3月14日、パトリシア・コパチンスカヤのリサイタルを聴いてきました。
感想は…聴きながら思い浮かんだのは、なんと「アンパンマン・マーチ」の一節でした。
そうだ、嬉しいんだ、生きる喜び。
およそ現代音楽っぽい冷たさとは無縁な、ラプソディのように野性味たっぷりのシェーンベルクが、会場をただごとならぬ空気で染める。そして間を置かず、ベートーヴェンの7番のソナタが始まる。
いつのまにか、最初は履いていたサンダルみたいな履物を脱いで裸足になったコパチンスカヤ、息を潜めるような弱音で弾き始めるピアノと息を合わせるように、突き出すように鋭く、小声でささやくように音を音を放つ。
阿吽の呼吸、もう、笑っちゃうしかない、自由自在な表現。第1楽章の終わりでもう、こらえきれない聴衆から拍手が漏れる。第2楽章はノンヴィヴラートの糸のように細いロングトーンで始まり、でもときに弓を返しながらヴィヴラートも加えて膨らませる。歌う。うっとり聞いていると、突然の不協和なフォルテが肺腑を抉り、安堵のピチカートへ。第7番のソナタって、こんな多彩な曲だったのか。早口に囀る小鳥のような第3楽章を経て、ピアノとの掛け合いが快いフィナーレへ。ここでは表現力を競うよりも、夢中なおしゃべりを愉しむかのようだ。ヴァイオリンの、抉りを聴かせたスフォルツァンドの勢いが凄い。
後半の1曲目、ウェーベルンは1分ちょっとの小品4曲を続けて弾くもの。こんなに短いのに音数は多く、ひと弓の間にいくつもの音が数珠つなぎに。集中して聴くと、ギュッと凝縮された大曲に聴こえる。それぞれの曲想を巧みに弾き分けるコパチンスカヤ。
そうしてクライマックスは「クロイツェル」だ。大柄だがくり返しが多く、どこかまばらな印象もある「有名曲」が、この二人にかかると、骨までしゃぶりつくしたいくらい、美味な音楽に。
第1楽章は「第7番」と同じく変幻自在。聴き慣れた印象で曲を追っていくと、強いところは弱めに、さらっと通り過ぎていくところを雄弁に、はじめて聴くように新鮮だ。それに比べると、第2楽章、特に後半から第3楽章にかけては、彼女としては「王道」の歩みで進めていく。
コパチンスカヤの魅力の一つは、ピチカートの表現が多彩なこと。強弱も運指速度もさまざまに変化させて、思いがけない響きを聴かせてくれる。演奏中の仕草もまた魅力、音がそのまま、身のこなしに、身のこなしがそのまま音に、といった風情。とくにピチカートを鳴らすときの、踊るような身のしなりは、まさしく「目に見える音楽」だ。もう一つ好感度が高いのは、演奏中の感情没入が、顔に出ないこと。基本的にポーカーフェイス、そして終演後はいい笑顔がこぼれる。
ネコパパの列は1階平土間やや後方。同じ列の3人くらい置いた左横に、3年生くらいの女の子がひとり、最初はつまらなそうに座っていた。それが、演奏が始まるとだんだんと身を乗り出して、音楽に釘付けになっていき…ついには立ちあがって見入り聴き入り、終わると思いっきりステージに向かって手を振っていた。
ネコパパも、もうちょっと若かったらそうしたかったなあ。
アンコール曲は2曲で、1曲目はジョージアの作曲家ギヤ・カンチェリの「ラグ・ギドン・タイム」。これはラグタイムを細切れにしたような、面白い曲で、会場からくすくす笑いが出た。続いては…「後で聴くから、曲名を当ててね」と一言いって、ちょっとシューベルト風の小品を一曲演奏。会場から何かの曲名を言った人もいたが、返答はあっさり「No!」。答えは「ジェルジ・リゲティの…(聴きとれず)」
コパさん、そりゃ無理ですよ!
終演後はサイン会もあり、ネコパパ、サインを頂きながら一言、会話できました。嬉しい。こんな演奏会なら毎日でも聴きに行きたいね。お金がとても続かないが…

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コメント
裸足で弾くとはワイルドですね。
本人が弾きやすい形で弾くのがベストですよね。
サイン会もあったんですね。
それも嬉しいですね。
不二家憩希
2023/03/17 URL 編集返信良い演奏が聴けたときにサイン会があるのは嬉しいです。
サインも好きだけど、感動を直に伝えられるのがいい。開催は大抵リサイタルで、オーケストラの演奏会で指揮者がサインするなんてのはなかなかありません。
アマチュアオケでは稀に休憩時に指揮者がロビーに出てくることがあり、そんなときは蛮勇で声を掛けます。もちろん、演奏がいい時だけですが。
yositaka
2023/03/17 URL 編集返信