カール・シューリヒト、紹介記事へのコメント。

先ごろこんなCD-BOXを購入した。「カール・シューリヒト秘蔵ライヴ」と銘打たれた6枚組である。
発売は知っていたが購入は躊躇していた。入手を決めたのは、楽天セールとかで47%OFFで売られていたからだ。溜まっていた楽天ポイントを加えると…ま、これならという価格に落ち着いた。それで、ぽちっと。
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KING INTERNATIONAL KKC-4222/7 Remastering(P) & © 2020 KING INTERNATIONAL

CD 1
ハイドン:
1. 交響曲 第86番 ニ長調
2. 交響曲 第104番 ニ長調 「ロンドン」
モーツァルト:
3. 交響曲第40番ト短調 K.550
北ドイツ放送交響楽団(1)/シュトゥットガルト放送交響楽団(2)/ヘッセン放送交響楽団(3)
録音:1961年(1)52年9月10日(2)63年3月20日(3)(ライヴ)

CD 2
ベートーヴェン:
1. 交響曲 第1番 ハ長調 作品21
2. 交響曲 第7番 イ長調 作品92
シュトゥットガルト放送交響楽団
録音:1961年3月7日(1)52年10月24日(2)(ライヴ)

CD 3
ベートーヴェン:
交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」
フランス国立放送管弦楽団、合唱団
マリア・シュターダー(ソプラノ)、カタリナ・マルティ(アルト)、ヴァルデマール・クメント(テノール)、ハインツ・レーフス(バス)
録音:1954年9月12日 モントルー音楽祭(ライヴ)

CD 4
1. メンデルスゾーン:交響曲 第4番 イ長調 作品90「イタリア」
2. ワーグナー : ジークフリート牧歌
3. R.シュトラウス:交響詩「死と変容」作品24
シュトゥットガルト放送交響楽団
録音:1954年1月28日(1)、55年9月27日(2)、54年5月20日(3)(ライヴ)

CD 5
ブルックナー:
交響曲 第5番 変ロ長調
ヘッセン放送交響楽団
録音:1959年2月27日 (ライヴ)

CD 6
ブルックナー:
交響曲 第7番 ホ長調
デンマーク国立放送交響楽団
録音:1954年9月30日 (ライヴ)

生誕140年を記念して、25年ぶりの再発売とのことである。
ネコパパは当時は1枚も買っていない。シューリヒトの発掘音源と言われれば、もちろん気にはなったが、イタリア・アフェット原盤、というのに、ちょっと引っかかった。聞いたこともない社名である。
当時はそろそろ、ヒストリカルものでも放送局音源(オーソライズド音源)を使った「正規盤」が出始めた頃で、今さら、出所怪しいイタリア原盤の製品を買わなくても、と思ったのだろう。しかし、中には現在に至っても正規音源が日の目を見ないもの含まれ、今回のセットはそういった音源を選んでいるようだ。この指揮者に関心を持って半世紀、未だにはじめて聴く音源が埋もれているというのは、嬉しくも、複雑な気分である。
1枚目のハイドンの86番、冒頭をしばらく聴くだけでもう、ワクワク感が止まらない。
早めのテンポできちっと鳴らす。それだけのことなのに、音に神経が通っていて、だれとも違うのだ。老指揮者に使うのはおかしいけれど、こういうのを「いなせ」な演奏と言うのかもしれない。どんどん聴きたくなり、聴いても胃もたれせず、しかも冴えた音楽を聴いた後味が残る。オーケストラの音は、とりたての土付き野菜のように、ラフだ。アンサンブルも整然としない。でも、決め所は決して逃さない。
いつになく緊迫と熱気を孕むベートーヴェン「第7」、優美な流れの中に鋭い譜読みをちらつかせる「イタリア」、音楽の持つ魅力が初めて開示されるかのような「死と変容」など、今回も発見の連続だ。
まだ全部は聴いていないけれど、音質は予想以上に良好。

さて、ブログを通じて交流しているHIROちゃんさんが、シューリヒトのコレクションを紹介する連載記事を完結された。これにはネコパパも毎回コメントを書いたので、覚書のつもりでここにまとめておきたい。
ワルターの時にも書いたが、HIROちゃんさんのコレクションは、膨大ながら整理が行き届き、発売当時の形態をとどめていて資料的価値も高い。これに比べるとネコパパのはあちこちに散在して、扱いも適当で到底人に見せられるものではない。ぜひ、元記事の方もご覧いただきたい。

