フルトヴェングラーの箱

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
ザ・グレートEMIレコーディングス




EMI録音のフルトヴェングラーSACDの新聞広告が、カラーで大きく掲載されたのには驚いた。
売り上げもヒットチャート上位にくる人気だそうだ。
恐れ入る。

しかし
今回のSACDは、音質はともかく、緑色の統一ジャケットでデジパック仕様というのが気に入らず、まだ購入する気になれないでいる。
3300円という価格も、まあ、高いな。

フルトヴェングラーの録音は40年にわたって聴いてきたつもりだが、EMI録音のCDは意外なほど持っていない。52年録音のベートーヴェン『英雄』と51年録音の『第9』、ブラームスの『第4』などは、確かに、私にとって大切な盤。
だが、この廉価セットに入っているかなりのものは、初めての購入。私は熱心なフルトヴェングラー・ファンとはいえないのだ。

すこし聴いてみる。
…いいじゃないか。
この多くはスタジオ録音で、ライヴ録音に見られる激しい気迫やテンポの緩急を前面に押し出すことはない。
そういうのを求める人には少し物足りないかもしれない。
でも、音の一つ一つが生きて、語ってくる。
オーケストラの音が指揮者の血肉となっているこの響き。いつも新鮮だ。
それと、音のつながりが滑らかで、音楽が切れない。
これはカラヤンのような「レガート繋ぎ」とはちがう。自然な呼吸感としての「音の文脈」を感じる。
フルトヴェングラーの音楽は意外にスマートな形をしているのだ。
決して古臭い音楽ではない。
 
まずは新リマスターのベートーヴェン交響曲を全部耳にした。

音の状態はいい。ディスクやテープに刻まれた全情報を、あからさまに押し出そうとするマニア好みの音作りではない。
粒立ちの良い、耳に優しい音に整音されている。でも、十分な情報量があって、以前の盤のかすんだ感じやキンキンした癖のある音が、ずいぶん改善されたと思う。
未聴のブラームスにも期待したい。


CD1(新リマスター)
ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調作品21
ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調作品55『英雄』
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 195211月(セッション)

 ★「第1」がこれほど新鮮に響くとは。若々しく瑞々しい曲想に乗って、すべての楽器が生き生きと語っている。
聴きなれた「英雄」今回は、フィナーレの遅いテンポに込められた情念の深さにあらためて感銘。

CD2(新リマスター)
ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調作品36
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 194810月(ライヴ)

ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調作品60
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 195212月(セッション)

 ★劣悪な音質といわれる『第2』だが、こんなに良い演奏だったのか。第2楽章が意外と素っ気ないのを除けば、独特の「溜め」と情熱的な響きに満ちた名演奏だ。『第4』は音がきれい。スケールが大きく、彫が深いが、透明さもともに生かしている。

CD3(新リマスター)
ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調作品67『運命』
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 19543月(セッション)

ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調作品92
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 19501月(セッション)

★新たなテープが発見されたと話題の『第7』、たしかに明晰な音になっていると思う。フィナーレの盛り上げが有名な録音だが、私の好みは弦の切々たる歌い上げが感動的な第2楽章が最高。 『第5』は鮮明で高い完成度だが、さすがにこれはライヴの方が彼らしい。

CD4(新リマスター)
ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調作品68『田園』
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 195211月、ウィーン、ムジークフェラインザール(モノラル/セッション)

ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調作品93
 ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
 194811月(ライヴ)

★弦主体の『田園』の音の設計には違和感を持っていたが、この盤では管楽器のきらめきが以前よりも良く伝わり、愉しさを増している。第1楽章が大変遅く、フィナーレが逆に速い。いつ聴いても凄い個性だ。
『第8』は重苦しく、音も荒れ気味。
 

CD5(新リマスター)
ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調作品125『合唱付き』
 エリーザベト・シュヴァルツコップ
 エリーザベト・ヘンゲン
 ハンス・ホップ、
 オットー・エーデルマン
 バイロイト祝祭合唱団、管弦楽団
 19517月(ライヴ)

★開始前の拍手も入った「足音入り」バージョン。これは日本にしかないマスターと言われていたが…奥に引っ込んだ音が、かなり前面に出てきて聴きやすくなった。いうまでもなく他では決して聴けない、独自の解釈に貫かれた『第9』。とりわけ素晴らしいのは第3楽章。

CD6
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73『皇帝』
 エトヴィン・フィッシャー
 フィルハーモニア管弦楽団
 19512月(セッション)

バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2
 ユーディ・メニューイン
 フィルハーモニア管弦楽団
 19539月(セッション)

★フィッシャーの小粒なようで自在感にあふれたピアノは見事。フルトヴェングラーの指揮が意外に早くすっきりしたもので、私個人はこれより前のベーム指揮ザクセン・シュターツカペレとの共演盤(独エレクトローラのSP録音)の方がいっそう興に乗っている演奏と思う。
 

CD7
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61(カデンツァ:クライスラー)
 ユーディ・メニューイン
 ルツェルン祝祭管弦楽団
 1947828-29日(セッション)

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64
 ユーディ・メニューイン
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 19525月(セッション)

