ワルターの熱血が伝わる演奏

ベートーヴェン:『エグモント』序曲Op.84
マーラー:交響曲第4番ト長調


イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ブルーノ・ワルター(指揮)

1950年8月24日
■ザルツブルク、旧祝祭劇場
■モノラル(ライヴ)
■ロート・ヴァイス・ロート放送グループ収録
■ORFEOR818101 ORFEO DOR *CL* Germany 2010年10月21日
 
 
マーラーの交響曲第4番は、指揮者ブルーノ・ワルターがことのほか愛好した曲。
マーラーとしては珍しい、牧歌的で穏やかな曲想に、強い共感を持っていたのだろう。
商業録音はニューヨーク・フィルとの1945年に行った一度きりだが、ライヴ盤は多く、ウィーン・フィルとは1950,55,60年の三種類が世に出ている。
演奏はそれぞれ良さがあり、独唱者も異なる。
 
1950年 イルムガルト・ゼーフリート
1955年 ヒルデ・ギューデン
1960年 エリザベート・シュワルツコップ
 
ワルター・ファンなら皆揃えたくなるのでは。総合的には録音優秀な55年盤を最高とする人が多いだろうけれど…。
 
今回紹介するのは、1950年盤。
かつて米レミントン・レコードのスタッフによる録音という触れ込みで、ビクターから国内盤が出ていたものだ。しかし新たに発売されたオルフェオ盤は、オーストリア放送協会提供で、収録はロート・ヴァイス・ロート放送という。大戦後、敗戦国となったオーストリアに連合国が設置した暫定放送局の名称だ。では別音源?
私が架蔵しているビクター盤(ヴァレーズ・サラバンド原盤)は、決して悪い音ではない。ウィーン・フィルの音色、個々の楽器の鮮明さもまずまず。ザルツブルク祝祭劇場の空気がよく伝わってくる。
だが、録音レベルの操作ミスのためか、全曲にわたって高音が歪みがちだ。そのためにのちに出た55年盤の影に隠れた存在になってしまった。
もし別音源なら…と期待するわけだ。
 
さっそく、マーラーから聴いてみる。
フルートと鈴の音が緩やかなリズムを刻む中、そっと入ってくるヴァイオリンの旋律。音が高くなると、ごりっと潰れたように濁る。
うーん残念、既存盤と同じ音だった。例の歪みもそのまましっかり残っている。
では、音自体は改善されているのか。…よくわからん。
 
そこでビクター盤を探し出して、聴いてみた。
 

■VDC-1158
■ビクターエンタテインメント 1987年1月21日
 
23年も前に発売された盤だが、音質は思っていたより良好だった。
曲が進み、楽器が増えてくると、低弦の音がしっかりと聴こえ、奥行きと立体感が感じられる。高音の弱さを低音で補っているという感じ。
そこでもう一度オルフェオ盤。やはり同じ音なんだが…ビクター盤を聴いた後だと、どうも低音に腰がなく、頼りない。高音寄りの、腰高なサウンドに作られているらしい。もともとのマスターのせいか、あるいはリマスターの担当者が、鮮度を増すために加工したのかもしれない。が、この音源の場合は逆効果で、歪みが目立ってしまう。
失敗だったか…
 
気を取り直し、初出の『エグモント序曲』を聴く。
この曲のワルターの解釈は個性的で、曲想に合わせてのテンポの緩急が激しい。主部の突進のテーマで一気に駆け上がり、直後にリタルダントする大胆さは、この指揮者のイメージを大きく変える。53年録音のニューヨーク・フィルとのスタジオ盤、50年録音のベルリン・フィルとのライヴ。いずれも同様だった。
今回のウィーン盤も、基本的には同じだが、完成度は今一つだ。響きは荒々しく、テンポの揺れもどこか不安定で、決まっていない。特にコーダは、もっとストレートでいいのに、と感じさせる。練習不足か、オーケストラがまだ本調子ではないのか。
それでも、演奏会の最初からやりたい解釈はやりぬこうとする熱血の意志は感動的だ。ファンならこの一曲で価値は十分だろう。音は、マーラー以上に歪んでいる。前回収録を見送られたのもわかる気がする。
それでもなお、聴きたい。演奏会の残る一曲、モーツァルトの交響曲第39番も。
 
