カザルスを満喫する10枚

パブロ・カザルス、オリジナル・ジャケット・コレクション




■2010年06月30日発売
■Sony Classical *cl*
■88697656902
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3829614
 
パプロ・カザルスのチェロとなると、とたんに目の色が変わってしまう私だが、
最近こんなボックスセットが発売された。
音源自体はいずれも架蔵しているが、オリジナルな形態を復元するとなると興味がわき、入手してしまった。
またもや、散財…

これは、プラド音楽祭60年記念として、カザルスのプラド音楽祭での録音を中心に、1961年のホワイトハウス・コンサート・ライヴも加えた10枚組。
戦後、政治的信念により戦後演奏活動を中止、亡命地プラドで隠遁していたカザルスだが、盟友アレクサンダー・シュナイダーの説得により、同音楽祭での演奏を承諾した。
その経費は主に米コロムビアの音楽祭でのレコーディングによって賄われることになり、4年間の膨大な演奏記録が残された。これはLP時代の幕開けを告げる歴史的な企画ともなった。
プラド音楽祭での収録はライヴ録音ではない。いずれも演奏会の前後に、演奏会場でセッションを組んで録音されたものだ。それにしては、音質が今一つだが、石造りの聖堂などでの録音は困難を伴っただろうし、コロムビアの持ち込んだ移動可能な機材は、本国のスタジオに匹敵する性能がなかったのかもしれない。

今回のディスクは、嬉しいことに、音質が向上していると思う。
当時のカップリングをそのまま生かしているため、一枚当たりの収録時間が短いせいもあるのだろう。
 
Disc 1 
J・S・バッハ:『チェロ・ソナタ第1番ト長調BWV.1027』
『チェロ・ソナタ第2番ニ長調BWV.1028』
パブロ・カザルス(Vc) パウル・バウムガルトナー(p)
【録音】1950年7月 プラド音楽祭 (モノラル)

Disc 2 
J・S・バッハ:『チェロ・ソナタ第3番ト短調BWV.1029』
パブロ・カザルス(Vc) パウル・バウムガルトナー(p)
【録音】1950年7月 プラド音楽祭(モノラル)
J・S・バッハ:『音階的幻想曲とフーガ ニ短調BWV.903』『イタリア協奏曲ヘ長調BWV.971』 ルドルフ・ゼルキン(p)
【録音】1950年7月 プラド音楽祭(モノラル)

★この『チェロ・ソナタ』は、原曲『ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ』。ピリオド楽器全盛のいま、チェロとピアノでの演奏は、時代遅れかもしれない。でも私には、誰のどの演奏よりも「音楽の深み」を感じさせてくれるディスクだ。どの一音も独特の気迫がこめて演奏されているが、不自然さはない。BWV.1027の第二楽章など、音を長く伸ばす部分での延々と続くクレシェンドは、異様なほどの緊迫感を表出する。

Disc 3
ベートーヴェン:『チェロ・ソナタ第2番ト短調Op.5-2』
『モーツァルトの「魔笛」の
「恋を知る男たちは」の主題による7つの変奏曲変ホ長調WoO.46』
『モーツァルトの歌劇「魔笛」の
「恋人か女房か」の主題による12の変奏曲ヘ長調Op.66』
 パブロ・カザルス(Vc) ルドルフ・ゼルキン(p)
【録音】1951年ペルピニャン音楽祭 (モノラル)

★ベートーヴェンのソナタ全集のうち、この一曲だけが51年の録音で、最も緊張感に富んでいる。短調の悲劇的な曲想も、カザルスのスタイルによく合っている。ゼルキンのピアノも雄弁で、これぞまさに二重奏である。

Disc 4
ベートーヴェン:『ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調Op.97「大公」』
パブロ・カザルス(Vc) アレクサンダー・シュナイダー(Vn) ユージン・イストミン(p)
【録音】1951年ペルピニャン音楽祭 (モノラル)

★1928年のカザルス・トリオの名盤があるので、目だたない一枚になってしまっている。しかし、全体がカザルス色で覆われたこの演奏も、ファンにとっては大切な一枚で、聴きごたえがある。晩年のベートーヴェン・ハウスでのステレオ・ライヴに比べれば、技術的にも不安感が少ない。

Disc 5
シューベルト:『ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調D.898,Op.99』
パブロ・カザルス(Vc) アレクサンダー・シュナイダー(Vn) ユージン・イストミン(p)
【録音】1951年ペルピニャン音楽祭 (モノラル)

★ブックレットには、プラード音楽祭での録音との記載があるが、これは間違いで、『大公』と同じ51年ペルビニャンでの録音のはず。
こちらは『大公』よりも情感の表出がさらに激しく、男性的なシューベルト像を描き出している。にカザルスの長いソロで始まる第2楽章アンダンテ、この深い歌を、いつまでも聴いていたいと思う。続いてシュナイダーがカザルスのチェロにぴったりと呼吸を合わせて弾いていく。その様子が見えるようだ。

Disc 6
ブラームス:『ピアノ三重奏曲第1番ロ長調Op.8』
パブロ・カザルス(Vc) アイザック・スターン(Vn) マイラ・ヘス(p)
【録音】1952年 プラド音楽祭 (モノラル)

★52年以降録音が大きく改善される。カザルスの個性がすべてに優先する51年のトリオとは違い、スターンとヘスは、カザルスを尊重しつつも、一歩も引かぬ姿勢で対峙する。ことにヘスのピアノは、重く鋭い響きで音楽に芯を与え、イストミンの献身的なピアノとは大きく違う。これは、本セットに収められた四曲のトリオ中もっとも完成度の高い「室内楽」だ。

Disc 7
ベートーヴェン:『チェロ・ソナタ第1番ヘ長調Op.5-1』
『チェロ・ソナタ第5番ニ長調Op.102-2』
 パブロ・カザルス(Vc) ルドルフ・ゼルキン(p)
【録音】1953年 プラド音楽祭 (モノラル)

Disc 8
ベートーヴェン:『チェロ・ソナタ第3番イ長調Op.69』
『チェロ・ソナタ第4番ハ長調Op.102-1』
~ パブロ・カザルス(Vc) ルドルフ・ゼルキン(p)
【録音】1953年 プラド音楽祭 (モノラル)

★ゼルキンとのソナタ全曲が完成する。53年の4曲では、まず『第1番』、続いて『第4番』がすばらしい。
朗々と歌わせるチェロが曲に合い、音楽はどこまでも広々と広がっていく。しかし、あとの二曲は技術的に辛そうだ。特に傑作、第3番では、音量でもゼルキンのピアノに負けているのが惜しい。

Disc 9
シューマン:『チェロ協奏曲イ短調Op.129』
カタロニア民謡(カザルス編):『鳥の歌』『カニグーの聖マルタン祭』
J・S・バッハ:『アリア(パストラーレBWV.590)』『レシタティーヴォ(オルガン協奏曲より)』
ハイドン:『アダージョ(ピアノ・ソナタ第19番より)』
ファリャ:『ナナ~7つのスペイン民謡』
パブロ・カザルス(Vc)
ユージン・オーマンディ(指揮) プラード音楽祭管弦楽団
ペルピニアン音楽祭管弦楽団 ユージン・イストミン(p)
【録音】1952年 (モノラル)

★カザルスのソロがたっぷりと聴ける一枚。
従来盤よりも格段に音質がよくなった。なかでもバッハの『レシタティーヴォ』とハイドンの『アダージョ』の二曲は、カザルスの真骨頂が聴ける、彼自身の「音楽の言葉」で表現しつくされた演奏。
余談だが、ハイドンのこの曲、映画『千と千尋の神隠し』のテーマ曲、『いつも何度でも』とそっくりの一節が出てくる。


