増田さんの語る「本で繋がる旅人たち」

【☆講座資料1】講座ちらし_page-00010
増田氏、一気に70分しゃべり、そのあとは、元小学館児童書編集長で児童文学評論家の、野上暁氏と対談しながら参加者からの質問に答える、という流れで進みました。
大変面白い講座でした。

相手の顔が見えないZoomに、当初はちょっとやりにくそうだった増田さんでしたが、「後ろにこれまでに出会ったたくさんの子どもたちが後押しをしてくれる」と徐々にペースが上がっています。「編集者講座」というからには、リスナーはその筋のプロが多いのでは、と思ったのですが質問内容から考えると、ほぼ一般の子どもの本に関心のある方々だったようです。

お話は、書店経営、子どもの本をめぐる状況、お薦めの本の紹介、と概ね3つの柱で展開しました。
まずは書店経営、一言で言えば「厳しい」の一言ですが、大人の本に比べて子どもの本の売り上げはやや増加、個人経営の個性的な書店の形態も徐々に増えつつあることはひとつの希望。
ただ、子どもの本専門店が続々生まれた70年代後半の盛況とは、大きく様変わりしている。そんな中で大切にしたいのは、書店の独自性を生かすこと。「メリーゴーランド」はその独自性で生き延びてきた。選書は取次を頼まず、増田さんを含めたスタッフが行う。書棚スペースが限られた中で、特に子どもの本は「ロングセラー」を欠かさないことが大切。再販制度に支えられた新刊中心主義は馴染まないことを強調された。
スタッフの一人が強く推せばそれは取る。おもしろかったのは、増田さんがあまり評価しなかった、かがくいひろしの絵本『だるまさんが』をスタッフの強い「推し」で入れたところ大ベストセラーになった話。師匠の今江祥智さん譲りの増田さんの「美学」が意見の違いを生み出したのでは、とネコパパは想像したのですが、さて、どうでしょう。

子どもの本をめぐる状況についての話で印象的だったのは、読書活動のひとつのキーワードというべき「読み聞かせ」について、増田さんが懐疑的な姿勢をお持ちだったことです。
「読み聞かせ」には「冷めた空気」があるという。
「もちろん幼児には必要」と認めたうえで、多人数に向けての読み聞かせはよろしくない。読み聞かせるより語ること、それも、よく読んだ大人が「全身全霊」で語ることが大事と力説される。子どもたちを惹きつけるのは、本の内容以上に「語り手が身にまとう空気」だから。冷めた空気で人は動かない。
増田さんは先日、乞われて450人の中学生の前で、「全身全霊」で語ったそうです。その話に反応し、拍手喝采する中学生を見て、増田さんは「彼らは物語を求めている。ただ、出会っていないだけ」だと思ったそうです。
「生半可ではない執念」で子どもの前に立ち、聞き手に「自分の中にある目に見えない世界」にいく面白さを体験させる。そんな増田さんの語りの根源は、創造力、ときには捏造力、ということになるでしょうか。そんな子どもと大人の読書環境を育てるために増田さんは、評論の活性化、読書会、特に古典の読み込み、子どもがひとりで行ける居場所づくり、とさまざまに提案します。本屋さんもその大事な居場所のひとつです。

増田さんの話のあちこちに「本の紹介」がありました。
少年時代の愛読書『コンチキ号漂流記』、ゆっくり読むことの大切さを伝える『白鯨』そして、増田さんの話にはいつも登場する絵本『よあけ』、日本中で一番多く売ったと自負する『はてしない物語』これと『お話を運んだ馬』は本屋さんが重要なモティーフであり、増田さんにとって特別な一冊になっているようです。
そして最近の本からは…
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ある時増田さんは、イギリスのある書店に『ハリー・ポッター』のシリーズがずらりと平積みにされているのを見てびっくりしたそうです。
「何でこんな本ばかり…ここは『トムは真夜中の庭で』を生んだ国でしょう、あれはどうしたの」
思わず聞いた増田さんに、書店の女性店員は本棚の上の方を指さしたそうです。そこには『トムは真夜中の庭で』の初版本が飾られていて…二人はたちまち意気投合。
「同じ本を読んだ人は、世界のどこにいても、いっしょに旅をした人と同じなんです」

この世界を本で繋がる旅人でいっぱいにしたい…そんな熱情が、増田さんの中には今も赤々と燃えているようでした。「メリーゴーランド」は間もなく開店50周年。そのときには記念のワインを出したいそうです。それはきっと、いかにも増田さんらしい「赤ワイン」のような気がします。きっと買いに走ります。


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コメント

コメント(2)
ハリー・ポッターにはそれなりの価値ありと思います
ハリー・ポッターの第1作の邦訳版は1999年でしたけど、みっちは「ふーん」という感じで、とくに気に留めていませんでした。そのうち第2作が出てこれも評判になっていると聞いたのですが、ここでもまだ、「さぁて」というところ。
転機となったのは、偶然第3作のアズカバンの囚人の英国ペーパーバック版を手にしたときでした。これは引き込まれましたね、あの第3作はシリーズ中でも、最高の傑作だと思います。以来、英国で発売されるハードカバー本を買い、読み耽りましたが、あのときのカタルシスは再現しませんでした。まぁ、それはともかく、みっちはハリー・ポッターには好意的です。
むろん、ピアスの「トム…」は傑作ですけど、そもそもジャンル違い(笑)、ピアスの名文(分かりやすく簡潔にして意を尽くした文体、理想の文章)と感情の機微はその世界で味わうものかな、と思っています。

みっち

2024/02/09 URL 編集返信

yositaka
Re:ハリー・ポッターにはそれなりの価値ありと思います
みっちさん

『アスガバン』いいですか。私は1冊目を読むのが大変しんどく、2冊目もようやくのことで読み終えたくちなので、増田さんの想いには賛同です。ただ3冊目以降はわからない。
『ハリー・ポッター』の邦訳の出たのは2001年頃、初めは全く話題になっていませんでした。それが人気となり、あの分厚い本をかなりの生徒が読むようになったのは驚いたし、嬉しくも思いました。「読み通す体験」は読書生活の第1歩だからです。
それから20年以上たっても、変わらず重版しているのは素晴らしいことだと思います。でもまあ、個人的には、敢えて勧めたい本とは思いませんね。

yositaka

2024/02/09 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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