ミケランジェリの『謝肉祭』and more.

PXL_20221023_123408838.jpgPXL_20221023_123452287.jpgPXL_20221023_123904994.jpg
ミケランジェリは録音をなかなか出さない人で有名だった。
演奏会もキャンセルが多く、ずいぶんとファンや関係者をやきもきさせたという。
レコード集めを始めてからのネコパパの記憶では、グラモフォンからドビュッシーとベートーヴェンのアルバムが同時に出たときに、随分と注目され、そのうちドビュッシーの「映像」「子どもの領分」が収録された盤のライナーノーツを吉田秀和が書いていたことを覚えている。
1971年のことだ。
FM放送でも何回か聴いた。
そのドビュッシーは、あらためて聴いても、硬質で磨き抜かれたクリスタルサウンドが美しい、ネコパパにとっても特別な一枚だ。ピアニスト自身も、真剣になって「録音芸術」を残そうとしているような緊張感が漲っている。特に「映像」の6曲がよかった。ドビュッシーのピアノ曲にあまり聴き馴染みのない人も、ミケランジェリの演奏なら「音の美しさ」だけで心を持っていかれるのではないだろうか。

その後もミケランジェリのレコードは、ごくたまにしか出なかった。

このシューマンの『謝肉祭』は、1975年の録音。今度はEMIだ。
国内盤ライナーノーツは、ネコパパの好きな評論家の三浦淳史が書いていて、「突然の新録音」と題されているのがミケランジェリらしい。ただし内容は、録音されたスイスのリゾート地トゥーンのことや、ミケランジェリの人柄を伝えるインタビューを中心にまとめられたもので、演奏そのものに関する言及は皆無である。

ネコパパは、シューマンのピアノ曲にあまり親しんでいない。
ちょっととりとめがなくて、聴いていてもなかなか頭に入って来ないのだ。
作家の村上春樹は、この『謝肉祭』がたいそうお気に入りのようで「遊びの極致にある音楽だけど、言わせてもらえれば、遊びの中にこそ、精神の底に生息する邪気あるものたちが顔を覗かせる」と書いている。
始まりは堂々としているが、聴いているうちに、様々な様相を見せるフレーズが、あちらこちらへと飛び回って、全体の流れがわかりにくくなり、でも最後は落ち着くべきところに落ち着く。なるほど、どこか村上春樹の小説とかさなるところがあるなあ。
『謝肉祭』は組曲で、「ピエロ」「アルルカン」「フロレスタン」「パピヨン」「ショパン」などと、面白そうな標題のついた20曲もの小曲でできている。けれどそれはドビュッシーの標題とは違って、個々の曲に、いかにもそれらしいイメージが浮かぶわけではない。いわば標題付きの絶対音楽だ。
ここでのミケランジェリの演奏は、ドビュッシーの時よりもずっとリラックスしていて、「磨き抜かれた完成品」を作ろうという意識はあまりないらしい。タッチは絶妙なコントロール下にあるとは思うけれど、それでも、遊園地で辻音楽士がかき鳴らす音楽…いや、そうじゃないな…近未来の遊園地で、精密に作られたアンドロイドが、大道芸人のいでたちで演奏しているような、と言ったらいいだろうか。強靭さのなかにもおかしみが感じられる。鋼のタッチと、おどけた感じが同居している。そんな不思議な演奏だ。
録音がグラモフォン盤よりもデッドで、鍵盤に近い感じなのも、そんな印象を生んでいるのかもしれない。

同時収録の「子どものためのアルバム」からの3曲の扱いも面白い。
アンコール的なものではなく、最初に2曲、最後に1曲と分けて収められていて、その配置は、カーニバルに「向かう道」と「帰る道」をあらわしているかのようで、センス抜群だ。とくに締めくくりに置かれた「冬の季節Ⅱ」の深い余韻。
ミケランジェリは、演奏会でもこのセッティングで演奏していたのだろうか。それとも、これを思いついたから録音したのかも?

このLPは最近中古店で買ったものだ。帰ってから、そういえばこれ、CDでも持っていたなあ、という気がしてきた。演奏は記憶に残っていない。こんなに良い演奏なのにどうして?
棚を漁って確認してみたら、これがビックリ。
持っていたのはEMIのARTシリーズの一枚。Ⓒ2004となっている。「子どものためのアルバム」も含めてLP全体が曲順通り収録されているのはいいが、なんと、その前に、1948年にモノラル録音されたバッハ/プゾーニの『シャコンヌ』と、ブラームスの『パガニーニの主題による変奏曲』が入っていて、計78分19秒の「お徳用盤」になっているのだった。
これじゃシューマンに行く前に疲れちゃうよなあ。


関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(2)
最も好きなピアニスト。
ミケランジェリは私が最も好きなピアニストです。
ピアノの腕前は最高ですし、見た目も物腰もカッコいい。
人間的に偏屈なのも魅力的です(笑)
それに音盤の数が極端に少なくて、私でも買い集められる(笑)

ギレリス、フランソワ、リヒテル等など、他にも素晴らしいピアニストはいますが、ミケランジェリは別格です。
ちなみにビル・エヴァンスは、マイルスにクラシックの音盤を推奨する際に、ミケランジェリの演奏をあげたそうですね。


不二家憩希

2022/10/25 URL 編集返信

yositaka
Re:最も好きなピアニスト。
不二家憩希さん

>音盤の数が極端に少なくて、私でも買い集められる(笑)

なるほど、全く同感です。海賊盤みたいなものの数はかなり多いですが、ミケランジェリの場合は録音が良くないと駄目ですから、その手のものはよほどのマニアでないと問題にならないでしょう。私の場合はこの『謝肉祭』とドビュッシー、それにラヴェルのピアノ協奏曲と言ったところでしょうか。あ、それとジュリーニと共演したベートーヴェンのピアノ協奏曲。3曲あるうちのとくに1番はいいと思います。

ビル・エヴァンスが褒めていましたか。タッチと音色の美しさの点で、両者はたしかに共鳴するものを感じます。薦められたマイルスは「ミケランジェリというイタリアのピアニストを聴くように薦められて、聴いてみると、本当に惚れ込んでしまった」と語っているそうですね。

yositaka

2022/10/25 URL 編集返信

コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR