子どもの本の現在(いま)―何をいかに選ぶか 

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国立国会図書館・国際子ども図書館の開催した、令和4年度児童文学基礎講座をZoomで受講しました。何回かに分けて、覚書と感想を述べたいと思います。

子どもの本の現在(いま)―何をいかに選ぶか 

講師は、YouTubeでもおなじみ、IICRO(大阪国際児童文学振興財団 )の土居安子さん。公共図書館、学校図書館で児童書を選ぶために考慮すること、実際にどんな観点で、どんな本を選ぶのかについて具体的な書名を出しながら、おなじみの早口で、情報量たっぷりのお話が進められました。

デジタル・ネイティヴの子どもたちに抗するために、図書館の役割は大きい。
紙でしかできないこと、物語に直接出会う意味を大人が再認識していくことが重要です。とくに絵本は「触ってめくる」見開きの価値は、今後いっそう求められることになるでしょう。
SNS、AIの時代への問題提起を行う本も多く出版されています。便利さとこわさの両面を伝えることが大切。

なぜ児童文学なのか?
言葉だけで紡がれた物語から、言葉の多様性、行間を読み取ることができるから、と土居さんはいいます。
近年は、ゲーム性、意外性だけで読ませようとする作品が多いのは疑問に思う、とも。いまこそ「なぜ、わざわざ」読むのかがわかる作品が子どもには必要である…これを前提に示されたのは、次のような観点です。

1 デジタルネイティブの子どもたちに-絵本から読み物へ
2 文学の面白さ
3 誰もが本の主人公
4 地球上で生きるということ
5 戦争とは?

3から4は、本講座の中核と言うべき内容で、3では障がい、多様な家庭環境、文化的背景に生きる子どもたちを描く作品が紹介されました。
4では、子どもたちもまた社会の一員という観点で、震災、災害、感染症問題、環境問題に意識を向ける作品が、
5では、今ここにある現状として、何をいかに語るのかに重点化した作品が数多く。

膨大な本が登場しますが「出たものを次々に」ではないところがすばらしい。要所要所に、土井さんの選択基準が伺われる一言があらわれるのです。

・幼少期のことを、作家がいかに細かく覚えていられるかが、作品成功のカギになる。
・学校で普及している「10分間読書」には、功罪もある。短い時間で読める作品ばかりが注目されることもそうだが、もっと問題なのは「死」「病気」の道具化だ。
・岩瀬成子の作品のすばらしさは、大人に都合の良い子を書かないこと。
・子どもたちに「何かを教えたい」のではなく、本を介して、大人と子どもが考えていけるもの、それでいて、肩の力を抜いた笑い-上質のユーモア-のある本を届けたい。

特に二つ目の指摘は、学校教師として「10分間読書」を先駆的に推進してきたネコパパとしては、なかなか耳の痛い発言でした。
現場の教師としては、読書の大切さは認識していても、その「中身」まではなかなか思い至らないのが現状だったからです。児童文学や絵本は、相当に読んでいるつもりのネコパパでも、読書週間などの行事や、国語の授業でわずかにふれる以外に、子どもたちに本を薦めるとなると…なかなかそれは、難題でした。
「死」と「病気」の道具化というのも鋭い言葉です。いわゆる「泣ける本」を売りにするやり方で、明治時代以来の「ベストセラーの条件」みたいなものでした。それだけ人の本質をついているわけです。もちろん「道具化」にならない道はあるはずですし、大人にもそれを見極める「眼力」が必要なのでしょう。

今回土居さんが例に挙げた膨大な作品、ほとんどが未読だったのは情けない。あれから書店や図書館に出かけた時には、話に出てきた書名に気を付けているのですが、正直、なかなか出会えません。
紹介図書のリストはこちらに。

おしまいに、ネコパパが是非読んで見たい、あるいは再読したい本、土居さんのカテゴリー順に挙げておきます。
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「かわいい子ランキング」は、タイトルや見た目で「ちょっとこれは…」と思っていた本でしたが、土居さんのお話で、俄然読みたくなりました。
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岩瀬成子さんの本は、なんと5冊もリストアップされています。当然と思います。結構新刊の出るスピードが速いので、追いかけるのが大変!でも、ネコパパは、デビュー前からのファンですので…
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エミリー・ロッダは「リンの谷のローワン」シリーズの作者ですね。
あのシリーズは、フアンタジーの世界観の構築がすばらしく、好きでした。中にはローワンのひどいアレルギー体質を、力に転化する話があって、猫アレルギーならぬアレルギーネコのネコパパは、とても勇気づけられました。こんなシリアスな本もあるのか…
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富安陽子さんの新シリーズ。
傑作の予感が。ご本人は「こんな本、読む人がいるんでしょうかと心配です」とおっしゃっていましたが、そうなるとますます気になります。
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土居さんのお話で最も気になった本です。本を「読ませたい」先生が出てきて、子どもたちがとても迷惑がる話だそうです。えっ、それって、誰のこと?
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シヴォーン・ダウトは、「ボグ・チャイルド」が素晴らしく印象的で、凄い作家が出てきたと思ったのですが、惜しくも47歳で夭折されました。これは未訳だった1冊。
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二人とも読んだことのない作家さんです。でも、表紙を見ただけで何だか凄い問題意識とパワーが感じられて…
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これは、福音館から出ているあのユリー・シュルヴィッツの名作絵本「Dawn」のリメイク版なのでしょうか。何とも大胆な…でもきっと、それだけの意図があるはず。
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表紙に大きく描かれているのは、アフガニスタンの伝統楽器ルバーブとのことです。難民問題を背景として、この楽器の争奪戦が展開される物語…先週本屋さんで見つけました。






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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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