ブルックナー交響曲編
シューリヒトのブルックナー
シューリヒト、いいですね。ブルックナーの9番は東芝から出た2枚組の「セラフィム名曲ダブル」、3番との組み合わせでした。それまで9番はワルターのものしか聴いたことがなかったので、フレーズ間切り返しの素早さと、瞬時の切込みが続く第1楽章、疾風のような第2楽章、一筆書きのような歌い口で始まり、澄んだ清流のように流れる第3楽章にすっかり夢中になりました。最後のピチカートが鳴ったあとも、名残惜し気に数秒音を伸ばすホルンなど、まさに演奏解釈の奥義を聴くと言ってもいいでしょう。
あとは、シューリヒトの名前を見聞きすると、いてもたってもいられなくなる。今もそれは続いていて、先日も初登場のバーゼル交響楽団との2枚組CDを入手して、さていつ聴こうかと思っているところです。
彼のブルックナーは曲ごとに別の世界を見る思いです。
第8番を宇野重吉の飄々の芸に例えるとは、さすが慧眼のシュレーゲル雨蛙さん。第3楽章の「さらっとフォルティッシモ」なんて、まさにそれですね。
私は音の響き方が他とはまるで異なるハーグでの7番も好きです。それから、目まぐるしいほどのテンポの変転を繰り返しつつ、フイナーレの凄絶な盛り上げに持っていくウィーン・フィルとの第5番も。
ただ、病み上がりの体調で無理して演奏した第3番だけは、ちょっと聴いていて辛いものがあります。録音後、シューリヒトは40度の高熱をだしてしまったとのこと。
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モーツァルト編
シューリヒトのモーツァルト
シューリヒトのモーツァルトと言えばパリ・オペラ座との「プラハ」で、第1楽章展開部の音が次々と重なって響きの構築がなされるところと、第3楽章の疾風のようなテンポ感が印象に残ります。「これだ」と思いましたね。彼はこの曲を得意にしていて、ウイーン・フィル、ベルリン・フィルともやっていますが、その都度新しい表現にチャレンジしているところが聴きものです。
隠れた演奏で、ドレスデン・フィルとの2曲があります。これをHIROちゃんさんがフォローしているのはさすが。初出盤はベルリン・クラシックで、初めて見た時は驚きました。曲も良く、演奏も絶好調です。同じ時期にハイドンの交響曲第104番も演奏していて、ごく短い時間ながらYouTubeでその動画が見られます。全曲は残っていないんでしょうか。

ここにリストアップされていないものでは、1956年1月26日にザルツブルク音楽祭でウィーン・フィルを振った交響曲 第23番(ザルツブルク音楽祭自主制作盤ISM56/3)と、1962年12月19日、シュトゥットガルト放送響との「ハフナー・セレナード」があります。「ハフナー・セレナード」は初出がイタリア盤ムーブメント・ムジカのLPで、のちに正規盤と思われる音源がALTUSからTALTLP-043/4として出ましたが、なぜかLPだけの発売でした。
CDはとりあえず、2曲ともVIRTUOZO94008という4枚組に含まれていますが、音質はあまり良くありません。演奏は素晴らしいものなので、ぜひ入手しやすい形で出し直してほしいものだと思います。
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ベートーヴェン編(交響曲他)
シューリヒトのベートーヴェン
さすがはHIROちゃんさん、網羅的にそろえておられるのに驚きます。ディスク・ルフランやリビングステージなどは、30年以上前、著作権がラフだったころのもので、今ではほとんど覚えておられない方も多いのではないでしょうか。
私も、パリ音楽院との東芝廉価盤LP「トレジャリー・シリーズ」を揃えました。
これは、フランス本国以外では世界唯一の単品販売でした。リアルタイムでも冷遇され、あまりプレスされなかったため、仏盤オリジナルは現在大変なプレミア価格がついています。お書きになっているように必ずしも音質が良くなく、余計にオリジナルに期待が集まるのだと思います。この独特の腰高の音になった理由は今も謎です。
その後に発売された仏原盤使用の独EMI盤LP、F669895/99は、5枚のLPに全曲収録という詰込み噴飯ものセットながら、意外に音にシャキッとした切れを感じます。
全曲中、第9だけはステレオ録音がありますが、モノラル盤とは別テイクという話もあり、油断がなりません。
演奏は「英雄」「田園」「第8」「第9」が絶好調と思います。その他の録音では、ステレオ録音のフランス国立管弦楽団との「英雄」が私もすばらしいと思います。その後いろいろと出た他の盤ですが、近頃は年齢のせいなのか、丁寧に比較する意欲が欠如気味です。
最近聴いたものでは、フランス国立管弦楽団との「田園」1963年ライヴ(Altus盤、ALT236)は演奏、録音とも魅惑的でした。
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ブラームス編(交響曲他)
シューリヒトのブラームス
ウィーン・フィルとの交響曲第2番を初めて聴いたときは驚きました。
第1楽章から、シューリヒトとは信じられない、変幻自在のテンポ感。それは彼のどの2番にも一貫していて、最後の演奏会を記録したシュトゥットガルト放送響盤でも、かなり目立たなくはなっていますが、同様です。私にはこの最後の演奏は感慨なしで聴くことはできず、かなり高価な値のついていた独アルヒフォン盤のLPも入手してしまいました。

