れ』に続く第三作になる。
守り人シリーズはネット時代の作家の先駆となる特殊なケースになった。
上橋さんは原稿用紙ではなく最初から46字×16行のページ割どおりに入稿。次のページに期待を持たせる「めくる効果」も計算されていた。
まず一気に書き、かなり大幅に手が入る。話もまったく変わることがある。
そのため、前の原稿もすべて残しておかなければならない。

以前なら校正刷りに貼り付け、書き込みして訂正していくのだが、上橋さんは校正刷りを見てデータを訂正された。書き込みもなし。
連絡はすべてメール。
生活はとても不規則で、夜中の二時三時にメールのやり取りをすることも少なくなかった。

自分自身のホームページはないが、ファンが作った強力なサイトが二つあり、サイン会、オフ会などの情報交換も盛んにやっておられる。
ネット時代ならではの状況を最初に生み出していくことになった。

ただし掲示板は、荒れが目立ちだんだんと運営が難しくなり閉鎖に。
ネットにおける管理や責任はとてもあいまいなので、どうしても荒れが防げない。大きな問題だと思う。

★英語版の刊行をめぐって

今年6月、スコラスティック(Scholastic Inc アメリカの大規模出版社。ハリー・ポッターの版元)で英語版が出版される。
訳はキャシー平野さん。高松在住で「夏の庭」の英訳でも知られる。
上橋さんは英語にも堪能なので、メールで細部まで細かくチェックされる。私は主に横で見ているが時には意見も言う。

アメリカでの本の販売方法は特徴がある。
まず簡易製本で100冊作り、学校、新聞社、書評関係者に送る。ホーンブックという有名な書評誌にも。
その上で、新刊情報をホームページに掲載する。
本を受け取った関係者はいろいろなサイトにコメントを入れていき、事前情報として流れていく。

送られた本の処分は相手任せなので、売り払ってもよく、アマゾンに出ることも多い。
ちなみに、公共図書館の本も不要本として処分されたものがアマゾンなどによく出品される。
最近50~60年代の黄金時代の絵本が多く出回り愛好家を喜ばせた。

これらの作品、多くは絶版の書籍がここ数年、各社から出版されているが、
じつはネットを通じて流通した古書をスキャニングして出版していることが多い。
古典的な作家のものはほとんどスキャニングによる製版という。

★読者とのつながり

これまではアンケート葉書だけが読者と出版社を結ぶつながりだったが
最近はホームページへの書き込みが増えてきた。
しかし手書きの葉書は今も貴重な資料だ。

しかし何といっても、ここ一番のときは相手と顔を合わせるのが一番大切と思っている。
サイン会やサイトのオフ会など、意見交換のできる場ではいつも新鮮な驚きがある。

★児童文学と一般文学

上橋さん以降、児童文学と大人向きの作品との垣根がなくなってきているといわれるが、
やはり当社では中学生までの読者を相手に、という基本線を崩していない。
最近目立ってきているYA(ヤングアダルト)文学というくくり方には、まずは大人に読んでほしいという傾向が強くなっているように感じる。
子どもたちには深く考えることができる作品を読んでほしい。
しかし、それをまず大人に、とは考えていない。その意味で、垣根を取っ払うことに意味があるかどうか、疑問に思っている。
私たちが作りたいのはまず児童書なのだ。
多く売るために軽装版を出すという流れにも乗りたくない。「守り人」は出しているのだが。
短い期間にたくさん売るのは、作戦を立てればできる。
しかし、ロングセラーを生み出すことはできない。
小さいときに読んでもらった本が次の世代に受け継がれていく。そこから幸せの連鎖が生まれる。
幸せの連鎖こそロングセラーの母体なのだ。

★本を薦めるということ

まず薦める達人になること。
私も『ナルニア国物語』を薦められて読んだ。あの、夜も寝ないで読み通したときの記憶は大きい。
長いものを初めて一冊呼んだ達成感も。

最近の読書傾向は、とかく通好みの作品や、過度に悲しく残酷な、という極端さを持つ作品に偏りがちだと思う。

赤木かん子さんとも最近話したのだが
家庭環境の激変が読書の傾向をそのようなものにしている。
でもだからこそ、「幸せ」を描くことが大事なのだと強く思う。

※ここでいったん話は終わり。別府さんの話の結論が清水眞砂子さんがいつも話されている
児童文学は「幸福」を描く文学である、という持論に接近したのは興味深いと感じた。
また、英米の古典的な絵本がスキャニングによって作られているとは驚きだった。もちろん権利関係はクリアしているのだろうが、原画を使えないとはどういうことなのか。別府さんに質問すればよかった。

さて、そのごの質疑応答でも興味深い話は続く。次回をお楽しみに。

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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