荻原規子のファンタジー『RDG レッドデータガール』シリーズ三作を、一気に読みました。最近ネコパパは読書意欲、持続力減退気味なので、ひさびさに爽快でした。
さて。『空色勾玉』(福武書店/徳間書店)で、古代の日本を舞台とした本格的な歴史ファンタジーの書き手として世に出た荻原規子ですが、創作活動は旺盛です。
『空色勾玉』に始まる、古代から平安時代までをつなぐシリーズを書き継ぐ一方で
アラビアン・ナイトの世界を題材にした傑作『それは王国の鍵』
古生代の地球にも似た異世界に、剣と魔法の中世騎士物語を移植したような『西のよき魔女』
といった作品群を生みだしてきました。
今回のシリーズはいよいよ現代の日本が舞台、というので、期待は高まります。
ストーリーを紹介しましょう。

RDG レッドデータガール
はじめてのお使い
■荻原規子
■挿画:酒井駒子
■2008年 07月 04日
■角川書店
山伏の修験場として世界遺産に認定される、玉倉神社に生まれ育った鈴原泉水子(すずはらいずみこ)は、宮司を務める祖父と静かな二人暮しを送っていた。
長い髪を二本の三つ編みにし、メガネをかけた内気な中学生だ。
中学三年になった春、泉水子は、アメリカ勤務で、めったに姿を見せない父親、大成から、東京の私立高校進学を薦められる。
しかも、父の友人で後見人の相楽雪政が、山伏として修行を積んできた自分の息子相楽深行(さがらみゆき)を、泉水子につき添わせるという。
そこには泉水子も知らない、自分の生い立ちや家系に関わる大きな秘密があったのだ。
修学旅行で東京に出た泉水子は、その秘密と命がけで向き合う羽目になっていく。

RDG2
レッドデータガール
はじめてのお化粧
■2009年 05月 28日
■角川書店
泉水子は『姫神憑き』といわれる特殊能力を祖先から引き継いだ少女だった。
しかし、その力は未だ覚醒せず、不可解なままだ。
神霊の存在や自分の力と向き合うため、生まれ育った紀伊を出て、東京の私立高校、鳳城(ほうじょう)学園に入学した泉水子。
学園では、別個の事情で入学した深行と再会するも、二人の間には縮まらない距離があった。
弱気になる泉水子だったが、寮で同室になった宗田真響(そうだまゆら)と、その弟の真夏(まなつ)と親しくなり、なんとか新生活を送り始める。
しかし… 泉水子が、あるクラスメイトの正体を見抜いたことから、事態は急転する。この学園には「人間ではないもの」が忍び込んでいるのだ…

RDG3
レッドデータガール
夏休みの過ごしかた
■2010年 05月 28日
■角川書店
次第に自分の秘密、学園の秘密に迫っていく泉水子だが、内気で思い込みの強い性格は変わらず、深行との微妙な距離も埋まらない。
しかし、外交的で学園の人気者でもある友人、宗田真響の働きかけもあって、生徒会実行委員のひとりとして学園の深部にせまっていくことになる。影のように付かず離れずの存在、深行も一緒だ。
秋の学園祭の準備で、泉水子たち生徒会実行委員は、真響の提案で彼女の地元・長野の戸隠神社で合宿することになる。
期待に胸弾ませる泉水子だったが、宗田姉弟もまた、山伏と並ぶ影の家系「忍者」の一員であり、神霊とかかわる者たちでもあった。戸隠にもまた、大きな災厄の気配が迫る。
こんなストーリーです。
まあ、理屈抜きで面白い。
でも、これって、ファンタジーなんでしょうか。
すくなくとも、『空色勾玉』や『それは王国の鍵』のようなファンタジーとは、ちょっと違うのでは…
ネコパパが最も印象に残ったのは、次のシーンでした。
主人公泉水子は、当初機械を扱えない少女として描かれています。
苦手、というのではなく、手に触れるものはパソコンであれ、駅の発券機であれ、片っぱしから故障するのです。
これが東京で彼女の大きな障害となります。
見えぬ敵に追われ、母の家にたどり着こうとする泉水子。しかし、機器破壊現象に阻まれて、列車にも乗れず、窮地に追い詰められていく。この場面の迫力がすごい。際立っています。
なぜ、そう感じたのか。
じつは、この場面だけが、作品世界で「こちらの世界」と「あちらの世界」のせめぎ合いを表現した場面、つまり、ファンタジーが成立している場面だと感じたからです。
「いよいよ現代の日本が舞台」と、先ほど書いたばかりなのですが、ここまで通読してみて、ネコパパにそれが実感できたのは、じつはこの場面だけだったな。
では、ほかの部分は何なのか。
それは現実のようで現実ではない、閉塞された「仮想空間」。それは「現代の日本」では決してない場所。
さきほど紹介したストーリーをもう一度ご覧になれば、わかります。
玉倉神社
鳳城学園
戸隠神社
すべてが、いわば「結界」の内部、と言えばいいのでしょうか。
そこでは、何事も起こりえて、何事もあり得ない…
何でもありの、リアリティ不要な空間です。
ネコパパが思うファンタジーとは、現実世界から見て、どんな不可解なことが起ころうと、読者にそれが確かに「ある」と納得させる、そんな実在感のある世界を、言葉によって生み出すもの。
トールキンのいう「再創造」の世界ですね。
そういうジャンルではないかと思っています。
だからつい、これって、ファンタジーなんでしょうか、などと言ってしまったのです。
『RDG レッドデータガール』、3巻までの時点で、まだ作品はまだファンタジーの全貌を見せていません。
その分、『キャラクター小説』という印象が強くなっていると思います。ストーリーや世界観よりも、「キャラ」が優先する小説です。
それじゃあだめなのか、という声も聞こえてきそうですが、答えにくい問題です。その件については、いつか別の機会に。
いずれにせよ、これからに期待、なのであります…
荻原規子
東京生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。『空色勾玉』(福武書店/徳間書店)でデビュー。 その後、『白鳥異伝』、『薄紅天女』(徳間書店)と続き「勾玉三部作」を構成する。以来、 ファンタジー作家として活躍。「西の善き魔女」シリーズ(C★NOVELS)。 2006年、『風神秘抄』(徳間書店)で、第53回産経児童出版文化賞・JR賞、 第46回日本児童文学者協会賞、第55回小学館児童出版文化賞を受賞。
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