あとは4番ですね。
バイエルン放送響、音質は今一つですが、代表的な演奏だと思います。
目まぐるしいテンポの変化による「怪演」と言えば、第1番、とくにフイナーレでしょう。このスイス・ロマンド盤もいいですが、のちの1959年のフランス国立放送管(Altus)、1962年のフランクフルト放送響(伊MELODRAM)とのものは一層「やりたい放題」です。
一般的には第3番も好評で、それは吉田秀和が唯一批評に取り上げた盤だから、ということもあるでしょう。インテンポでさらっとしていて、私には今一つ個性が感じられません。シュトゥットガルト放送交響楽団とのものもだいたい同じ印象でした。
バックハウスとのブラームスのピアノ協奏曲第2番はすばらしい。VPO盤は2017年に発売されたコンプリート・ボックス(DECCA483 1643)の音質改善に驚かされました。
スイス・イタリア語放送管とのライヴ録音(伊MC)もありますが、なかなか入手困難です。
「Nänie(ネーニエ)」はボックスセットに入っていました。まともに聴いてないのでぜひ拝聴しようと思います。
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シューベルト・シューマン・ハイドン他編

シューベルト、シューマン、ハイドンetc.
シューベルトの「未完成」は、テンポが定まらないということで、プロデューサーのジョン・カルショウから不信感を持たれ、Deccaとの決裂の原因となった因縁の曲。そんなエピソードがあると、ちょっと落ち着いて聴けませんね。確かに北ドイツSO、フランス国立放送O、比較してもみんなテンポが違っています。しかも、どれもいい。シューリヒトはこの曲にいろんな可能性を見ていたので、決してボケていたのではないと思います。
シューマンは第2です。Decca盤で真価を知ってから、この曲の大ファンになりました。フランス国立放送O(ALTUS)との演奏も素晴らしい。シューリヒトは「ライン」も得意でしたが、第2楽章ではヴァイオリンセクションを一部ソロにするという大胆な改変を行っています。これ、Decca輸入盤のCDの音が国内盤よりも劣化していて、多分オリジナルマスターテープが崩壊寸前なのかも。
ハイドンは名盤が多く残されています。
なんといってもフランス国立放送Oとの『ロンドン』(ALTUS)が傑作で、HIROちゃんさんも上げられている北ドイツとの「86番」も明晰で細部まで神経が行き届いた稀有な演奏です。
ヘンスラ―・ボックスは2セットとも買って喜んでいたら、あとでまとめ安価なワンボックスになり、悔しい思いをしました。でもそれにはDVDがついていませんから、まあいいか。余談ながらあのDVD、ヨハンナ・マルツィのファンは見ない方がいいですね。タバコ吸いながら、ガラの悪い感じでにコメントする彼女をみたら、千年の夢も覚めるかも。
ヘンスラ―のCDは、エコーが追加され、擬似ステレオ加工があるとかで、一部で不興を買っています。
確かに聴いてみると、曲によっては加工が気になるものもありました。そのせいか、このボックスは素晴らしい内容なのに、実はあまり聴いていません。いずれ、他のレーベル、例えばアルヒフォンの同一音源との音質比較をやってみようと思っています。
スクリベンダムのセットは箱のつくりがぐにゃぐにゃで出しにくい。
中身も「リンツ」など、肝心な録音が抜けていたり、「ブランデンブルク協奏曲」では音の欠落もあって、どうも信頼できません。音源の素性はどうなんでしょう。オリジナルからの唯一の制作ともいわれますが、少なくとも復刻の丁寧さには欠ける。シューリヒトに限らず、コンサートホール・ソサエティの原盤は、校訂作業を経た集大成盤が一刻も早く実現することを期待しています。
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コメント

コメント(2)
お恥ずかしい・・・
ご紹介ありがとうございます。
いやぁ~~~ ネコパパさんのワルターとシューリヒト愛には感服します。その他だとカール・ベームあたりも多分すごくお好きなんでしょうね?
私の聴き方はかなり適当で、感想は短評で内容が薄くいつも恥ずかしいのです。
この後は近いうちにクレンペラーや、フルトヴェングラーの記事になっていくのですが、架蔵音源もかなり多いので、聴き直しも限られたものしか出来ませんし、どんな投稿をしたらよいのか迷っています。
今後とも拙い投稿記事にコメントがいただけたらうれしいです。

追記・・・
迷ったのですがワルターのモーツアルト「魔笛」の購入予約をしました。
英語版ですが、「魔笛」を愛するHIROちゃんにとっては、やはりライブラリーとして聴かなければ・・と思った次第です。

HIROちゃん

2023/03/26 URL 編集返信

Re:お恥ずかしい・・・
HIROちゃんさん

いやいや、おかげさまでなかなかまとめて書けない、シューリヒトについての所感をまとめることができました。
ご推察の通り、ワルター、シューリヒト、ベームの三人がマイ・フェイヴァリッツ・コンダクターということになりますね。共通するのは個性を前面に打ち出さず、人間味に満ちいてる点でしょうか。クレンペラーや、フルトヴェングラーももちろん好きですが、雲の上の存在と言いますか、聴くときには威を正さないと、という感じです。
今後も続く壮大な指揮者企画、楽しみにしております。

ワルターの「魔笛」、英語歌唱ですし録音もぱさぱさしていて、スタンダードには遠いですが、ワルターの演奏を楽しむには十分かと思います。お聴きになった感想をぜひ聞かせてください。

yositaka

2023/03/27 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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