 ★メニューインとの3曲は音が荒れ気味。彼のソロはなぜ心にはいってこないのか。なかではメンデルスゾーンが一番自然に聴ける。

CD89
ベートーヴェン:歌劇『フィデリオ』全曲
 マルタ・メードル(ソプラノ)
 ヴォルフガング・ヴィントガッセン(テノール)
 ゴットロープ・フリック(バス)
 オットー・エーデルマン(バス)
 アルフレート・ペル(バリトン)
 セーナ・ユリナッチ(ソプラノ)
 ルドルフ・ショック(テノール)
 アルウィン・ヘンドリックス(テノール)
 フランツ・ビェルバッハ(バス)
 ウィーン国立歌劇場合唱団
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)
 195310月(セッション)

★こんなに音が良かったのか。演奏もごくオーソドックス。フルトヴェングラーはオペラではあまり個性を前面に出さない。音楽自体が素直に耳に届く。 以下未聴。

CD10(新リマスター)
ブラームス:ハンガリー舞曲第1番ト短調
ブラームス:ハンガリー舞曲第3番ヘ長調
ブラームス:ハンガリー舞曲第10番ヘ長調
 19494月、ウィーン、ムジークフェラインザール(モノラル/セッション)

ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 op.56a
ブラームス:交響曲第1番ハ短調op.68
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 19521月(セッション)

CD11(新リマスター)
ブラームス:交響曲第2番ニ長調作品73
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 19525月(ライヴ)

ブラームス:交響曲第3番ヘ長調作品90 
 194912月(ライヴ) 

CD12(新リマスター)
ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 194810月(ライヴ)

★ブラームスは『第4』が昔からよく聞く盤で、最近になって『第3』の凄さを知った。音が改善されているといいのだが。

ベートーヴェン:『コリオラン』序曲作品62
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 194711月(セッション)

ベートーヴェン:『レオノーレ』序曲第2番作品72a
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 19544月(ライヴ)

 

CD13
ブラームス:ヴィオリン協奏曲ニ長調作品77
 ユーディ・メニューイン
 ルツェルン祝祭管弦楽団
 19498月(セッション)

ブラームス:ヴァイオリン、チェロのための協奏曲イ短調作品102
 ヴィリー・ボスコフスキー
 エマヌエル・ブラベッツ
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 1952127日(ライヴ)

 

CD14
モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550 
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 194812月、19492月(セッション)

チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調作品74『悲愴』
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 193810月(セッション)

 ★ト短調は冬の嵐の中を疾走する馬車のような印象がある。

CD15
R.シュトラウス:ドン・ファン作品20
R.シュトラウス:ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら作品28
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 19543月(セッション)

R.シュトラウス:死と変容作品24
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 19501月(セッション)

フルトヴェングラー:交響的協奏曲ロ短調~アダージョ
 エトヴィン・フィッシャー
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 19394月(セッション)

★この自作曲、この楽章しか知らないが、味わい深い名曲と思う。

CD16171819
ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』全曲
 イゾルデ:キルステン・フラグスタート 
 トリスタン:ルートヴィッヒ・ズートハウス 
 ブランゲーネ:ブランシュ・シーボム 
 マルケ王:ヨーゼフ・グラインドル 
 クルヴェナール:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ 
 メロート:エドガー・エヴァンス 
 牧童:ルドルフ・ショック 
 水夫:ルドルフ・ショック 
 舵手:ローデリック・デイヴィーズ 
 コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団(合唱指揮:ダグラス・ロビンソン)
 フィルハーモニア管弦楽団
 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)
 録音:19526月(セッション)

 ★今回最も聴きたかったのがこの『トリスタン』。
以前はフィルハーモニアの演奏という点が引っ掛かっていたが、今では、だから良かったのでは、という気がする。確かフルトヴェングラーがはじめてレコード録音の価値を認めた記念すべきセット。

CD20
ハイドン:交響曲第94番ト長調『驚愕』
ケルビーニ:『アナクレオン』序曲
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 19511月(セッション)

シューベルト:交響曲第8番ロ短調D.759『未完成』
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 19501月(セッション)

リスト:前奏曲S.97
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 19543月(セッション)

★『未完成』の第2楽章の荒涼とした寂しさが特異な印象を与える。音は良くなかったと思う。新リマスターではないが、改善されているといいのだが。序曲は『アナクレオン』より『魔弾の射手』の方を入れてほしかったなあ。 

CD21
「フルトヴェングラーの思い出」

★関係者の証言を集めたドキュメント。しかし対訳なしではどうにもならず。
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コメント

コメント(1)
No title
少しずつ聴き進めています。
「トリスタン」の音質がとても良く、音楽が抵抗なく入ってくることに驚いています。彼としては大きな表情を避け、じっくりと聞き入るような指揮に徹しています。フラグスタートも抜け切った声が心地よい。
ブラームスは、リマスターの効果はあまり感じません。「第1」気合の入った名演奏で、とくに第2楽章は絶唱。しかし音は荒れ気味です。
忘れていましたがこの「ブラ1」、アルトゥスからも当日の全プログラム、というかたちで出ていたんですね。持っていたのを失念していました。音はアルトゥスのほうが良好です。EMIも放送協会提供の音源と思うのですが、なぜこんな違いがあるのでしょう。
内容たっぷりのセットで、購入価値は十分でしたね。各店ではすでに完売のようですが、この売れ行きなら再生産されるのでは。

yositaka

2011/03/11 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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