2023年 第3回 3月11日(土)午前10時~12時 (毎月第2土曜日開催)
今月のテーマ オペラの世界②ロッシーニ
< イタリア・オペラ名曲集 >
オペラはイタリア語で、もともとは「仕事」を意味する言葉でした。
16世紀末、フィレンツェで古代ギリシャの演劇を復興しようという運動が起こります。演劇には歌も取り入れられ、やがてギリシャ悲劇を歌うような台詞で上演するヤコポ・ペーリ(1561年 - 1633年)による『ダフネ』が1597年頃に登場し、これが最古のオペラと言われます。この楽譜は現存しません。ペーリの作として残るのは、数年後『エウリディーチェ』で、これが現存する者としては最初のオペラとのこと。しかし、今では上演されず、今も「現役」の価値を持つ最古のオペラといえば、1607年のクラウディオ・モンテヴェルディの『オルフェオ』ということになります。
この大作曲家の出現を機に、イタリア各地でオペラが上演されるようになり、当初は王侯貴族の娯楽として、ナポリで隆盛を極め、やがて経済力をつけた市民階級にその人気は広がり、現在まで続きます。オペラの歴史はイタリア・オペラの歴史と言ってもいいでしょう。
1 「セビリヤの理髪師」」序曲(ロッシーニ)
オルフェウス室内管弦楽団 Ⓡ1984
「セビリャの理髪師」は、フランスの劇作家、ボーマルシェの書いた風刺的な戯曲をもとにした、ジョアキーノ・ロッシーニ(1792 - 1868)作曲のオペラ・ブッファ。ボーマルシェは『フィガロの結婚』(第2部 1786年)『罪ある母』(第3部 1792年)と続編を書き、3部作としました。どれもオペラ化されています。
初演は、1816年ローマ。わずか2週間で作曲されたと言われますが、結果は成功で、現在でも頻繁に上演される人気作品です。悲劇が好まれるイタリア・オペラとしては、ドニゼッティ『愛の妙薬』とともに、数少ない喜歌劇として人気を博しています。
オペラ以上に演奏回数の多い、この序曲は、元来オペラ『パルミーラのアウレリアーノ』(1813年)の序曲として書かれ『イングランドの女王エリザベッタ』(1815年)にも転用されました。こうしたことは、速筆のロッシーニには日常茶飯事だったようです。
2 「猫の二重唱」(ロッシーニ)
フェリシティ・ロット(ソプラノ)アン・マレイ(メゾ・ソプラノ)グレアム・ジョンソン(ピアノ) Ⓡ1992
ロッシーニは、生涯に39のオペラを作曲し、絶頂期には、1年間に3~4曲のペースで大作を仕上げていたほどの速筆でした。実質の作曲活動期間は20年間に満たず、莫大な財産を手にした後は悠々自適の美食三昧、たまに作曲という、なんとも羨ましい生活を送っています。
悲劇を好むイタリアのオペラ作家としては、喜劇やハッピーエンド作品の比率が高い点でも異色で、特に浮き立つようなクレッシェンドを好んで多用。これはロッシーニ・クレッシェンドと呼ばれ、彼のいわばトレードマークでした。
『猫の二重唱』は、ロッシーニのオペラ・アリアの一つを他人が編曲した作品で、編曲者はイギリスのロバート・ルーカス・ディ・ピアソルとされています。
歌詞が猫の鳴き声(miau)をくり返すだけという愉快な曲で、しばしばアンコール曲として上演されます。
3「奥様女中」~「私の怒りんぼさん」(ペルゴレージ) テレサ・ベルガンサ(メゾ・ソプラノ)
アレクサンダー・ギブソン指揮 コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団 Ⓡ1960
ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ(1710-1736)は、イタリアのナポリ楽派オペラ作曲家。
33歳の短命な生涯に、甘美な旋律にあふれたオペラや、「スターバト・マーテル」など、宗教音楽の傑作を残しています。
『奥様女中』は、初のオペラ・ブッファ。
元来オペラ・セリア『誇り高き囚人』の幕間劇として作曲され、セットで1733年に初演されましたが、やがて本体とは切り離され、単独でヨーロッパ中で上演されるレパートリーになりました。
バロック音楽から古典派音楽への過渡期を示す作品で、主人ウベルトと、女中のセルピナとの、軽妙なやり取りで進められる演奏時間50分の作品です。
「私の怒りんぼさん」は、セルピナがウベルトが怒って外出しようとするのを制止して、「怒らないで静かにしていて」と歌う本作で最も有名なアリア。
怒りんぼったら怒りんぼ !
