またもジャズ・レコード三昧

8月某日

bassclef君宅へは、豊橋鉄道の路面電車に乗っていく。線路を挟んで両側に二車線あるだけの狭い道路にそって、昭和の風情をたっぷりと残した街並みが続いていく。
車両からの眺めは見ていると、子ども時代にタイムスリップしていくようだ。
さて、今日は恒例の、bassclef君宅でのレコード鑑賞会。
参加者はsige君とネコパパ。いつもの顔ぶれだ。路面電車に乗って、かの時代に全盛を迎えたLPレコードを聴きに行くのは乙なもの。電停を降りると、いつものように赤い車でbassclef君が迎えにきてくれている。


 

まずは巨匠、マイルス・デイヴィス。
『フォア・アンド・モア』
『セブン・ステップス・トゥ・ヘヴン』
と、ネコパパも大好きな60年代の名盤も、もちろんいいが
名盤『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』の、bassclef君秘蔵の米コロムビア・オリジナル盤と、ネコパパも所有しているソニー国内盤との聴き比べは、なかでも興味津津。

1955年、56年録音。半世紀以上前という録音年代の古さなど、冒頭のマイルスのミュート・トランペットを聴けば、たちまちどこへやら。
宵闇のマンハッタンを走る閃光に導かれ、濃厚さと洗練さを併せ持つジャズの世界が部屋を満たす。
まさに不滅の一枚。
音の伸びがよい日本盤LPの音も優秀だ。すっきりと耳になじみ、何の不満も感じない。
しかし、オリジナル盤<六つ目レーベル>の音は、より低音が豊かで、ポール・チェンバースの弾くベースの音が鮮明。弦を弾く刻みの音がよりはっきりと聴こえる。レッド・ガーランドのピアノも、同様に硬くくっきりしている。
よく耳にする「初期盤ガツンとくる音」というのは、こういうことなのか。
 
帰宅後、SBMマスタリングと銘打たれたCD(1996年発売)も聴いてみた。拙宅所蔵のLPも、bassclef君所有の国内盤と同じもの。これとも比較してみる。再生装置が違うので一般化できないが、CDは国内盤LPの音質と同一路線ではないだろうか。低音よりも中高音の磨き込みに腐心していると感じられる。
鮮度は確かに上がっているようだが、手ごたえはガツンではない。スカッ。
今の時代に要請されるのは、きっとこういう音なのだろう。
マスターテープの保存状態、発売当時の再生装置の特徴…変化の理由はいろいろ考えられるが、良し悪しは別として、盤による音の違いが大きいことは確かだ。
「ガツン」を追い求め、出費を厭わず初期盤を探求するファンの気持も、いささかわかる。bassclef君はそれぞれの良さを認める人だ。そこがいい。


 
bassclef君は、熱心な10インチ盤の収集を続けている。
10インチ盤は、既に60年代にはほとんど作られなくなった。形の小ささ、デザインの古い味わいが魅力で、並べるのが楽しい。50年代当時のアルバムは、当初は10インチでの発売が多数だった。だからこれは、真のオリジナルの音なのだ。


そのコレクションの中の『マイルス・デイヴィス・オールスターズ』という盤を聴かせてもらった。
プレスティッジレーベル、1954年12月のセッション。
マイルスとセロニアス・モンクが「喧嘩」演奏をしたという例の『ザ・マン・アウ・ラヴ』。
星のまたたきのような、ミルト・ジャクソンのヴァィヴラフォンをバックに、マイルスが見事なソロを、ゆったりと歌いあげた後、阿吽の呼吸でアップテンポ、ミルトの情熱のソロに。
続くモンク、音数を切り詰めた特異なソロがはじまるが、突如中断。パーシー・ヒースのウォーキングペースが唸る中、マイルスが「フォア」のフレーズを鳴らして続行を促す…
突発的な出来事がありながらも、落ち着き払った完成度を最後まで維持する。まさにジャズでしかあり得ない音楽だ。
10インチの音は、特有のスクラッチノイズはあるが、温かく、まろやか。後日発売された12インチ盤『モダン・ジャズ・ジャイアンツ』とは、別の味わいがあるのでは。12インチ盤と聴き比べしたいね。

 
同じプレスティッジ系列のニュー・ジャズ・レーベルの10インチ盤で『ジミー・レイニー・アンサンブル』。
フィル・ウッズ(as)らとの共演。ジミー・レイニーというギタリストは、ネコパパには馴染みのない人だが、ジミーが滋味に通じる人と聴く。ウェスト・コースト・ジャズに共通する柔軟さ、明朗さがある。10インチの音質は良好。
ウェスト・コースト繋がりで『バド・シャンク、ボブ・ブルックマイヤー』(パシフィック)。50年代を感じさせるトロミのあるストリングスをバックに、シャンク(as)とブルックマイヤー(vtb)が颯爽とした演奏を繰り広げる。
両盤とも希少なアルパムで、bassclef君宅でなければまず、耳にできないだろう。ありがたきは友人かな。
 