 
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コメント

コメント(13)
No title
う~ん…凄い。こんなにあるとは。そして実に詳細な比較。
お恥ずかしながら、マーラーの交響曲はほとんど聴いたことがありません。にもかかわらず何の陰謀か、イヤ、巡り合わせか、数少ないコンサート体験(主に招待券もらった等)でまったく偶然に9番だけ3回も当たっています
4番は、インバル指揮フランクフルト放送響のCDなら家にあったかも…。
以前、娘がお世話になっているジュニアオーケストラで4番の終楽章だけ上級生が演奏して、いい曲だな、と思いました。いつか、じっくり聴いてみたい曲です。
ワルターを選ぶなら、55年盤にしようかな

Loree

2010/10/27 URL 編集返信

No title
オルフェオ盤は先日店頭で見かけました。ライブ盤ならばフランス国立放送局oもあったように記憶しています。他にボストンsoだったでしょうか、そういうのがあるようです。他に53年のNYPとのライヴ録音もあり、如何にこの曲を取り上げていたかがわかりますね。

第3番、第6~8番は少なくとも録音はないですね。実演は取り上げているのかなと思っています。

SL-Mania

2010/10/27 URL 編集返信

No title
ロレーさん、4番はマーラーの交響曲中もっとも親しみやすい曲と思います。インパルは名盤の一つです。ワルターは多くの指揮者と違ってテンポの変化が少なく、なだらかな造形なので、地味に感じるかもしれません。その代わりに個々の楽器に多彩な音色や生命感を求めているようです。だから録音が少しでも良いほうがいいのです。
55年盤は、今ちょっと手に入りにくいかも。でもいずれ再発されるでしょう。

yositaka

2010/10/27 URL 編集返信

No title
SL-Maniaさん、ワルターはほんとにこの曲を何度も演奏し、録音は10種類を超えているそうです。私の手元にあるのは9種類。フランス、ボストン、ニューヨークライヴ、どれも味わい深いものばかりです。この3つの中ではフランス盤がいちばん音がよく、管楽器の音色が魅力的です。
録音のない曲も、戦前は演奏していたと思われ、CBSにも全集録音の提案を続けていたようです。第3番など、ワルターにぴったりの曲と思うのですが、残念ながら記録がみつかりません。

yositaka

2010/10/27 URL 編集返信

No title
CBSに提案していたのですね。しかし当時はマーラーは知る人が少ないので会社側も躊躇したことでしょう。それでもステレオで第1番、第2番、第9番、「大地の歌」「さすらう若人の歌」を遺してくれたのはありがたいと思っています。またモノラルの方は第1番、第4番、第5番がありました。これまたありがたいです。

SL-Mania

2010/10/28 URL 編集返信

No title
会社との折衝が難航している様子はワルター自身の手紙にも触れられています。マーラー人気の現在から見ると隔世の感がありますね。
ワルターのマーラーは、よく「ロマンティックな演奏」と評されることが多いのですが、ちょっと違うと思っています。彼は饒舌気味の音楽を古典的造形に無理なく収め、厳しく引き締まった音楽にしようとしています。テンポも現代の人よりずっと速め。初めて耳にすると意外に感じるかもしれません。でも、私はそこが好きなのです。

yositaka

2010/10/28 URL 編集返信

No title
テンポと言えば、メンゲルベルクのアダージェットはめっちゃ速いですね。でも表情はこれ以上ないくらい濃厚。
ワルターのアダージェットは、メンゲルベルクよりちょっと遅いくらいでしょうか。それでも現代よりずいぶん速いですね。

