ワルターのジークフリート牧歌

大変貴重なLPを入手した。
日本ワルター協会が製作した研究用のLPで、会員のみに配布されたもの。


ワーグナー
ジークフリート牧歌(3種類の演奏)




ブルーノ・ワルター指揮

①ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1924.12.3

②ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1926.11.19

③交響楽団 1930

■BWS 1048



発行年度は不明だが、この協会は1970年から90年まで活動し、その間約70枚のLPを製作したので、これは番号から推測して、1980年代前半のものではないだろうか。

中でも注目されるのはアコースティック録音の①だ。


>アコースティック録音とは、音楽・音響の録音において、音声を電気信号に変換することなく、機械的振動を直接レコード原盤に伝達して刻み込む録音方式のこと。ラッパ型の集音器を使うため、しばしば「ラッパ録音」と呼ばれることもあり、後に登場した電気録音に対して古い録音法の意から「旧吹き込み」などとも呼ばれる。
初期のレコード録音においては、マイクロフォンが発明されていなかったため、蓄音機の逆の方法、すなわちラッパに向かって歌いあるいは楽器を演奏し、その音でダイヤフラムを振動させ、その振動を針に伝達して記録用媒体に溝を記録(カッティングという)しており、これがアコースティック録音である。
この方式では、ある程度の音質で記録可能な音源は独唱曲か小編成の器楽曲程度で、オーケストラの記録はかなり貧弱な音質にしかならなかった。特にヴァイオリンなどの弦楽器の収録は楽器の広い範囲から音が輻射・拡散するため、集音用のラッパで捕らえることが難しかった。-ウィキペディアより


早速聴いてみると、針音は多いものの、音自体は意外に聴きやすい。
録音しやすいようにするためか、原曲の指定に従っているのか、室内楽的な小編成の音で、大変ゆっくりとしたテンポで奏でられる。
ワーグナーが妻の誕生日を祝って自宅演奏するために作られた曲なので、本来平和でのびやかな曲想が特徴の音楽だが、24年のワルターの演奏を支配しているのはそれとは違う、感傷と孤独である。
フレーズの終わりごとに掛けられるポルタメント。ヴィヴラートを抑えた弦が奏でる主題は、牧歌的という印象には遠い。後半の喜びのテーマの部分で突然テンポが上がるのは、晩年まで変わらない彼の解釈だが、ここでは加速したとたん、合奏が大きく崩れる。今なら当然取り直しするところだが、ワルターはこれを許容したのだ。
それが不安感を呼び、寂しさに輪をかけることになる。

続いて同じ面に収録されているのは②ではなく、③の方だ。
音が鮮明。機械録音と電気録音の違いがよくわかる。響きは一転して明るさと温和さに包まれた、聴きなれたワルター調に変貌している。
しかし、ゆったりとしたテンポや旋律の歌わせ方、曲全体の構成は不変であることも、よくわかる。

裏面全体を使ってゆったりと収録されているのが②。
電気録音に変わって2年目の年だが、当時のロンドンの録音設備は良好らしく、年代から予想される聞きづらさはない。
演奏は①で多用したポルタメントの響き、とワルター持ち前の温和さをブレンドした感じ。
しかしどちらかといえば感傷と寂しさが勝っている。音が鮮明でオーケストラの技術も①よりは良いので、とても魅力的に感じる。

ワルター協会会長の菅一(すが はじめ)氏は、③ではなく②を、当時のワルターを代表する演奏と考えたのだろう。
3曲とも、針音を抑えるなどの余計なイコライジングを一切していないので、音の出方がストレートだ。こういう愛情のこもった盤が作られたのは、日本のワルター・ファンの誇りである。

以後、ワルターは生涯にわたってこの曲を繰り返し演奏、録音した。
世にいっそう知られているのは次の三つの録音である。

④ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1935.6.19
⑤ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1949.6.19
⑥コロンビア交響楽団 1959.2.27

⑥には、一時間に及ぶリハーサルの記録も残されている。


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コメント

コメント(4)
No title
1924年から1935年の間に4回も録音しているのですか。
SPレコードだったら、3~4面くらいの組物ですよね。
すごい。。

⑥のリハーサル録音はおもしろそうですね。
ベートーヴェンの交響曲など、以前、対訳付きでCD化されましたが、ジークフリート牧歌のリハーサルも存在するとは知りませんでした。
モーツァルトの36番のリハーサルも一部分しかCD化されていないはずだし、リハーサルレコードって、あんまり需要ないのかな~(><)

Loree

2010/09/05 URL 編集返信

No title
こんにちは。貴重な盤をお持ちですね。ワルターの愛好曲だったのか通算6回も録音しているのですね。①②の団体は今の同名の楽団とは違うそうですね。

SL-Mania

2010/09/05 URL 編集返信

No title
いつもコメントありがとうございます。ロレーさん、
ワルターのジークフリート牧歌への偏愛ぶりはともかく、何回ものレコーディングを認めたレコード会社の太っ腹も見事です。
sp録音と言えば片面最大5分ですから、テンポを速めて面に収めることもあったのではと思いがちです。しかしワルターは常に自分のテンポを守っており、彼が録音のための妥協をしなかった証拠にもなっているのです。
リハーサルの録音がいくつか残されたのは、ファンとして幸運なことですね。「ジークフリート牧歌」のそれは、輸入盤ボックス『オリジナル・ジャケット・コレクション』http://www.hmv.co.jp/product/detail/1845291に収録されていますが、目下品切れ中らしいのが残念です。それにこれ、対訳がありません。こういうのは国内盤が欲しいですね。

yositaka

2010/09/05 URL 編集返信

No title
SL-Maniaさん、はじめまして。
ブログ拝見しました。音楽趣味、私と重なるところが多くて嬉しいです。これからもよろしくお願いします。
当盤リロイヤル・フィルはビーチャム創設の現団体とは別のようです。というよりも、当時のイギリスのオーケストラ活動は協会制で、音楽家は各演奏団体の会員となり、演奏会があるたびに都合のよい人員が集まる方式だったようです。
ロイヤル・フィル協会のコンサート(あるいは録音)があるから集合、というわけですね。当然、収入不安定で掛け持ちも多かったことでしょう。このころ、ブリティッシュとか大交響楽団とかいろいろな名前が出てくるのは、そうした事情のためで、多くが共通メンバーだったらしいです。音楽で食べていくのは、昔も今も大変だったのですね。

yositaka

2010/09/05 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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