ルドヴィート・カンタを聴く

私にとって平日の演奏会を聴きに行くのは一苦労。
だが、今回は、血が騒いだ。
チェリスト、ルドヴィート・カンタ。
曲目に『アルペジョーネ・ソナタ』が含まれている。
 

 
 
ルドヴィート・カンタ チェロ・リサイタル
2011年2月9日()
名古屋 宗次ホール
 
ルドヴィート・カンタ(チェロ)
マリアン・ラプシャンスキー(ピアノ)
 
<プログラム>
マルティヌー:ロッシーニの主題による変奏曲
シューベルト:アルペジョーネソナタ イ短調D821
フランク:チェロソナタ イ長調(原曲譜面による)
  
<アンコール曲>
ドヴォルザーク:ロンド ト短調
サン=サーンス:白鳥
フォーレ:夢のあとに
 
 
数年前、東京・神保町の中古店で購入したルドヴィート・カンタのアイオロス盤CD『チェロ・リサイタル』の演奏は素晴らしかった。
特に『アルペジョーネ・ソナタ』。
聴きなれたロストロポーヴィチやトルトゥリエのディスクとは違って「チェロ・ソナタ」の趣がない。これは繊細な歌声で歌われたリート、喩えるならフィッシャー=ディースカウのシューベルト歌曲を聴くような演奏で、気に入った。
以来、この曲を聴くなら他の盤をさしおいて手が伸びる。
そして当夜の演奏も、すばらしいものだった。
 
初めて訪れた宗次ホール。
1・2階含めて300人収容の小ぶりなホールである。真っ白なホーンスピーカーの中にステージが作られているといった風で、曲線中心の、洗練されぬデザインだ。
残響は満席時1.8秒とのこと。意外に長いが、ピアノの音の粒立ちはきれいで、チェロの音にかぶって濁ったりすることがない。響きと音離れのバランスがよく取れた、優れた会場だと思う。
 
冒頭のマルティヌーの変奏曲が、チェロの機能を全開したような、強く豪快な響きで弾き切られたあと、
囁くようにそっと弾き始められた『アルペジョーネ・ソナタ』。
先ほどとは別の楽器のような、繊細な響きである。
カンタの弓は、音が太くなるのを極力抑え、もの思う一本の線のように、ひそやかな弱音を繰って、ある時は沈み、あるときは高揚していく。曲想に応じてはっとするような強い響きも加わるが、全体の色調は変わらない。
 
カンタ自身によるプログラム解説によると、今は滅びた楽器であるアルペジョーネは、チェロというよりはギターに近いものだったそうだ。
確かに。
このチェリストは、この曲をチェロ・ソナタというより、ギターの弾き語りを聴くような、内省的なシューベルトの音楽としてとらえている。目の前に広がるのは、歌曲集『冬の旅』に描かれた情景だ。
 
後半のフランクのソナタでも、弾き始めは、聞こえるか聞こえないかというくらいのかすかな音で、そっ、と入ってくる。流麗典雅なメロディで開始されるフィナーレも同じ「そっ」で、そのたびに聴く側は「ぞくっ」とさせられるのだ。
 
カンタの右手は自在そのもの。
激しい部分は、多少の音の荒れも気にせずぐいぐいと音を刻み、沈んだ部分では深い瞑想の響きとなって音楽の深遠を引き出していく。
その「瞑想」が最も生きたのが第3楽章。ラプシャンスキーの硬質なが強い波音を刻み、瞑想するチェロを包み込む。
会場はそのとき、凪いだ夜の大海となった…
 
「美音」とは違う。なめらかさや艶やかさよりも、雑味があって塩辛いチェロの音だ。一つの楽器というより、いくつもの楽器が重なったオーケストラの響きのような。多彩な音の「重なり」が生みだす、血の通った音楽である。
 
フランクの音楽自体、そうなのだろう。奏でられる音楽は「交響曲」の厚みを持っていた。
 
アンコールの3曲も聴きものだった。
ドヴォルザーク『ロンド』は8分の規模の大きな曲で、野性味のある曲想を生き生きと弾ませる。
『白鳥』は意外に悪戦苦闘。前曲での踊りのリズムが残ってしまったのか。ラプシャンスキーも同じ。途中で譜面が乱れて、タッチが緩む。有名曲だが、きっと難曲なのだろう。
そして『夢のあとに』。
典雅な印象がある曲だが、盛り上がる中間部は気迫がこもり、燃え盛る炎のごとく高揚する。5分間の大曲を聴く思いだった。
 
終演後サイン会もあり。
最新録音の
バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲  (自主製作盤)
を購入し、サインをいただく。

自宅から持参した『チェロ・リサイタル』にも、ちゃっかり。



 
 
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コメント

コメント(2)
No title
実は今日、店頭でたまたま見つけたカンタ氏の≪メロディーズ~チェロ名曲集≫というCDを父にプレゼントしようと思って買ったところで、あまりのタイミングにビックリしました
300人規模の小ホールで力技じゃない繊細なアルペジオーネを聴けるとは素晴らしいですね。(サインまで!!)
これまでソリストとして認識していなかったですが、要チェックですね

Loree

2011/02/10 URL 編集返信

No title
Loreeさんのコメントに刺激されて、このコンサートに出かけたのですよ。
でも、いけて本当に良かった。
『メロディーズ』も会場で販売していました。
でもこれはエイペックス盤なので、ここでは他では入手しにくそうなバッハを購入しました。
『メロディーズ』にも当夜のアンコール曲がすべて入っています。
じつは前掲の『チェロ・リサイタル』にも入っているのです。この三曲は、カンタさんの大好きな曲なんですね。

yositaka

2011/02/10 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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