なんて高慢ちきな、だんなさま !
でも、あたしには通用しませんわ !
あたしのお許しがなけりゃ
口をきいてはダメ !
静かにしてらっしゃい !
しーっ、しーっ、おだまり !!
しーっ、しーっ、おだまりったら !!
4 「愛の妙薬」~「人知れぬ涙」(ドニゼッティ)
ベニァミーノ・ジーリ(テノール) ジョン・バルビローリ指揮 管弦楽団 Ⓡ1933
ガエターノ・ドニゼッティ(1797 - 1848)は、イタリアのベルガモに生れて同地で没したオペラの作曲家。ベッリーニとともに、19世紀前半のイタリアを代表するオペラ作曲家として人気を博しました。
この「人知れぬ涙」は、ドニゼッティ作曲のオペラ『愛の妙薬』の中で、テノールによって歌われる名アリア。
華やかな技巧と装飾を聞かせどころとした、それまでのオペラ唱法を転換させ、声域に応じて歌詞の内容をロマンテイックに歌い上げる、初のベル・カント・スタイルによるアリアと言われています。
第2幕で農民の若者ネモリーノが、村娘アディーナの流した涙を見て、自分への思いを感じた、という喜びが歌われます。
ひそかな涙が
あの女(ひと)の眼に浮かんだ
彼女は賑やかな娘たちを
羨んでいるようだった。
僕はこれ以上何を求めよう。
あの女は僕を愛しているのだ。
…
ああ、死んでもいい
それ以上なにをもとめようか!
ああ、死んでもいい!愛のために死んでもいい
5 「ノルマ」~「清らかな女神よ」(ベッリーニ)
マリア・カラス(ソプラノ) トゥリオ・セラフィン指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団、合唱団 Ⓡ1960
『ノルマ』 は、ヴィンチェンツォ・ベッリーニ(1801-1835)が作曲、1831年に初演された全2幕からなるオペラ。
ベッリーニは、ドニゼッティと共に19世紀前半のイタリア・オペラ界を代表する作曲家で、歌詞に対して緻密に心を配り、ベル・カント唱法を用いることによって、旋律に命を吹き込みました。
中でも「ノルマ」は、ソプラノ歌手にとって最も難度の高いオペラと考えられていて、「清らかな女神よ」はリサイタルなどでも単独で取り上げられることが多いアリアです。今回お聞きいただくのは、アメリカ生まれの伝説の名歌手、マリア・カラスによる録音で、カラスはこの曲について「全てのアリアの中で最も難しい」曲と語っていたそうです。
舞台は紀元前50年頃、ローマ帝国の支配下にあったガリア地方。帝国の支配を怒るトルイド教徒の巫女ノルマと、ローマ総督のポリネーオの愛の悲劇を描くストーリーです。「清らかな女神よ」は、ノルマの登場の場面で歌われる「平和への祈り」の歌です。
清らかな女神よ
どうぞ 地上に熱く燃えている火種を 鎮めてください
荒ぶる気配 猛々しい興奮を 和らげてください
地上に平和の安らぎを そそぎ込んでください
天を治める あなたの優しさで この地球を 包み込んでください
6 「道化師」~鐘の合唱(レオンカヴァッロ)
オトマール・スウィトナー指揮 ベルリン・シュターツカペレ、ベルリン国立歌劇場合唱団 Ⓡ1978
『道化師』は、ルッジェーロ・レオンカヴァッロ(1857- 1919)が作曲、1892年に初演された全2幕からなるオペラ。マスカーニ作曲の「カヴァレリア・ルスティカーナ」と並んで、リアリズムの手法に拠ったヴェリズモ・オペラの代表作さーとされています。
上演時間が短いこと、場面転換の必要がないことなどもあって、ヴェリズモのもう一つの傑作、「カヴァレリア・ルスティカーナ」と合わせて一晩で上演することが多く、その後はこの分野で人気作が出なかったこともあり、「ヴェリズモは始まった時点で頂点に達した」と言われることになりました。
「鐘の合唱」は道化師の前口上に続く開幕の場面。祭日、着飾った村人たちが待ち焦がれる旅回りの一座が、座長カニオを先頭にやってくる…
7<蓄音機再生>
「カヴァレリア・ルステイカーナ」~間奏曲(マスカーニ)
アーサー・フィードラー指揮 ボストン・ポップス管弦楽団 Ⓡ1936
