シンポジウム・英語圏の児童文学の現状①

日本イギリス児童文学会研究大会、最後の発表はシンポジウム形式で行われた。
英語圏4カ国の研究者が、最近の作品をもとに問題提起と議論を繰り広げた。

 
シンポジウム
「英米圏における児童文学の現状」(会場にて戸田山さんから「英語圏」に訂正)
 
英国  白百合女子大学 西村醇子
米国  甲南女子大学 島式子
カナダ 白百合女子大学 白井澄子
オーストラリア 姫路獨協大学 牟田おりえ
司会兼コメンテイター  戸田山みどり
 
最初に戸田山コメンテーターから、テーマ設定の動機についての説明。
 
近年、アフリカ系アメリカ人などマイノリティ文化を背景とした作品(課題と書となった絵本『わたしのとくべつな場所』など)も多く出され、多文化の認識が広まりつつある。



しかし反面『うーふとむーふ』のような、『ちびくろサンボ』へのオマージュを感じさせる作が広く販売されるなど、古い価値観も根強く残る。



そうした現状から、広く英語圏とする観点で現状を考える視点が必要と考えた。
 
それぞれの発表内容を簡潔に紹介してみたい。
 

「英国児童文学の最近の傾向」
白百合女子大学 西村醇子
 
カーネギー賞やガーディアン賞などの児童文学賞を手がかりにして児童文学の傾向を考えたい。複数の賞でノミネート作品が重複することも珍しくない。これは『現代』児童文学の趨勢を反映してのことだろう。…読書推進活動もまた文学を取り巻く環境の変化を示すものだろう。(要項梗概より)
 
ブレア首相の時代に実績を挙げた英国だったが、イラク戦争参戦以来低迷続く。その間作家は世代交代。ダイアナ・ウィン・ジョーンズも今年なくなった。児童文学賞も廃止、中止が目立つ一方、同一作品が複数賞を受賞するケースも。受賞者の多くは40代から50代である。
 
近年の傾向のひとつに、ダークファンタジーへの傾斜がある。
ニール・ゲイマン『墓場の少年』2009 カーネギー賞、ブックトラスト賞



邦訳はカットしているが、かなりグロテスクな挿絵。殺人事件で家族を殺された子どもが幽霊に助けられる。幽霊である義母が個性的である。
ここで墓地は時の積み重なる層である。いろいろな時代の人がいて、現世の価値の転倒が起こる場所だ。
主人公は、さまざまな体験の後、最終的には外の世界に出て行くことになるのだが…
その他、ローリング、ブルマンの作品も同じ流れの中にあるといえよう。
 
一方で、多文化への意識、文化間を移動する作者という傾向も強くなっている。
 
ジェイソン・ウォルシュ『Out of Shadows2011



ジンバブエを舞台としている。根強い偏見をテーマに扱った学園物語。
ブッシュの戦争と独立闘争の後のジンバブエ。旧植民地の伝統ある男子全寮制の学校が物語の舞台。独立後、学校には現地の教師や生徒が新たに入ってくるが、在学生の多くは独立により農地を没収された白人農家の息子たちである。彼らは現地生徒への偏見と敵意を繁殖させ、いじめや暴力事件が絶えない。そこに入学してきたイギリスの少年ロバートは、苦心の末、現地の少年たちと心を通わせていく。国家や言語、文化の問題を背景に緊迫感のあるストーリーが展開。

 
 
「児童文学とアメリカ性を考える」
甲南女子大学 島式子
 
2000年以降、10年間に発表されたアメリカ児童文学・関連賞から手繰れる「アメリカの子ども」について、問題を提起したい。レベッカ・ステッド『きみに出会うとき』を取り上げる。…児童文学に生きる「アメリカの子ども」が、文化・社会の多様性にあって、果てしない旅を続ける意味はどこにあるのだろうか。…発表では、そのひとつの入り口として、本の中の子どもたちに備わる「亡霊」を呼び戻す力を、数点の作品の中で検証する。(要項梗概より)
 
アメリカ児童文学の「今」を問うならば、9.11からの10年ということになる。21世紀のアメリカ文化はどこに向かうのか。映画に見るマイケル・ムーアのドキュメンタリー作品からは、自らの行ってきた残虐行為や独善性への反省が読み取れる。
文学でも、テロが生み出した「憎しみ」を経て、これまでアメリカが行ってきたことを見直そうとする機運が見られる。これはロバート・コーミアが扱ってきた題材。
その一方では、ナショナリズムをあおる教育現場―ビンラディン殺害のニュースに歓声を上げるという当惑する現象もある。
 
アメリカの児童文学の歴史の中から、「アメリカ性」は読み取れるのか。そのアメリカ性とは何か。
 
レベッカ・ステッド『きみに出会うとき』2011



1976年の舞台設定。主人公ミランダが当時実際に存在したクイズ番組の賞金を獲得するという、いかにもアメリカ的なストーリー。気になるのは、主人公が愛読し、行動の指針としている本が出てくること。1963年ニューベリー賞受賞『五次元世界の冒険』である。冷戦時代を背景に、反共思想やキリスト教思想などが描かれた、怖いところがある本だ。ここには、アメリカンコミックにも表れている「古さの継承」というアメリカ性がある。
 
こうした作品の一方で、ゴーストの登場する作品がある。
 
…という観点で、島さんはいくつかの作品を紹介していくが、この「ゴースト」は必ずしも「幽霊」ではなく、「存在の影」「背後にあるもの」といった意味合いで使われていると思う。ちょっとそのあたりの聞き取りが不確かだ。島さんは「亡霊」とも書かれている。
なるほど。「亡霊」なら、意味合いが広がる感じだ。

ユダヤのゴースト
E・L=カニグズバーグ『ほんとうは一つの話』


 
子どもたちのための「実用の文学」などという批評もあるが、カニグズバーグの作品の根底にあるのはユダヤ人としてのアイデンティティの問題である。これは多文化共存の問題を柱とした短編集。


アフロ・アメリカンのゴースト
ヴァージニア・ハミルトン『偉大なるM.C』1975



先祖代々住みついた山中に高くそびえる鋼鉄のポール。その頂に坐り、あたりを見下す少年M・C。彼は自分一人の世界に君臨していたが、ある日二人の旅人に出会って、いやおうなく外の世界に目を向けるようになる。自分の道を歩み始める少年の姿を独特の文体で描く異色の現代小説。(アマゾン紹介文)
 
ヴァージニア・ハミルトンはアフリカ系アメリカ人の文化的ルーツを根底とした作品を書き続けてきた作家で、島式子さんは、日本における先駆的な紹介者であった。

ネイティブ・アメリカンのゴースト
シャーマン・アレクシー『はみ出しインディアンのホントにホントの物語』



インディアンとして、保留地で生まれ育った主人公の“オレ"。ある日、オレは、保留地を出て、白人のエリート学校に通うことを決意した。それは、一つの冒険であり、大きな発見だった。自分の居場所を探し続ける少年のリアルでユニークな感動作品。本文の合間に挿入されている漫画が、痛烈でおもしろい。(アマゾン紹介文)
 
これらはアメリカの大地に根差したものであり、他文化国家という本質を照射する「ゴースト」たちである。
真のアメリカ性とは「多文化主義」にある。これをいかに表現していくかが今後もアメリカ児童文学の大きな課題となっていくのではないか。


カナダ・オーストラリアの発表については次回に…
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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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