ヴィヴァルディ『四季』の世界初録音。

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ヴィヴァルディという作曲家が音楽史に姿を現したのは、比較的近年のことらしい。
片山杜秀氏がいつかNHKFMの『クラシックの迷宮』で話されていたことだが、第一次大戦後、イタリアの国家主義台頭の時期に、イタリア文化を昂揚する目的で、これまで光が当たっていなかった文化業績が掘り起こさた。ヴィヴァルディもその一つであったという。
今では誰もが知る名曲『四季』も、戦前は知られることなく、初録音はLPになってから…というのがネコパパの聞きかじりの知識で、当該のルイス・カウフマンの演奏もまた、NHKFMの番組で聴いたことがあるのだった。
ところが、先日mackeiさんとのLINEのやり取りでそれが話題となり、あらためて平林直哉氏の労作『クラシック名曲初演・初録音事典』で確認してみたところ、初録音はSP時代のベルナルディーノ・モリナーリの演奏と書いてある。慌ててネット検索したら、それは事実らしく、新忠篤氏のレーベル「グッディーズ」で復刻CD-Rも出ていることが分かった。で、早速取り寄せてみたわけである。

指揮者モリナーリは、オペラはあまり振らない人だったらしいが、ネット検索すると、結構たくさん写真が出てくる。イタリアでは名の知れた音楽家だったのだ。
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これは米CETRA-SORIA盤のSPからの復刻されたものという。
オリジナルは伊PALROPHONらしいが、さすがに入手困難なのだろう。ネット検索でも発見できたのは、CETRA盤のアルバム写真だった。
ごらんのとおり、既にアルバムタイトルは『四季』である(蛇足ながらヴィヴァルディの命名にあらず。彼は「春」「夏」「秋」「冬」の4曲を、12曲から成る協奏曲集のなかの冒頭4曲として書いた)。これからすると、CD-R裏の曲目表示もちょっとおかしい。3楽章構成の協奏曲が4曲だから…
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こちらはLPジャケットで、やはり米CETRA-SORIA盤。Discogsによると1955年発売とのこと。左下にイタリア録音、パテ・マルコーニ原盤とある。パテはフランスのレーベルだが…
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聴く前はどんな演奏スタイルなのか、想像できなかったけれども、小編成のオーケストラによる、すっきりとモダンな演奏で、あまり古さを感じさせない。躍動感に満ち、表情は多彩だが、濃厚さや粘りのない明快さが身上である。
「春」冒頭から早めのテンポが快適で、主題のリピートでぐっとテンポを落としてチェンバロを前に出す。このような大きな強弱と、チェンバロを大きくフィーチャーしたスタイルは、現代のコンサートで行ったとしても「これこそ本来のバロック音楽」として注目されるのではないだろうか。特に神出鬼没の弱音の使用には耳をそそられる。
そもそもチェンバロという楽器を、1941年という時点でこれだけ使いこなしていること自体、先進的だし、部分的にオルガンの響きも聞こえてくる。この曲の通奏低音としてオルガンを加えたのは、1970年のネヴィル・マリナーの録音が最初だと思っていたが、なんと、世界初録音の時点で、すでに使われていたのだ。
一方、ヴァイオリン・ソロは、合奏の一部という役割とみなされているのか、音量も控えめに収録されているが、それでも歌心は十分に伝わってくるし、明るい音色がイタリアっぽい。
この演奏でとりわけ目立つのは、緩徐楽章の遅いことだ。特に「秋」「冬」のそれが4分を超え、両端楽章の演奏時間を超えてしまっているのは、現在ではちょっと考えられないだろう。「秋」では、極限に落とされたテンポが、聴き手を夢うつつの世界に誘う。「冬」はもっと大胆で、くっきりとしたピッチカートを背景に、じっくりと弾き進むヴァイオリンソロの魅惑のメロディーに聞き惚れていると、なんとそれは、合奏によってもういちど反復され、再びソロで奏でられる。明らかに「編曲」だが、指揮者はこのメロディーが気に入り、一度だけの演奏ではもったいないと思ったのかもしれない。顔をしかめる人もいそうだが、ネコパパとしては「よくぞここまで」と拍手したくなった。



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コメント

コメント(8)
機械屋の楽しみ
ネコパパさん
中学の時名古屋市公会堂で聴いたヴィヴァルディの「四季」が、第2次大戦初期に録音され曲が戦後広まったとは知りませんでした。良い曲だから普通にSPもあると思っていました。

機械屋としては、ラベル番号(BB2043A→BB2048A・BB2048B→BB2043B)からSP6枚セットのアルバムで米ではオートチェンジャーで聴かれていたのではないでしょうか
マトリックス番号から第1楽章(3)は、第2楽章の録音後取り直した。
第4楽章を第3楽章より先に録音していた・・・と推測しています。
SPを聴いているとA面とB面の音圧の違いの多くは、聴いているか聴いていないかの違いと思っていましたが録音設定が変わると面毎に針の太さを変えないと・・・蓄音機は、大変ですね。