『カヴァレリア・ルスティカーナ』は、ピエトロ・マスカーニが、同名小説に基づいて作曲した1幕オペラ。タイトルの意味は「田舎の騎士道」。シチリアの山間部を舞台とし、貧しい人々の暮らしと、三角関係のもつれから起きる決闘と殺人を描いた原作小説は、イタリアにおけるリアリズム文芸運動の典型的作品とされています。
オペラはこの原作に忠実で、楽譜出版社主催の1幕物オペラ・コンクールで優勝すると、マスカーニはたちまちオペラ界の寵児となりました。彼の作風は、友人でライバルだったプッチーニとは異なり、ロマンティックな要素が希薄で、評論家の受けも悪く、本作以外はほとんど上演されていません。
< 映像で楽しむ、オペラ「セビリャの理髪師」>
7「セビリャの理髪師」ハイライト(ロッシーニ)
チェチーリア・バルトリ(ロジーナ、メゾ・ソプラノ)
ジノ・キリコ(フイガロ、バリトン)
デイヴィッド・キューブラー(アルマヴィーヴァ伯爵、テノール)
カルロス・フェラー(バルトロ、バス)
ロバート・ロイド(バジリオ、バス)
シュトゥットガルト放送交響楽団
指揮 ガブリエレ・フェルロ
収録 1988年 ロココ劇場
医者バルトロは、両親を亡くした姪ロジーナの遺産を目当てに、彼女との結婚を企んでいた。彼女に一目ぼれしてセビリャまで追ってきた大貴族、アルマヴィーヴァ伯爵は、バルトロ邸の理髪師でもある何でも屋のフィガロを雇い、高貴な身分を隠しながら、ロジーナにあの手この手で愛を伝えようとする。
ロジーナも身分を隠した伯爵に好意を寄せるが、伯爵のアプローチに気が付いたバルトロにより、何度も妨害されてしまう。焦ったバルトロは、ロジーナとの結婚手続きを急ごうとする。果たして伯爵とロジーナの恋の行方は…
■私は町の何でも屋(フィガロのアリア)
伯爵の恋路を助ける理髪師フィガロのアリア。「俺は町の何でも屋 腕の立つ床屋 はさみ かみそりを自由に扱うように どんな頼み事も解決さ!」
■もし私の名を知りたいとお思いなら
バルトロが外出したのを確認すると、伯爵は身分を偽り「自分は貧しい学生でリンドーロという名前だ」と名乗り彼女への恋を歌います。
■不思議な万能の力を持つ…
フィガロは多額の報酬に目が眩んだフィガロは、伯爵に屋敷侵入の悪知恵を授けます。
■今の歌声は
伯爵の愛の歌を聴いたヒロインのロジーナによる名アリア(カヴァティーナ)。
■フィナーレ
金と変装を駆使してロジーナに近づこうとする伯爵一味と、ロジーナとの結婚を画策するバルトロ陣営が入り乱れ、ついに伯爵はロジーナに正体を明かします。一同は二人の結婚をついに認め、ハッピーエンドとなります。
さて、次回は…
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コメント
家内に「今日は、寝るかと思ったけど寝ていなかったね」と言われました。 ( ´艸`)
特に「道化師」~鐘の合唱では、普通の合唱がイタリア語(歌う言葉)で聴くと明るく・明瞭でドイツ語/日本語と明らかに違い。歌劇は、イタリアの感を強くしました。
歌劇の序曲は、耳蛸?ですが前回の「フィガロの結婚」の前編「セビリャの理髪師」の映像は、前回と同様に分かり易い字幕と役者の仕草で楽しめました。ロジーナ役の歌手の場面は、魅惑過ぎて目を閉じていましたが、聴き易いバルトリの美声に聴き惚れていました。
オペラ劇場の内部映像:豪華ですね。私が聴くならドレスコードのいらない、安い最上階の舞台を見渡せる席がいいですね。でもお金がかかるのでYOU TUBEにします。
チャラン
2023/03/13 URL 編集返信今回もご夫婦でのご来場ありがとうございます。
「セビリャ」は「フィガロ」の前日譚でしかも作曲は後、と錯綜してます。ロッシーニの作劇はモーツァルトと比べると単調で、歌を聴かせるオペラですね。名歌手揃いでないと退屈になりそうで目をつぶると寝そうなところもあります。今回視聴したシュトゥットガルト公演は上出来で、皆芸達者。バルトリは歌も容姿も抜群でした。
ロココ劇場は見たところ小ぶりで500人くらいのキャパに見えました。満席でも赤字でしょう。DVDの売り上げでカバーできてるといいのですが。
yositaka
2023/03/13 URL 編集返信