長 新太 マンガのココロ


雑誌『イラストレーション』2010/9 185号


大特集+付録「長 新太 マンガのココロ」

漫画家であり絵本作家でもあった「巨匠」長新太の特集です。児童文学サイトの観点とは違う、画業とくにマンガに焦点を当てた内容。
実に盛り沢山の記事が掲載されています。

 
土井章史セレクト
 
長新太と生前懇意にしていた絵本編集者の土井章史による作品紹介。マンガや独立した一枚のイラストから選ばれていて、絵本からのものはありません。見る機会が少ないものばかりで貴重です。
大草原にレモンのような黄色い物体がうかんでいて、その端に煙突のたった家があり、いまにも草原に転落しそうになっている、という構図の26pの作品がすばらしい。
のどかな美しさの中に進行する崩壊、または同化をあらわしているのでしょうか。


「なんじゃらほい座談会」 
 
土井章史、装丁家の日下潤一、イラストレーターの網中いづるによる座談会。
「凄いと思って何度も読むんだけど、読んだ端からことごとく忘れてしまう」と三人は口をそろえて言います。確かにその通り。
だから、何度読んでも、見てもいつも新しいんだな。
 

「この場面が好き!」
セレクター:寺田順三、荒井良二、たむらしげる、藤枝リュウジ、しりあがり寿
 
荒井良二の選んだのは『へんてこへんてこ
ネコパパも大好きな絵本です。
川を挟む不思議な橋。その上を通る生き物は、みんなみんな長―くのびてしまう、ってやつです。ところが、新井さんは誰も通っていない場面を選んでいる。
さすが、渋いね。
しりあがり寿のセレクトは『ちへいせんのみえるところ』
長さんの作品中、最も多くの人が引用、言及する作品じゃないでしょうか。
大草原から「でました」といって、いろいろなものが出現する。ただそれだけの作品なのに…最高です。

 
「長さんのこと」
コメンテーター:関口 展(元福音館書店「こどものとも」編集長)、筒井大介(イースト・プレス編集者)、西須由紀(ピンポイントギャラリー)
 

関口 展のコメントが衝撃です。
長新太が亡くなった年、2005年1月、福音館の編集者だった関口は「赤ちゃん絵本」を依頼します。
下書きのための真っ白な冊子を予備も含めてのつもりで5冊送付したところ、3月までに5作品のダミーが送られてきたというのです。
そのうちの一冊が『ころころにゃーん』。これを病院で仕上げ、長さんは6月に逝去。
あの、愛すべき遺作がこうして世に出たのです。
残った四冊のうち二冊は、和田誠の手で完成して発刊されました。
いずれあと二冊も世に出ることでしょう。
「長さんの絵本は親御さんの評判は良くなかった…でも、『役に立たないように見えるものに、大切なものがある』ということを一番わかっていた人」
という関口のコメントに、思わず納得してしまいます。

 


付録の二本立て「何じゃらほい漫画本

心臓とノーミソ』『燃えるキリン』の二作品。こりゃ、すごい。永久保存版ですね。
なかでも後者は、アイデアも、絵の見事さも、『長』一級品です。全ページカラーで絵本化できないものでしょうか。


意外だったのは
長新太の作品を高く評価し、世に紹介した今江祥智のコメントがどこにもないこと。
そして
非常に大きな部分を占める児童文学の挿絵の仕事に、あまり言及されていないことが、ネコパパとしてはちょっと残念。
ここには、ナンセンスを排除してもなお一級の画家であった長新太の一面があります。そんな作品もぜひ知っていただきたいと思います。
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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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