クレンペラー、57年のベートーヴェン

Emo君のご厚意で、またしてもクレンペラーの未聴の音源を聴くことができた。


ベートーヴェン:
・交響曲第4番変ロ長調 op.60
・交響曲第5番ハ短調 op.57『運命』
オットー・クレンペラー指揮
フィルハーモニア管弦楽団


録音:1957年、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール(ライヴ、モノラル)


テスタメントからは既に同年の第2、7、9番のライヴも出ていて、これらはネコパパも架蔵。この二曲だけ未購入だったのは、同じ2曲の組み合わせでベルリン・フィルと共演した1966年ライヴを購入していたから。
いくら何でも…という気持ちもあったのだろう。

でも、この二曲は、それらと同格の優れた演奏だった。

1957年のベートーヴェン・チクルスと並行してクレンペラーはEMIにステレオ録音による交響曲全集の録音を開始した。
すでに55年に第3、第5、第7(ステレオ収録も)を録り終えていたが、すべて録音し直す。
全集の完成は1960年。
この間、1958年を除き、3回もベートーヴェンの全曲チクルスに挑んでいるのだ。
EMIの後押しもあったのだろうが、高齢、半身不随、躁鬱症の指揮者にしてこの精力的な取り組みは、ただ事ではない。

実は、1958年も実施の予定だった。
例の「寝煙草、引火、全身大やけど事件」がなければ…

さすがに病み上がりの59年は不調だったらしいが、60年にはあのウィーン芸術週間で驚異的な演奏を成し遂げてしまう。

「火の鳥」のように、炎の中から再生し、新境地を開いた、とでも言えばいいのか。
ほんとうに、クレンペラーという人は興味が尽きない人物である。

60年の演奏ににくらべれば、この57年のライヴは、テンポも速めの、きっちりした造形をまもった「オーソドックス」と言ってもいい演奏。
だが
この指揮者独特の、木管を巧みに浮き立たせる表現は、ライヴだけにいっそう目立ち、大きな効果をあげているし
「第9」でもそうだったが、この年はティンパニが絶えず強打されて、演奏に熱気と緊迫感を加えている。
第4、第5ともに演奏開始してしばらくは平静さを保っているが
すぐにエネルギーの籠った筋金入りの響きになっていく。
ただし冒頭の「エグモント」序曲だけは、ちょっと温まる前に終わってしまった感もある…


それにしてもあらためて見事だと思うのは、どこまでも「生きた」音を奏で続けるフィルハーモニア管弦楽団の演奏力の高さ。
長い間、日本ではこのオーケストラは「スタジオ・オーケストラ」と紹介され、事あるごとに「もしこれがウィーン・フィルだったら…」などと貶されたりしていたものだ。
一体当時の批評家も、音楽愛好家も何を聴いていたのか、と思ってしまう。

録音はモノラルで、マイクがやや遠い感じなのが残念。

この年のチクルスでは11月の「第9」だけがEMIによるステレオ録音で残され、他はBBCの保管する記録用録音のようだ。
5曲だけ発売されたきり、あとが続かない。
NHK同様、この放送局も記録の保存には苦慮していたのかもしれない。



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コメント

コメント(2)
No title
おはようございます。クレンペラーのライヴものはテスタメントから結構出ていましたね。そういえば「エグモント」序曲のリハの映像を店頭で見たことがあります。フィルハーモニアoが相手だったかと思います。弦セクションに「おまえら、何故こんなのが出来ないか!と譜面台を叩いて怒っているマエストロの姿を見て、おっかないオヤジだなと思いました。転倒したり火傷を負ったりといろいろあったのと、現代曲を取り上げすぎて敬遠されたり、クセの多い人だったですね。

SL-Mania

2011/06/27 URL 編集返信

No title
その、楽員をしごいている映像はyoutubeでも見られました。
「指揮の芸術(アート・オブ・コンダクティング)」というドキュメント作品の一部で
1960年のウィーン芸術週間での映像とのことです。
本番は例のアルバムにも収録されていますね。
この年の、他の映像が残っているといいのに、と思います。

yositaka

2011/06/27 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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