交響曲ではないですが、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の自作自演、ガーシュウィンのラプソディ・イン・ブルーの自作自演も相当速いですね。

モーツァルトとかベートーヴェンとか古典を演奏するときは、いろいろ調べて当時の演奏スタイルを考慮するのが主流なのに、作曲者の自作自演やゆかりの演奏家の録音が残っている曲では、あんまりそれは尊重されないですね。
ぼく自身は、演奏者が自由にやればいいとと思っていますが、不思議な現象です。

Loree

2010/10/28 URL 編集返信

No title
昔の演奏を速めに感じるのは、録音技術の制約もあったかもしれません。でも、私は巨匠たちがそう簡単に妥協したとも思えないのです。
「音楽の勢い」を、当時の音楽家はとても大事にしたのではないか。そして、その場にあふれ出る音楽を大事にし、譜面の扱いにも柔軟だったと思うのです。
その点、近年の流行である「時代様式へのこだわり」は、はたして音楽を豊かにしているのか、と疑問に感じることがあります。そのスタイルを完全に自分のものにしていればよいのですが。

yositaka

2010/10/29 URL 編集返信

No title
「レコード芸術」12月号の記事「今月のリマスタ盤で」、山崎浩太郎氏による両盤比較が掲載されました。ただしヴァレーズ盤は1990年発売の米MCA盤で、私の比較したものより後の発売のものです。
山崎氏はヴァレーズ盤について

>ほんの数分聴いただけで時代遅れのリマスタリングとわかる。ノイズをカットし、響きのざらつきを抑え、エコーを加えて、一瞬聴きやすく思うのだが音が鈍重で覇気がなく、聴くうちに気分が沈んでくる

と酷評。
オルフェオ盤についても

>これもかなり調整を加えたようで、活力に欠けるが、それでもMCA盤よりは良い。

と、あまり評価していません。
オルフェオ盤については、どこが良いのか、もう少し詳しく述べてほしかった気がします。
いずれにせよあまり購買意欲を起こさせない評価ではありますが。

yositaka

2010/11/21 URL 編集返信

No title
今更ですがお邪魔します。このマーラーの4番は素晴らしいですね。大好きです。わたしはアンドロメダとアマゾンのmp3ダウンロード(ウラニア)で聴いています。高音域がカットされている印象ですが、アマゾンのほうが若干、音の広がりで勝っているかもしれません。

せいの

2011/12/01 URL 編集返信

No title
おはようございます。過去の記事にコメントいただくと、記事がまだ生きていると感じて嬉しくなります。
アンドロメダのディスクは55年盤(ギューデン独唱)だったような気がするのですが、別に50年盤が出ているのかもしれません。ウラニア盤がアマゾンでダウンロード販売されているとは知りませんでした。このイタリアのレーベルはノイズをカットしてステレオ感を付加するなど「音を加工」することで知られていますが、この盤の場合はうまくいっているのでしょうか。

yositaka

2011/12/02 URL 編集返信

No title
アンドロメダからは両方出ています。55年のほうが音はいいですね。わたしは50年のほうが演奏は好きです。

ウラニアはアンドロメダより音に張りがありますが、やはりいろいろいじくりまわしている印象はあります。mp3コーナーで一部、試聴できます。「mahler walter 4」で探してみてください。

大好きな演奏なのでもっといい音で聴きたいものです。

せいの

2011/12/03 URL 編集返信

No title
アンドロメダからは2種でているのですね。
これは、かなりのこだわりようです。しかしこのレーベルも、音質面ではばらつきがあって、音量レベルが高すぎて聞き苦しいものもあります。

オルフェオはノイズカットへの執念がうっとうしい。難しいものです。
ウラニアの音源も、上手くいっているならちょっと聞いてみたいですね。

yositaka

2011/12/03 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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