希少、と言えば、ボサノバの創始者、ジョアン・ジルベルトの初期の演奏も聴かせてもらった。
独特のギター弾き語りでつぶやくようなポルトガル語のささやき。乾いた哀愁。
ジャズとは本来別ジャンルだが、スタン・ゲッツとの共演『ゲッツ、ジルベルト』に聴くように、自然なコラボレーションができる音楽。軽やかだが、実は結構複雑に感じるこのリズムを「創り出した」とは、凄いことだろう。
bassclef君とsige君の、演奏者ならではのリズム談義が弾む。

このCD、ジルベルトの発売拒否により廃盤、現在は高値を読んでいるという。

 
そのほか、マイルスとの共演つながりでヴィクター・フェルドマン(p)、キャノンボール・アダレイ(as)の快演を愉しんだり、
ネコパパ持参のトミー・フラナガン(p)晩年の作『シー・チェンジス』を名盤『オーヴァーシーズ』と聴き比べ、フラナガンの不変の技とドラムスのエルヴィン・ジョーンズの凄さに瞠目したり…

今回も存分に「音楽の散歩」を楽しんだ一日だった。
しかし、これもbassclef君の膨大な収集のほんの一部だ。次回はどんなお宝に出会えるか…
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コメント

コメント(4)
No title
やあ、yositakaくん!先週の音聴き会~楽しかったですね。いつものことながら気心の知れた仲間との集まりでは、アッという間に時が経ちどれだけ時間があっても足りませんね(笑)
まや豊橋ならではの20分ほどの市電の旅もいいものでしょう(笑)

この前は・・・特に意図していたわけでもなかったのですが、ある意味「マイルス」がキーになって話し、掛ける音盤が展開していきましたね。しっとりしたピアノを弾くヴィクター・フェルドマンという人も才人ですね。
いくつかお聴かせした10インチ盤は~僕の手持ちの中では状態のいい方のもので、残りは枚数あっても盤質が厳しいものばかりです(笑)10インチ盤というのは、yositakaくんが
《形の小ささ、デザインの古い味わいが魅力で、並べるのが楽しい》と書いてくれた、将にその通りで、だから僕などはジャケット・盤質ともに厳しくても「その時代のプロダクツ」としての雰囲気だけでも味わいたく・・・少しづつ集めている次第です(笑)
ボサノーヴァも本当に素晴らしい音楽です。特にギター好きには堪らない何かがあります。
またいろいろと聴きましょう!

bassclef

2010/08/13 URL 編集返信

No title
コメントありがとう。
こうして聴き続けてみると、名盤にはそういわれるだけの何かが確かにあります。
帰宅した聴いた『モダン・ジャズ・ジャイアンツ』に入っていた『ラウンド・ミッドナイト』には、出だしの漆黒のパワーがなく、注目されない理由がわかります。でも、これだって後半は引けをとりません。
強い個性や目立ったところがなくとも、隠れた名演がある。bassclef君のコレクションを聴くと、それをつくづく感じますねえ。
これからもよろしく。お世話になります。

yositaka

2010/08/14 URL 編集返信

No title
yositaka君、今晩は。bassclef君の家へ伺いジャズを聴く会も今年で3年目。bassclef君がその時入手している新音源や、そのミュージシャンからつながる垂涎の音源にどんどん拡がり、今年もより楽しいひと時を過ごさせていただきましたね。僕自身は、もう何回も聞いていたはずなのに、フェルドマンのプレイがより立体的にかつ鮮やかに感じられ、今まで何聞いていたんだろうって思ってました。また、ジルベルトのCHEGA DE SAUDADE、淡々としたなかに生まれる哀しさがそこはかとなく生まれ出てくる音源でした。bassclef君に感謝。こつこつと、この会が続けていけることを願っています。

toy**ero

2010/08/15 URL 編集返信

No title
>淡々としたなかに生まれる哀しさ
まさにそんな感じですね。sige君。
さて、今日の新聞に、マイルスのことを
>漆黒の生地に、おそるべき精密さで金色の糸を縫いつけていくミシンのように鋭利な音
と表現する平野啓一郎の文が引用されていました。
すごい表現ですが、論客の主観的な文言にハメられて、聴き手にフィルターが掛かってしまいやすいのもこの分野の特徴と思います。
虚心に耳を傾けたいものですね。

yositaka

2010/08/15 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

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