今、「四季」を聴くと音楽会に連れて行ってくれた亡き父を思い出します。

チャラン

2023/02/28 URL 編集返信

yositaka
Re:機械屋の楽しみ
チャランさん
なるほど。ずっとA面ばかりを掛けてからB面に移るのはオートチェンジャー仕様の証拠というわけですね。そこまでは気にしていませんでした。さすがは機械屋!
これはmackieさんから「四季」のSPはないのと聴かれ、とっさにコンサート・ホール盤LPが最初ではと思ったのですが、念のため調べてみると、これがあったのです。情報はどんどん更新されるから、昔の知識では駄目ですね。
米CETRA盤SPも、どうやら戦後の発売のようで、オリジナルのイタリア盤、そしてどの時点か発売されたかもしれないフランス盤を見つけるのは相当困難でしょう。
このCD-Rは新忠篤さんの自作アンプによる電気再生復刻と思われますが、なかなかいい音ですよ。低音もしっかり出ます。

yositaka

2023/02/28 URL 編集返信

最古の録音?
今まで聴いたことのある最古の録音は'50年代のイ・ムジチでしたが、'41年とは驚きです、
編曲された内容か、チェンバロが主旋律をなぞるところなど、通奏低音に未開な部分(本来、重ねないようにリアリゼーションする)はありますが、全般にはのちの演奏の規範にもなっているように思えます、
冬の第2楽章、合奏による反復はP.マスカーニのオペラ間奏曲風に聞こえました、しかしこれ以前に演奏例がなかった?とすれば「よくぞここまで!」ですね。

michael

2023/03/01 URL 編集返信

yositaka
Re:最古の録音?
michaelさん
1941年と言えば、バロック音楽も平気で大編成モダンオケで演奏していたころです。ブッシュ、ゼルキン、カザルスたちは、こういう音楽を演奏するときにはチェンバロの代わりにピアノを使用していました。フルトヴェングラーがピアノを弾いたバッハのブランデンブルク協奏曲第5番はたしか1950年でした。
そう考えると、1941年にこういうスタイルで演奏したのは大変なことだと思います。
しかもこの編曲は1927年に出版され、翌年にはアメリカ初演されたそうです。それがこの録音と同様のスタイルだったかはわかりませんが、モリナーリ、たいした人物です。もしこれがなかったら、大編成モダンオケでの「四季」がある程度演奏されていたかもしれません。「四季」の名が広がったのは1951年Decca録音のミュンヒンガー盤と言われていますが、これはドイツ風に堅い感触のヴィヴァルディで、モリナーリ盤のほうがその後の一般的な演奏にむしろ近いのではないでしょうか。

yositaka

2023/03/01 URL 編集返信

初めて知りました
ネコパパ様、素敵な記事をありがとうございます。
私もミュンヒンガー盤が「四季」が広まったと思っていたのですが、こんなに早くから録音されていたのを知って驚いています。
ヴィヴァルディの他の協奏曲などが録音されるようになったのは、つい最近のように思うのですが「四季」はかなり前より演奏されていたのですね。

こうして聴くと、ヴィヴァルディもまた時代と共に姿を変える許容性を持つ事が伝わって来ました。

よしな

2023/03/05 URL 編集返信

英文Wikipediaの記事
ヴィヴァルディ「四季」の英語版ウィキペディアを見ると、イタリアのヴァイオリニスト、アルフレード・カンポリが行った演奏が、フランス・ラジオ放送のアセテート盤に録られたのが1939年の始めで、これが最初となってます。
それで、これが収められているCDとして、「Pearl GEMM CD 9151」がリファーされています。
しかしどこを探しても、このCDのジャケット画像すら発見できません。これって、幻のCDなんですかねぇ。

みっち

2023/03/05 URL 編集返信

yositaka
Re:初めて知りました
よしなさん

こうして聴いてみると、オーソドックスと思っていたイ・ムジチの流麗な演奏も、多様な選択肢の中の一つの可能性だったことがわかります。
でも、あの演奏スタイルだったからこそ、ポピュラー名曲になったのでしょう。ミュンヒンガーももちろん、素晴らしいけれども、あれはまだ、クラシックファンの枠内にとどまりそうです。堅いから。
それと1941年盤に既に現れていた『四季』のタイトル。誰でも思いつきそうですが、大きく掲げるタイミングは重要だったと思います。「和声と創意の試み」から「春夏秋冬」では、インパクトに欠けますよね。

yositaka

2023/03/06 URL 編集返信

yositaka
Re:英文Wikipediaの記事
みっちさん

またも新情報が。1939年なら2年早いです。また一歩真実に迫りました。
放送用とすると、テープが残っていたのか、それともエアチェックなのか、
もっと詳しい情報が知りたいですね。
1941年に商品化されていたかどうかも気になります。
パールのCDはこれですね。
https://www.hmv.co.jp/artist_%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E4%BD%9C%E5%93%81%E9%9B%86_000000000034634/item_%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%83%E3%83%95%EF%BC%9A%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC1%E7%95%AA%E3%80%81%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%EF%BC%9A%E5%9B%9B%E5%AD%A3%E3%80%81%E4%BB%96-%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AA_269496
演奏団体は
Boyd Neel String Orchestra / Boyd Neel, conductor です。
ボイド・ニールでしたか。残念なことに広告には録音データがありません。
ライナーノーツが見られるといいんでしょうが、
今のところ入手困難のようです。

yositaka

2023/03/06 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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