Disc 10
[ホワイトハウス・コンサート]
メンデルスゾーン:『ピアノ三重奏曲第1番ニ短調Op.49』
クープラン:『チェロとピアノのための演奏会用小品』
シューマン:『アダージョとアレグロ変イ長調』Op.70
カタロニア民謡(カザルス編):『鳥の歌』
~ パブロ・カザルス(Vc) アレクサンダー・シュナイダー(Vn) ミスチスラフ・ホルショフスキ(p)
【録音】1961年11月13日 ホワイトハウス (モノラル)

★高名な録音。カザルスがチェロを弾いた最後期、さすがに技巧は苦しげだが、それを超えて迫ってくるものを感じ取りたい。シューマンの曲の前半『アダージョ』と、『鳥の歌』だけでも、名盤と呼ぶに値する。

このコンサートは同時期、スタジオで全曲が映像収録された。カザルスの演奏をアップで鮮明にとらえた美しい映像である。なぜこれが世に出ないのか、謎だ。
関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(4)
No title
1988~89年頃、毎週日曜の朝10時のFMで半年くらいにわたってカザルスの特集をしていて、ぼくはその中でもバッハは聴き逃すまいと結構必死になって聴いていたことを思い出します

そのFMを聴いて特に感銘を受けたBWV1043(スターン&シュナイダー)とBWV1052(シゲティ)の2曲は何故かずっとCD化されず、数年前にようやく出たプラドのバッハをまとめた組物に含まれていたのを買いました【CASCAVELLE】。この2曲は、本家からはまだ復刻されていないのではないでしょうか。

同じくバッハのチェロ・ソナタ集は、プラドの3曲は友人から借りてダビングしたので、自分では1950年代後半のホルショフスキー共演のライヴを買いました(BWV1027&1028の2曲のみ)【ASdisk】。

そういえば、10数年前にテレビ番組「世界ふしぎ発見」でもカザルスがテーマになったことがあり、夫人とのエピソードなどもあって、意外にもなかなかの内容でした(意外にも、と書きましたのは、別の回でバッハがテーマになったときは期待外れだったので)。ビデオに録画しておけばよかったまた見たくなってきました。

Loree

2010/11/03 URL 編集返信

No title
CASCAVELLE盤や、なんとAS盤までお持ちとは、ロレーさんも相当なファンとお見受けしました。
お書きの協奏曲二曲は、本家ソニーからも黄色いジャケットのシリーズで出ていた気もします。
いずれにしても、何度出されてもコンプリート収録にはなっていません。これは、LP時代からそうでした。今回のボックスだって、明らかに選曲は不十分で、名盤として名高いブラームスの弦楽六重奏曲や、貴重ななソロ演奏、シューマンの『民謡風の小品集』すら入っていません。ちょっと呆れています。4年間に録音された全貌を知りたいと願っているファンは多いはずですが…。
「世界ふしぎ発見」、確か見覚えがあります。「知ってるつもり」でも取り上げられていましたね。

yositaka

2010/11/04 URL 編集返信

No title
追伸 バッハの協奏曲二曲は、どうやらソニーからはCD化されていないようです。
CASCAVELLEの5枚組は、1950年の指揮活動の記録で、貴重な内容です。同様な形でシリーズ化されることを期待したのですが、これ1セットで終わっているのが残念ですね。
今も入手可能です。http://www.hmv.co.jp/product/detail/1991999

yositaka

2010/11/04 URL 編集返信

No title
ぼくは完全にバッハ目当てなので、他のレパートリーはよく知らないのです
協奏曲2曲は、学生の頃から、プラドのCDが出る度にチェックしてきたのですが、何故あえて外されるのか、誰かの陰謀かと思いました(笑)
CASCAVELLEの5枚組は、わが家の貧弱なCDプレーヤーのことを棚に上げても粗い音だと感じます。もともと、条件が良くなかったのですね。
最近、カザルスを聴いていませんでしたが、急に聴きたくなってきました

Loree

2010/11/04 URL 編集返信

コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR